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176号 SPRING 目次を見る

Clinical Report

咬合接触点を考慮しデジタル化により患者に寄り添ったインプラント補綴治療を行った一症例

東京都開業 甘利 佳之

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キーワード:Intra-Oral Scanner/Screw Hole/CAD/CAM

目 次

Ⅰ. はじめに

臼歯部1歯中間欠損症例に対する補綴には、可撤性補綴装置、歯支持あるいはインプラント支持の固定性補綴装置が用いられる。
今回6欠損部に対するインプラント治療を行いスイスにあるThommen Medical社の『SPI®Elementインプラント』の構造上の特徴であるスクリューホールのサイズを考慮し、IOSを活用したフルデジタルによる治療計画・抜歯即時埋入、インプラント補綴物作製を行い、良好な結果が得られたので、その概要を報告する。

Ⅱ. 症例

初診時46歳女性、左下奥歯が痛いと来院。6の自発痛が改善しないため来院した。既往歴として、全身的特記事項はなく、当該歯は4年前に感染根管治療を行った(図12)。
口腔内所見として、6の舌側歯頸部付近にサイナストラクトを伴った状態(図3)ではあったが、口腔内清掃状態は良好、歯周ポケットは全顎的に2~3mmであり、当該歯近心舌側のみ8mm以上のポケットが存在した。動揺は生理的範囲内であった。
X線所見では 6 近心舌側根尖相当部に達する部位にまでアクセサリーポイントが到達している状態が確認でき(図4)、CT画像でも近心根根尖周囲に骨吸収像を認める(図5)。
過去、近心頰側舌側根に破折線が確認されていたがプロービング値が正常、骨吸収も認められないため歯を温存していた。

  • [写真] 初診時パノラマX線写真
    図1 初診時パノラマX線写真。6にMBが装着されている。
  • [写真] 術前口腔内写真
    図2 術前口腔内写真。6に4年前に装着されたジルコニアクラウンが装着されている。
  • [写真] 術前口腔内舌側写真
    図3 術前口腔内舌側写真。近心舌側にサイナストラクトが発現している。
  • [写真] 術前デンタルX線写真
    図4 術前デンタルX線写真。試適したアクセサリーポイントが近心根根尖に到達している。
  • [写真] 術前CT画像
    図5 術前CT画像。近心舌側根に骨透過像が確認でき、ポイントが根尖まで達していることが確認できる。(プランメカPro Max® 3D:PLANMECA JAPAN株式会社)

Ⅲ. 治療内容

6は予後不良のため抜歯し固定性または可撤性の欠損補綴、全顎的歯周基本治療を行う計画を提案した。
インフォームドコンセントとして、治療計画について、それぞれの治療法の利点欠点、リスク、治療期間や費用、術後の管理、歯周治療の必要性を説明した。その結果、患者はインプラント治療を希望した。
治療として、インプラント治療前に歯周基本治療を行った。
インプラント治療の術前診査として、現在の口腔内状態をTORIOS®にて術前スキャン(図6)を行い、シミュレーションソフトウェア上でCTのDICOMデータと術前口腔内スキャンSTLデータのマッチングを行った(図7)。
CT撮影時はリトラクターにて上下口唇・頰粘膜、そして追加として舌側にロールワッテ等を設置し、できる限り粘膜を排除した歯槽骨が綺麗に映る撮影を心がける方が、後のマッチングを行う際、容易となる。
術前スキャンSTLデータをラボに送信し、抜歯した状態を想定し、歯の削除および抜歯窩を想定したデータを作製(図8)。
術前の口腔内スキャンSTLデータと抜歯窩を想定したSTLデータをシミュレーション上で追加マッチングを行い下顎管の位置およびインプラント体と上部構造の粘膜移行部位を考慮しインプラント体を配置、埋入計画を立案・設計した。この際、スクリューホールが咬合接触点の部位とならないよう補綴設計のことも考慮する。
SPI®インプラントは補綴物のスクリューホールが小さいため、想定が容易である。
埋入予定部位の骨上縁から下顎管上縁までの距離は13mmあり9.5mmのインプラント埋入が可能と判断した(図9)。
設計したプランから、抜歯窩を想定した3Dデータにて3Dプリントガイドを作製した(図10)。
治療手順として、歯周基本治療後抜歯(図11)、最終ドリル手前までガイドを使用しインプラント窩を形成、最終ドリルをフリーハンドにて使用しインプラント埋入を行った。
近遠心の頰側歯間乳頭部歯槽頂切開の後、歯肉弁剥離を行い通法に従い、6 にインプラント体(Thommen Medical社製SPI® ELEMENTφ5mm、長さ9.5mm)を埋入し(図12)、抜歯窩に2種類の骨補填材(β-TCP)と歯周組織再生誘導材料を混合填入し、非吸収性メンブレンで被覆し粘膜骨膜弁で閉鎖した(図1314)。
埋入後28日、非吸収性メンブレン遠心断端は露出していたが術後経過は良好であった(図15)。
同部位にテンポラリーアバットメントを装着、カスタムヒーリングキャップを作製し、さらなる粘膜の治癒を待った(図16)。
インプラント体埋入後3ヵ月、カスタムヒーリングキャップが装着された口腔内をTORIOS® にて予備スキャンを行う(図17)。この際、スキャンボディを装着すると、隣接面の綺麗なスキャンが難しくなるため、隣在歯の隣接面をしっかりスキャンしておくことが重要である。
カスタムヒーリングキャップを外し、直後に粘膜の追加スキャンを行う(図18)。そして、隣接面と粘膜の表面をデータロックしておくとデータのズレを予防できる。
その後スキャンボディを装着し、スクリューホールをマスキングテープ等で閉鎖し、トップの部分を平坦窩させるとスキャンしやすい(図19
粘膜部分の確定データをラボに伝えるために、ラボアナログにカスタムヒーリングキャップを装着しスキャニングする(図20)。これにより作製した粘膜貫通部の形態を歯科技工士に正確に伝えることができる。
スキャニングしたデータを使用し、CAD/CAMによりモノリシックジルコニアを用いて上部構造補綴物を作製した(図21)。
シミュレーションソフトにて上部構造補綴物とインプラント体の移行部を考慮し、インプラント体を埋入したため、隣在歯と移行的な上部構造を装着することができた(図22)。
対合歯との咬合接触点を考慮していたが、インプラント体埋入時に患者が噛んでしまったため、近心傾斜してしまった。しかし、スクリューホールが従来のものより小さいため、大きなトラブルとは至らなかった(図2324)。

  • [写真] 術前スキャン画像
    図6 術前スキャン画像。TORIOS®にてスキャンしたこの画像から、抜歯想定画像をラボにて作製。
  • [写真] 3D重ね合わせ画像
    図7 3D重ね合わせ画像。CTのDICOMデータとTORIOS®のSTLデータのマッチング。
  • [写真] 3Dトリミング画像
    図8 3Dトリミング画像。抜歯前のデータと抜歯後のシミュレーションデータをマッチング。
  • [写真] 術前シミュレーション
    図9 術前シミュレーション。現在の補綴物から下顎管までの距離を考慮しインプラント体の配置設計。
  • [写真] 3Dガイド
    図10 3Dガイド。抜歯シミュレーションされたSTLにてガイド作製。
  • [写真] 抜歯後パノラマX線写真
    図11 抜歯後パノラマX線写真。6抜歯窩が温存されていることが確認できる。
  • [写真] インプラント埋入
    図12 インプラント埋入。根間中隔部位に頰舌側的理想的な部位に埋入されている。
  • [写真] インプラント埋入後
    図13 インプラント埋入後。非吸収性メンブレン設置後、縫合後。
  • [写真] 埋入後パノラマX線写真
    図14 埋入後パノラマX線写真。オトガイ孔・下顎管を考慮しインプラント体が埋入されている。
  • [写真] 非吸収性メンブレン除去前
    図15 非吸収性メンブレン除去前。埋入後28日、遠心のメンブレン断端が露出している。
  • [写真] 印象前HC
    図16 印象前HC。カスタムヒーリングキャップを作製、装着されている。
  • [写真] 予備スキャン
    図17 予備スキャン。HC除去前にトリオスにて口腔内スキャンし、隣接面印象を含んだ下顎をスキャン。
  • [写真] 印象前
    図18  印象前。カスタムヒーリングキャップ除去画像。この状態で一度TORIOS® でスキャン。
  • [写真] 本スキャン
    図19 本スキャン。スキャンボディを装着しインプラント体の位置をスキャンする。
  • [写真] カスタムHCスキャン
    図20 カスタムHCスキャン。ラボアナログにカスタムHCを装着し、カスタムHCの形態をスキャン。
  • [写真] 上部構造
    図21 上部構造。作製されたスクリューリテインモノリシックジルコニアクラウン。
  • [写真] 術後左側方面觀
    図22 術後左側方面觀。歯頸部補綴形態が移行的で、角化粘膜も温存されている。
  • [写真] 術後咬合面観
    図23 術後咬合面観。上部構造が装着され、近心舌側咬頭内斜面にスクリューホールがある。
  • [写真] 術後パノラマX線写真
    図24 術後パノラマX線写真。6インプラント体に上部構造が装着されている。

Ⅳ. 経過と考察

上部構造装着後1ヵ月、その後は3ヵ月ごとにメインテナンスを実施。現在、X線所見と口腔内所見にて、インプラント部および残存歯ともに異常所見は認められず歯周組織も良好な状態である。
長期にわたって咬合を安定させ機能させるためには、今後も定期的なメインテナンス行う必要がある。

Ⅴ. 結論

 IOSを活用し術前の治療計画立案、術後のデジタル印象を用い、単独歯中間欠損にインプラント治療を応用することは、隣在歯の保護、咬合負担の軽減を図りながら、良好な咀嚼機能の回復に有効な治療法であることが示唆された。

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