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Interview

適切な感染管理は正しい知識の獲得と手指衛生の徹底から

歯科感染管理協会 第2種滅菌技士/第1種歯科感染管理者 歯科衛生士/臨床教育指導士  長谷川 雅代

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  • [写真] 歯科感染管理協会 第2種滅菌技士/第1種歯科感染管理者 歯科衛生士/臨床教育指導士 長谷川 雅代
    歯科感染管理協会
    第2種滅菌技士/第1種歯科感染管理者
    歯科衛生士/臨床教育指導士
    長谷川 雅代

過剰な感染対策で疲弊するケースも

近年、新型コロナウイルスの影響もあり、一般の方たちの間でも感染対策への意識が高まりを見せています。一方で感染対策は徹底しようと思えば際限がなく、多くのコストがかかるイメージをお持ちの先生も多いと思います。特にコロナ禍では過剰な対策によってスタッフが疲弊する事例が少なからずあったようです。感染対策に注力するあまり、普段の診療業務に支障を来たしてしまえば元も子もありません。適切な感染管理を行ったうえで無駄を省くためには、正しい知識を身につけることが重要になります。

「清潔」「不潔」が混在する歯科医院

現在、世界的にさまざまな医療機関で採用されている「スタンダードプリコーション(標準予防策)」は、“すべての患者さんの汗以外の湿性生体物質には病原体が含まれている”と考えて対応する方法です(図1)。これを実践するためには、まずは清潔域と不潔域を明確に分けることが必要です。
ところが一般の歯科医院では大学病院のように専任のスタッフが器材処理を行うケースは非常に少ないと思います。受付からはじまり、器材の準備、診療補助、片付けに至るまで、すべてを自分たちで行うため、「清潔」と「不潔」が混在しやすい環境と言えます。加えて、歯科助手のように医療の知識が少ない状態から診療に携わるスタッフもいます。さらには、歯科は他科と比べても血液や唾液に触れる機会が少なくありません。
歯科医院における感染管理を考える際には、「清潔/不潔の領域が混在しやすい」「未経験者が携わる機会がある」「感染のリスクがある」という特有の環境を念頭に置く必要があると思っています。

  • [図] 歯科に関係する湿性生体物質の一覧
    図1 歯科に関係する湿性生体物質の一覧

自院の方針、環境に合ったルール作り

ところで、感染管理において不必要なコストとは何でしょうか。例えば、用途ごとに消毒剤や洗浄剤をたくさん取り揃えている歯科医院を見かけることがあります。しかし、その成分を確認してみるとそれほど差異のないものが多く見られます。また、グローブの経費にも関わる例として、ユニットの近くに置かれているパソコンのマウスは診療中に頻繁に触れる機会があるのでグローブのままで触れ、診療後は患者ごとに消毒する。レセプト入力のための共用パソコンは必ず素手で触れるなど、環境に合ったルールを決めます。
感染管理が原因で通常の診療業務が滞ってしまっている場合には、自院の規模や方針、環境と照らし合わせてルールを設定し、「ここまでは確実に消毒をする」「ここから先はある程度妥協する」という線引きを行うことをお勧めしています。
器材の再処理方法についても質問を受けることがよくあります。例えば、すべての器材を滅菌バッグに入れて滅菌をするのではなく、「スポルディングの分類」で考えれば体内の無菌領域に使用しない場合、保管する環境を確保できれば滅菌バッグは不要です。また、滅菌バッグを使用しない方が滅菌効果のある滅菌器も多くあります。こうした知識を持つことで手間も経費も減らすことができます。

手指衛生の2つの方法

医療がどれだけ発達しても感染管理の基本は手指衛生であることに変わりはありません。世界保健機関(WHO)は「手指衛生を行うタイミング」として、患者さんに触れる前、清潔・無菌操作の前など、5つのタイミングを挙げていますが、私はよく「自分の手が“不潔かな?”と迷った時点で不潔だと認識してください」とお伝えしています。その時には必ず手指衛生を行いましょう(図2)。
手指衛生には2つの方法があります。1つは石けんと水で60秒以上洗う洗浄法(スクラブ法)です(図3)。これはどんな病原体にも有効とされていますが、流水設備や手を拭くペーパータオルが必要となり、臨床現場で実践するにはハードルが高くなります。また、手指の皮脂も除去されるため、手荒れの原因にもなります。
もう1つの方法がアメリカ疾病予防管理センターでも推奨されている、アルコール消毒薬で30秒以上手を擦る擦式法(ラビング法)です(図4)。こちらは場所を選ばず、スクラブ法よりも短時間で行え、ペーパータオルも使わないため、臨床現場では第一選択となります。また、「ゴージョーMHS」のような保湿剤が入っている製品を選ぶことで手荒れを防ぐ利点もあります。ただし、洗浄効果はないため、手指に汚れがついている場合はスクラブ法を選択します(図5)。

  • [図] 手洗いミスの生じやすい部位
    図2 手洗いミスの生じやすい部位
  • [図] スクラブ法の利点と欠点
    図3 スクラブ法の利点と欠点
  • [図] ラビング法の利点と欠点
    図4 ラビング法の利点と欠点
  • [図] 手荒れ対策のポイント
    図5-1 手荒れ対策のポイント
  • [図] ハンドケア剤の種類
    図5-2 ハンドケア剤の種類

今一度、手指衛生の大切さを

感染管理は資格や肩書きに関係なくチームで行うものです。高い技術は必要なく、新人スタッフも含めて一丸となって取り組めるため、医院のチーム力を高める効果も期待できます。
特に感染管理の基本である手指衛生は患者さんも手軽に行える感染対策です。老若男女問わず地域の方々が訪れる歯科医院だからこそ、歯科医師をはじめスタッフ全員が適切に手指衛生を行うことで地域の人々への啓発に、ひいては、その情報発信が社会貢献に繋がるのではないかと思っています。
医療現場での感染の多くは医療従事者の手を介して伝播します。一方で患者さんの病気を治すのも医療従事者の手です。また、自宅に戻れば、家族のために料理をつくり、赤ちゃんを抱き、大切な人の手を握ります。手にはそうしたさまざまな役割があります。
人々の健康を守り、人と人とのつながりを生み出す私たちの手は、だからこそ、清潔な状態を保っていたいと思います。コロナ禍が落ち着いた今、あらためて手指衛生の大切さを振り返っていただけたら、歯科感染管理協会としても嬉しく思います。

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