176号 SPRING 目次を見る
キーワード:診査機器の有用性/抜歯即時埋入/SMILEテクニック
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 審美領域におけるインプラント治療
- ≫ 診査機器導入の経緯
- ≫ SMILEテクニック
- ≫ 症例供覧
- ≫ まとめ
はじめに
近年歯科治療においてインプラントを用いた修復はうまく利用すればかなり有効な治療オプションのひとつである。
今回、インプラント修復治療の中で審美性が必要不可欠とされる上顎前歯部症例にCTとオステルをどのように利用して治療しているかを報告する。
審美領域におけるインプラント治療
本稿では、両隣在歯を触ることなく修復してほしいとの希望から義歯、接着ブリッジ、インプラントの修復の中からインプラントによる修復を希望された症例を供覧する。
審美領域におけるインプラント治療は患者の満足を得るには非常に難易度が高い。そこで治療の方法が重要なポイントとなる。
今回は低侵襲で治療可能な抜歯即時埋入による治療を選択し初期固定が得られれば即日にプロビジョナルクラウンを装着する治療を計画した。
抜歯即時埋入による治療は正確なインプラントのプレイスメントが非常に難しく、術前のCTによる診査が重要になる。
また、埋入時にはドリリングが難しく専用のドリルを用いて埋入し初期固定をしっかりと得たうえでの埋入か、即日でのプロビジョナルクラウンの装着を行う。
その初期固定の度合いを計測する器具として有効なのが埋入トルクが記録できるインプランターの「iChiropro」とインプラント安定度が計測できる共振周波数解析装置「オステル」である。
診査機器導入の経緯
まず、CTによる診査では筆者は2005年から他社のCBCTを臨床に導入してきたが、パソコンのソフトでの制限があり、かつ修理部品がないために2018年に廃棄を余儀なくされてしまった。
そこでほとんどのメーカーの歯科用CBCTの画像を確認して一番鮮明が良く感じたモリタの「3DX」の導入を決定した。
その当時に導入された3DXは今だに問題なく稼働しておりメインテナンスも可能な状態である。
画像の鮮明度だけではなく導入後のメインテナンスや長期的なサポートが可能であるとの理由からモリタの3DXを導入した。
これまでのCTと比べると画像の鮮明度、画像処理の速さに驚かされた。インプラント治療だけでなく根管治療、気道確認、埋伏歯確認など多岐にわたり非常に満足している。
iChiroproについてはインプラントシステムのドリルが順番にiPadに表示され非常に使い勝手が良いだけでなく、それぞれのドリリング時の回転数、トルク、そしてインプラントのロット番号、リファレンス番号、滅菌期限の記録ができて非常に便利である。
オステルについてはインプラント安定度が感覚ではなく数値で確認できてイミディエートでプロビジョナルクラウンを装着するかどうかの診査に非常に役に立っている。
SMILEテクニック
抜歯即時埋入にはDr.Dennis Shanelec(1942-2019)考案の顕微鏡手術アプローチであるSMILE(Simplified Microsurgical Implant Lifelike Esthetics)テクニックを参考に筆者の診療所のシステムに合わせて改変して行っている。
SMILEテクニックの手順は、表1に示す36のステップで行う。
- 1. すべての術式はマイクロスコープ下にて行う(拡大率10倍から20倍)。
- 2. 唇側、口蓋側への切開を避けるなど、最小の侵襲で抜歯を行う。
- 3. 歯肉溝の内縁上皮を除去しておく。
- 4. 抜歯窩の肉芽組織をマイクロスコープ下にて完全に掻爬する。
- 5. 抜歯窩を3%のテトラサイクリンにて30秒間洗浄する。
- 6. サイドカッティンクバーを用いて、抜歯窩の口蓋側面に沿ってドリリングする。
- 7. インプラント基底部を舌側に傾けさせ、インプラントプラットフォームが基底部の埋入位置よりも2mm頰側に位置するように埋入する。
- 8. インプラントプラットフォームは隣接歯の乳頭から5mm下部に位置する。
- 9. インプラントプラットフォームの舌側(口蓋側)と抜歯窩の舌側(口蓋側)の骨頂と高さを合わせる。
- 10. インプラントは4mm径で15から18mmの長さのものを用いる。
- 11. インプラント接合部はエクスターナルを用いる。
- 12. 2°テーパーでざらついた表面性状のインプラントを用いる。
- 13. 67N以上で埋入する。
- 14. オペーク色で表面処理したチタン製のテンポラリーアバットメントでスクリューリテインのプロビジョナルを製作する。
- 15. 抜歯前に透明なシリコン印象材で印象採得しておく。
- 16. 抜歯予定の歯の形態を再現するため、クラウンをフロアブルコンポジットレジンで製作する。
- 17. シェルクラウンとオペークを施したアバットメントを口腔内で装着する。
- 18. 硬化を防ぐため、イエローフィルターを使用し、縁下の形態はフロアブルコンポジットレジンを用いて再現する。
- 19. プロビジョナル装着時、歯間乳頭や頰側歯肉の形態に調和しているか確認する。
- 20. プロビジョナルとインプラントレプリカを装着して歯肉縁下の形態を印象採得する。
- 21. プロビジョナルはできるだけ細かく研磨する。
- 22. プロビジョナルはキセノンライトを照射して未重合モノマーをできるだけなくす。
- 23. カスタムインプレッションコーピングを製作しておく。
- 24. 頰側の抜歯窩とインプラントとの隙間は骨補填材をプラットフォームまで填入する。
- 25. 骨補填材は填入時、骨補填材を1−2mm圧接しながら、隙間に骨補填材を充分に密閉させる。
- 26. ドリリング時に削った骨を集めておいて、プラットフォーム周辺に填入する。
- 27. 骨補填材をコラーゲンメンブレンで覆うようにする。
- 28. 頰側歯肉縁下から切開し、部分層弁でエンペロープを形成する。
- 29. 口蓋から結合組織を採取して、頰側歯肉に移植する。
- 30. 歯間乳頭を剥離後、6−0のナイロン糸で縫合する。
- 31. プロビジョナルはインディケーターワックスなどを用いて咬合を確認し、1mmほど咬合しないように削除しておく。
- 32. インプラント接合部のネジにメトロニタゾールを入れる。
- 33. プロビジョナル装着時、適切なトルクをかけ、テフロンテープを挿入し、アクセスホールをコンポジットレジンで埋める。
- 34. 術後2−6週間は経過を観察する。
- 35. 8週間後に最終補綴製作に入る。
- 36. カスタムインプレッションコーピングを用いて印象し、ジルコニアアバットメント製作のスキャンに用いる。
症例供覧
<症例1>図1~15
60歳女性。
主訴:1修復物脱離。
術前のCTの画像から抜歯即時埋入は可能であることを確認できた。埋入時のトルクは45N、オステルによるISQは80であった。
埋入と同時にプロビジョナルを装着するが、負荷をかけないように注意する。患者には見た目だけでありプロビジョナルクラウンで噛まないように注意しておく。頰側には結合組織を移植する。
今回はコロナ禍の影響で最終補綴装置の印象は遅れたが、通常は8週後には最終補綴装置の印象を行う。
最終補綴装置は隣在歯が天然歯質の片側上顎中切歯修復であることから難易度がかなり高い修復であったが患者の満足を得ることができた。
図1 60歳女性。1修復物脱離を繰り返していること主訴に来院。
図2 CT撮影を行い抜歯即時埋入が可能かシミュレーションを行った。
図3 マイクロスコープで歯質とクラウンの不適合を確認でき、再装着では脱離を繰り返すことが予想された。
図4
図5 残根を周囲組織を損傷することのないように特殊器具にて抜歯を行った。
図6 歯科用CT「3DX」と撮影画像。このCTは耳鼻科でも軟骨の診断などで採用されていることもあり、非常に鮮明な画像が得られ、根管もよく見ることができる。より精密な診査・診断ができるようになり、シミュレーションソフトと連動させて、サージカルステントの製作やインプラントの埋入方向、深度の判断に使用している。口腔内スキャナーや新しいデジタル機器の登場により精密な診査・診断にいかせる情報量は多くなるが、それをいかせる術者の診査・診断力がまずは重要だと感じている。
図7 「iChiropro」はインプラント埋入トルク値、回転数、インプラント体のロット番号、滅菌期限を記録できるようになっておりとても便利である。
図8 「オステルISQアナライザ」によりISQを測定。ISQ70以下では即時にプロビジョナルクラウンを装着しないようにしている。ドリリングに注意し初期固定を得やすいインプラント体を選ぶことでほとんどの場合ISQ70以上は可能であると考える。
図9 被曝量を少なくできるCTを使って術中に埋入角度を確認した。3DXを日常臨床で用いているが、臼歯部→前歯部へ、4cm×4cm、90KV、3mA、180°の条件で撮影を行った場合の実効線量は約20μSvであり、D感度フィルムを2枚撮影した場合とほぼ同じ被曝量になる。
図10 インプラントのプラットフォームは修復歯の頰側歯頸部より4mm、隣接歯間乳頭より5mmの位置に埋入した。
図11 頰側には口蓋より採取した結合組織を移植した。
図12 術後1ヵ月。歯頸部歯肉形態が左右不揃いになったため、プロビジョナルクラウンの頰側の立ち上がりを修正した。
図13 マイクロスコープで歯質とクラウンの不適合を確認でき、再装着では脱離を繰り返すことが予想された。
図14 ジルコニアアバットメントを装着。
図15 最終補綴装置装着。
<担当歯科技工士:岸本憂太>
59歳女性。
主訴:上顎両側中切歯補綴装置脱離。
臼歯部にインプラント修復を受けて快適であることからインプラントによる修復を希望された。CTによる診査により抜歯即時埋入が可能であることが確認できた。
抜歯窩には骨補填材、頰側には結合組織を移植し<症例1>と同様に両隣在歯を触ることなく、また即日にプロビジョナルクラウンを装着し修復を行った。
両症例とも患者の希望どおり両隣在歯を触ることなく、また即日にプロビジョナルクラウンが装着されたことによって非常に喜ばれた。
図16 59歳女性。主訴:上顎両側中切歯補綴装置脱離。臼歯部にインプラント修復を受けて快適であることからインプラントによる修復を希望された。
図17 CTにより抜歯即時埋入が可能であることが確認できた。
図18
図19 抜歯窩には骨補填材、頰側には結合組織を移植した。
図20
図21
図22 ジルコニアアバットメントのプロビジョナルクラウンを装着。
図23 最終補綴装置装着。
<担当歯科技工士:岸本憂太>
まとめ
抜歯即時埋入は患者にとって低侵襲であり即日にプロビジョナルクラウンが装着されることから非常に有益な治療法のひとつであると考える。しかしながら術者にとっては技術的難易度が非常に高い。なぜなら非常に正確な埋入ポジションと高い初期固定が要求されるからである。それに必要なのが正確なCTデータ、扱いやすいインプランター(埋入トルク、回転数などが記録できる)、埋入ドリル(特にサイドカッティングバー)、初期固定が得やすいインプラント、である。埋入後インプラント安定度が計測できればより確実である。抜歯即時埋入はフラップを開かないために簡単な治療法に思われてしまうことがあるがフラップを開かないために骨の状態を確認せずシミュレーションを行った正確な位置に埋入するために非常に難易度の高い治療法である。よって経験値の低い先生は簡単に抜歯即時埋入の治療法を選択するのは大きなリスクが伴う。選択するには術前診査、埋入シミュレーション、適した使用器具、経験値の高い歯科医師からのアドバイスを受ける、抜歯即時埋入の実習コースを受講する、など十分な準備をして行うことをお勧めする。
- 1) Shanelec DA. Anterior esthetic implants : microsurgical placement in extraction sockets with immediate plovisionals. J Calif Dent Assoc 2005 ; 33(3) : 233-240.
- 2) 松川敏久.インプラント審美 上顎両側中切歯欠損症例―スマイルテクニックによる抜歯後 即時インプラント埋入―.Quintessence DENT Implantolgy 2010;17(1):59-67.
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