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Interview
世界市場で戦えるハンドピースを! 『トルクテック5倍速コントラ』 『ウルトラミニヘッド』開発ストーリー
目 次
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エアタービンのようなボディ形状を目指して
『トルクテック5倍速コントラ』の開発 -
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作るなら世界最小を目指して!
『トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド』の創意工夫 - ≫ 『ウルトラミニヘッド』の使用感について松川先生に伺いました
(株)モリタではエアタービン『ツインパワータービン』のほかに、術者や患者さんの負担軽減と耐久性の高さを両立したモーター用ハンドピース『トルクテックシリーズ』を展開しています。
このたび、5倍速コントラを長年使用されている松川敏久先生と、(株)モリタ製作所で5倍速コントラの開発に携わる田中仁氏に、『トルクテック5倍速コントラ』と、2022年10月に発売した『トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド』開発時のこだわりや特長、使用感などについて伺いました。
エアタービンのようなボディ形状を目指して
『トルクテック5倍速コントラ』の開発
図1写真上は2000年代の5倍速コントラ。当時はギヤシステムの構造上、角ばった無骨な形状が常識だった。写真下は2010年に誕生した『トルクテック5倍速コントラ』。よりタービンに近い形状に進化しアクセス性が向上。
松川私はトルクがあって軸ブレが少ない5倍速コントラを長年愛用していますが、モリタの『トルクテック5倍速コントラ』はどのようなコンセプトから生まれたのでしょう。
田中モリタではエアタービンに比べて、モーター用ハンドピースの開発は遅れをとっていました。そこで私たちハンドピース開発部門では「世界市場で戦えるハンドピースを」というスローガンを掲げ、その主力製品として5倍速コントラの開発をスタートすることになりました。
松川世界市場で戦う製品にするためにどんな工夫をされたのでしょう。
田中1つはボディ形状へのこだわりです。2000年代の5倍速コントラはエアタービンに比べて角ばった無骨な形状をしていました(図1)。当時の5倍速コントラは2つのギヤで構成されていて、その影響でアングル部の下側が張り出した形状となり、持ちにくさやアクセス性に問題を抱えていました。
松川確かにエアタービンの方が滑らかな流線型の形状で持ちやすい印象がありますね。
田中エアタービンのグリップ部分は給気エアと注水のパイプが通っているだけのシンプルな構造です。一方、5倍速コントラはギヤシステムなど内部に複雑な機構を持っていて、どうしてもグリップ部分が太くなってしまいます。そこで私たちはエアタービンに近いボディ形状で5倍速コントラを作れないかにとことんこだわったのです。
ギヤシステムの機構から考えていくのが通常のコントラ設計のセオリーですが、その方法だと何度試してもこれまでと変わらない形状になってしまいます。そこで、『トルクテック5倍速コントラ』では、外側の形状を先に決めて、その中にどうやってギヤシステムを収められるかを考えるという、いわば“逆転の発想”をもとに試行錯誤を繰り返したのです(図2)。
松川なるほど、先に形状を決めてしまったのですね。
田中はい。今まで2対だったギヤを3対にして、そのうち2軸目を傾斜させ、さらに1段目と2段目のギヤを増速に有利なインターナルギヤで構成することでようやく収めることに成功しました。その結果、持ちやすさに加え、臼歯部へのアクセス性は大きく向上し、術者と患者さんの負担軽減に向けて大きく前進できたと自負しています。この機構は「ダブルインターナルギヤシステム」と呼ばれ、その独創性が評価され特許も取得しています(図3)。
松川インターナルギヤとは具体的にどんな仕組みなのでしょう。
田中ギヤの構造は、ギヤ同士が外で噛み合うエクスターナルギヤが一般的ですが、インターナルギヤは内側でギヤ同士が噛み合う構造になっています。少ないスペースで1つひとつの歯を大きくして、ギヤの強度や耐久性もさらに向上させることができますが、加工が大変で、とくに軸が傾斜したインターナルギヤは高精度に加工することが極めて難しいとされています。
松川摩擦熱は発生しないのですか?
田中エアタービンやコントラは自動車のように常時オイルに浸かっているわけではなく、薄い油膜だけで摩擦に耐えられるようギヤを設計する必要があります。『トルクテック5倍速コントラ』では、搭載するすべてのギヤにインボリュート曲線をベースにした「インボリュート歯形」という歯形を採用しています(図4)。摩擦熱の低減には油膜と精密で精度の高いギアが重要です。適切な注油を行うために、オイル量を自動調整する専用のメンテナンス装置を使った注油をお願いしています(図5)
図2 理想的なボディ形状を決定し、その中にギヤシステムを内蔵するという“逆転の発想”から開発が行われた。(点線はモリタ製作所の従来の5倍速コントラの形状を示す。)-
図3 「ダブルインターナルギヤシステム」のメカニズム
ギヤを3対に増設し各軸を傾斜させて配置することで、あらかじめ決められたボディ形状にギヤシステムを内蔵することが可能となった。 -
図4 インボリュート歯形
『トルクテック5倍速コントラ』ではインボリュート曲線をもとにしたインボリュート歯形を採用。滑らかでロスの少ない回転を実現している。
図5 歯科用ハンドピースメンテナンス装置『ルブリナ2』
図6 独自のチャック設計で縦・横の2面からバーを保持。摩耗や金属疲労による保持力の低下が少なく、高い耐久性を実現している。
松川インボリュート曲線?初めて耳にしました。
田中インボリュート曲線とは、円に糸を巻きつけて、それをほどいていくときに形成される曲線のことで、それをもとに歯車を作ると滑らかにキレイに回って摩擦を低減します。
松川他に大きな特長はありますか?
田中バーを固定するチャック部分はチャックとバネを使った二重構造になっています。バーが摩耗した場合でも外側のバネで固定しているので安定した荷重を得ることができます。この機構によってチャックの耐久性は大幅に向上しました(図6)。
松川チャック部分は故障しやすいイメージがありますが、チャックとバネでバーの保持力を維持しているんですね。なるほど、それはお話を伺って初めて知りました。
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