165号 SUMMER 目次を見る
■目 次
■はじめに
近年、CAD/CAM装置で歯冠修復物をデザイン、加工するデジタルデンティストリーの技術が目覚ましく発展し、メタルオキサイド系セラミックス(ジルコニア、アルミナ)、ガラスセラミックス、コンポジットレジンブロック等の材料がCAD/CAM装置で加工され、審美的な補綴物として作製することが増加している。
このような流れの中で、平成26年度の診療報酬改定において、コンポジットレジンブロック(歯科切削加工用CAD/CAMレジン材料)で作製されたCAD/CAM冠が小臼歯において保険適用となり、4年近くが経過した。
各社から小臼歯CAD/CAM冠用ブロックが発売される中、当社からも「カタナ®アベンシア®ブロック」を発売し、超微粒子フィラーを加圧成形したプレス体にレジンモノマーを含浸・重合する方法で他にない特長的な材料として市場に浸透してきた。
さらに、平成29年12月、下顎第一大臼歯CAD/CAM冠が保険適用となり、保険診療においても脱金属・デジタルデンティストリーの流れがさらに加速している。
当社においても、大臼歯CAD/CAM冠用材料として、「カタナ®アベンシア®Pブロック」を開発し、平成30年1月に発売した(図1)。
本品は、「咬合力に対して歪みにくい機械的特性」「臨床で高い信頼性を有する接着性」を特長としており、以下に解説したい。
図1 カタナアベンシアP ブロック
■フィラー高密度配合技術による信頼性の高いCAD/CAMレジン材料
本品では、当社小臼歯用CAD/CAM冠材料である「カタナ®アベンシア®ブロック」と同様に加圧成形したフィラープレス体にレジンモノマーを含浸・重合させる技術を採用している。その中で、「カタナ®アベンシア®ブロック」にはない、フィラー高密度配合技術を採用し、機械的特性に優れた材料を開発することに成功した。
図2、3に本品の製法におけるフィラー高密度配合を可能にした技術を示す。まず、クラスターフィラーを含む粒径の異なる4種類のフィラーを採用して、加圧成形することでフィラーの高密度化を行った。
フィラーの粒度分布においてナノオーダー〜マイクロオーダーの広がりを持たせることで、フィラーが密に詰まりやすい設計としている。この高密度フィラー加圧成形体にCIP(Cold IsostaticPressing)による等法的な加圧を行うことで、さらなる高密度化を行っている。
CIPは、水圧によって100MPa以上の等法的な加圧が可能な装置であり、フィラー加圧成形体の高密度化に有効である。また、レジンモノマーの含浸・重合では、重合後の強度が高いレジンモノマーを採用し、機械的特性の底上げを図った。これらの技術によりフィラー含有率82wt%という特筆すべき高い値を実現した。
以下に、フィラー高密度配合によってもたらされる機械的特性について述べる。
1)曲げ強さ
下顎第一大臼歯CAD/CAM冠の保険の定義において曲げ強さは、240MPa以上とされている。
また、日本歯科材料工業協同組合の団体規格「CAD/CAM冠用歯科切削加工用レジン材料」(JDMAS 245:2017)においても大臼歯に適用できる材料は「タイプⅡ」とされ、この曲げ強さは240MPa以上という規格になっている。
レジン材料で、曲げ強さ240MPa以上を達成することは極めて高いハードルであるが、図4に示すとおり、本品は、フィラー高密度配合により曲げ強さ265MPaを達成している。
2)曲げ弾性率
本品の大きな特長として、高い曲げ弾性率が挙げられる。図5に示すとおり「カタナ®アベンシア®ブロック」のほぼ倍となる18GPaの曲げ弾性率を有している。
図6に示すように曲げ弾性率を高めることで咬合力によるクラウンのたわみが小さくなると考えられる。
一方、曲げ弾性率の低い材料では、咬合力によってクラウンが剥がれようとする力が大きくなり、辺縁部の漏洩・クラウン脱離のリスクが増すと考えられる。本品の曲げ弾性率をもとに、クラウン形態で垂直方向に加えられた力に対する歪みをシミュレーション計算した。
図7にシミュレーション条件と計算結果を示す。条件としては、支台歯のないクラウンを想定しているので、実際の臨床よりも厳しい条件と言える。しかし、計算結果において、直接力が加わる部分に歪みは見られるもののクラウン側面部分には大きな歪みが発生していないことが判る。
大臼歯では、小臼歯よりも大きな咬合力が掛かると考えられ、辺縁部の漏洩・クラウン脱離のリスクは、小臼歯の場合よりも高いと推定される。
シミュレーション計算の結果からも本品のように、できるだけ高い曲げ弾性率を有することで、臨床で考えられる予後のリスクに対しても安心して使える材料になると考えられる。
3)滑沢耐久性
本品は、フィラー密度を高密度で配合しているとともに、マトリックスレジンの硬度も高い設計としている。このことにより、口腔内において、咬合や歯ブラシによるクラウンの摩耗も少ないことが期待される。
図8に40,000回歯ブラシ往復摩耗前後の表面状態と光沢度を示した。
このように本品では、歯ブラシ前後の表面状態の変化が殆どなく、光沢度の低下も殆ど見られない。
一般にレジン材料では、表面の凹凸部に汚れが付きやすいと言われているが、この点においても本品は、安心して使える材料と言える。
図2 カタナアベンシアP ブロックの製法
図3 カタナアベンシアP ブロックの微細構造
図4 曲げ強さ
図5 曲げ弾性率
図6 曲げ弾性率とクラウンのたわみ
図7 応力ひずみ計算条件と結果
図8 歯ブラシ摩耗前後の表面状態と光沢度
■高精度・接着性により臨床に寄与するシステム
機械的特性・滑沢耐久性という材料自体の特長に加えて、ブロックを加工するためのCAD/CAM装置による加工プログラム、クラウンを接着するためのセメントの選択・術式も重要である。
当社では、ジルコニアや「カタナ®アベンシア®ブロック」で培ったノウハウ・実績を活かして、信頼性の高いシステムを提供する。
ここでは、支台歯形成〜口腔内でのクラウン接着までを解説する。
1)支台歯形成
図9に示したとおり支台歯の形成においては、マージンをディープシャンファーとし、鋭角な部分のない丸みのある形状とすることが重要である。
また、適切なクラウン厚さ・クリアランスを確保することが、後述する確かな接着力を発揮させる前提となる。
2)加工システム
図10に本品の加工で用いるカタナ®CAD/CAMシステムを示す。
本品の加工では「カタナ®アベンシア®ブロック」と同じシステム・プログラムを用いる。当社CAD/CAMレジン材料専用に開発された加工バー(カタナ®ミリングバー)により「カタナ®アベンシア®ブロック」と同様に最適化された加工精度・効率での加工が可能である。
これにより本品から作製した修復物は、「カタナ®アベンシア®ブロック」の場合と同様に歯冠形態の再現性と適合性に優れたものになっている。
3)接着システム
口腔内に合着する際は、グラスアイオノマー系セメントではなく、レジンセメントを使用する。いずれのレジンセメントを使用する場合においても、修復物、支台歯に付着した唾液、仮封材、仮着セメント等の接着阻害因子をしっかり除去することが重要である。
当社レジンセメントでは、セルフアドヒーシブセメントである「SAルーティング®プラス」、「SAセメントプラスオートミックス」と、歯質プライマー併用セメントである「パナビア®V5」、「パナビア®F2.0」が使用できる。特に保険材料であるCAD/CAMレジン材料においては、「SAルーティング®プラス」が推奨材料となる。
図11に「SAルーティング®プラス」で本品から作製したクラウンを接着する際の術式を示す。
確実な接着力を得るために修復物の内面に、小臼歯CAD/CAM冠の場合と同様にアルミナサンドブラストを実施する。修復物側は、リン酸エッチング、「クリアフィル®セラミックプライマープラス」で処理し、支台歯側は、「クリアフィル®ユニバーサルボンドクイック」で処理することにより、修復物・支台歯の両方に対して、高い接着力を得ることができる。
図12に本品を「SAルーティング®プラス」で接着した際の剪断接着強さを示す。
本品では、先に述べたフィラー高密度配合技術により接着面のフィラー比率が高く、「SAルーティング®プラス」が有するフィラー表面への高い接着性によって、より高い接着性が実現できている。
このように、高い接着力を有する術式を確立し、臨床においてより高い信頼性を有するシステムになっている。
図9 クラウン形成厚み、注意点
図10 カタナ® CAD/CAMシステム
図11 臨床における接着術式
図12 剪断接着強さ
■製品構成
本品では、サイズ12およびサイズ14の2種を製品ラインナップとして揃えている。
また、色調においては、A2LT、A3LT、A3.5LTを準備している。
■まとめ
本品は、フィラー高密度配合技術により高い機械的特性を有し、特に高曲げ弾性率を有することでたわみにくく、咬合力の大きい大臼歯においても歪みの少ない材料となっている。
また、当社レジンセメントとの組み合わせで、修復物・歯質の両方に高い接着性を有することで、より信頼性の高い修復が可能となると考えている。
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