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SNSで話題!大阪・関西万博のおむつによるファッションショー おしゃれの力で自分らしさと明るい未来を創造する

ソーシャルイノベーター 一般社団法人日本福祉医療ファッション協会 代表理事 平林 景/歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉

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ソーシャルイノベーター 一般社団法人日本福祉医療ファッション協会 代表理事 平林 景 / 歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉

このコーナーでは歯科医師であり、現代美術作家でもある長縄拓哉先生が各界の第一線で活躍するクリエイターとともに歯科が抱える課題や可能性について探ります。今回は、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)にて、未来のおむつをテーマにしたファッションショー「O-MU-TSU WORLD EXPO」を開催する一般社団法人日本福祉医療ファッション協会の平林景代表理事をお迎えし、大人用紙おむつの課題やSNSでバズるコツなどについて伺いました。

尿失禁を有する人は2,100万人

長縄 健康の入り口と言われる口を診るのが歯科の仕事です。その出口にあたる排泄に関しても歯科が意識できるようになれば、何かしらの課題を解決できるかもしれない。そんな思いで「O-MU-TSU WORLD EXPO」のプロジェクトメンバーとして私も参加しています。まず始めに、おむつのファッションショーとはどういうものなのか、教えてください。
平林 おむつを必要とする方々が健康で自分らしく生きる社会を実現するために、革新的なデザインによっておむつの可能性を示す、そんなファッションショーです。
長縄 革新的なデザインとは?
平林 一言で言えば、圧倒的におしゃれな紙おむつです。従来の大人用紙おむつには「はいている姿を恋人や友人に見られたくない」「おしゃれだった母が介護施設で悲しそうにはいていた」など、若い人も高齢者も抵抗を感じる方が多いんです。実際に僕も市販の紙おむつをはいてみたのですが、鏡の前でどんなにポーズを決めてもカッコよくならないんですよね。
長縄 おむつとおしゃれは、かけ離れたイメージがありますね。
平林 そうなんです。市販の紙おむつを調べてみると、どれも似たり寄ったりのデザインで色は白が圧倒的に多い。普通の下着は何万種類とあってカラーバリエーションも豊富です。そこで試しに市販の紙おむつを黒く染めてみました。すると意外と抵抗感がなくなり、問題は見た目にあると確信しました。僕はお酒を飲み過ぎるとお腹が緩くなるのですが、もしも、通常の下着よりも圧倒的におしゃれな紙おむつがあったら、飲み会の日は絶対にはきたいなと思っています。
長縄 おむつと聞いて、介護の話だとばかり思っていましたが、実際には老若男女を問わず、さまざまな方が対象なんですね。
平林 下半身麻痺の方など若くてもおむつは使用しますし、国内で尿失禁を有する人は40歳以上のうち2,100万人、また、便失禁は500万人以上いると言われています。年齢を問わず、実は多くの方が排泄に関する悩みを抱えているんです。大阪・関西万博は誇りを持っておむつをはく文化を創造する、そのきっかけづくりにできたらと思っています。

SNSで話題!大阪・関西万博のおむつによるファッションショー
おしゃれの力で自分らしさと明るい未来を創造する

「かわいいカボチャパンツ」をイメージしたおむつ / ターニングポイントになったというアウターとしてもはけることを目指したスポーティーなタイプのおむつ / 近未来や宇宙をイメージし、ブラックとシルバーのツートンカラーにしたおむつ / タブレット端末でラフスケッチをし、イメージをデザイナーやメーカーに伝える「かわいいカボチャパンツ」をイメージしたおむつ / ターニングポイントになったというアウターとしてもはけることを目指したスポーティーなタイプのおむつ / 近未来や宇宙をイメージし、ブラックとシルバーのツートンカラーにしたおむつ / タブレット端末でラフスケッチをし、イメージをデザイナーやメーカーに伝える

マイナスをゼロではなくプラスに変える

長縄 もともと美容師だった平林さんが福祉業界に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
平林 いちばんは自分がADHD(注意欠如・多動症)だったことと、発達障害の子どもたちと接する機会があったことです。一般的に療育(発達支援)では、できないことを困らないレベルに引き上げることを目指します。でも、僕はそれが大嫌いだったんです。自分の人生を振り返ると、やりたいことや長所を伸ばしたほうが生きる力になったと感じますし、子どもの頃からそうした環境に身を置ければ、大人になった時にもっと楽しいことができるんじゃないか、そんなふうに思っていました。美容師の専門学校で教員をしていた頃、たまたま参加した研修で長所進展型のスクールを新規事業として立ち上げたら面白いのではないか、と話をしたことがあったんです。そしたら偶然にも企画が通り、本当にスクールをつくることになりました。福祉に携わるようになったのはそれからです。
長縄 現在は「放課後等デイサービス」という、支援を必要とする子どものための学童を兵庫県尼崎市で運営されています。こちらはどんな施設なのでしょう?

[写真] 平林 景

自分らしくいられたり、
明るい未来を感じられたりすることも、
おしゃれの大事な要素

[写真] 平林 景

PROFILE
平林 景

ソーシャルイノベーター。1977年7月21日生まれ。一般社団法人日本福祉医療ファッション協会代表理事/株式会社とっとリンク代表取締役/四条畷大学 客員教授
美容師を経て教職に就く。その後、2016年12月に起業し、株式会社とっとリンクを設立。わずか2年で3店舗に拡大し、現在は兵庫県尼崎市にて4つの放課後等デイサービスを経営。2019年11月には一般社団法人日本障がい者ファッション協会を設立し、代表理事に就任すると、翌2020年Next UD(Next Universal Design)ブランド「bottom’ all」を展開。さらに、2022年9月には、パリ日本文化会館にてパリファッションウィーク期間にファッションショー開催を実現させる。

[写真] 車椅子ユーザーでも一人で着脱できる自身のブランド「bottom’ all」の上下
この日、平林さんが着ていた服は車椅子ユーザーでも一人で着脱できる自身のブランド「bottom’ all」の上下。

平林 先ほどのスクールは学校法人が運営する大学内に立ち上げたこともあり、利用料金が高かったんです。福祉制度を活用して料金を抑えられれば、誰もが通いやすくなるのではないかと思い、独立しました。長所進展型のマンツーマン方式で、とにかくおしゃれにこだわった事業所です。
長縄 施設の写真を拝見しましたが、内装のデザインがカラフルですよね。
平林 福祉と聞くと、おしゃれとかけ離れたイメージを持っている方が多いと思います。それを覆したかったんです。訪れた親御さんの中には施設の明るい雰囲気に嬉しくて泣き出す方もいらっしゃいます。逆に言えば、それだけ何かを我慢して今まで他の事業所に通っていたのかなとも思います。僕はマイナスをゼロにするのではなく、プラスにしたいと思っています。“障がいがあるからこそ通える”、“障がいがなくても通いたくなる”、マイナスのイメージのものをゼロ以上のプラスに変える、そんな施設になるように心がけました。

バズらせるためにやっていること

長縄 平林さんのSNSは何万件もの「いいね」を集めるなど、よくバズっています。斬新なアイデアのおむつに多くの方が驚くからなのかと思いますが、バズらせるコツはあるのでしょうか?
平林 斬新すぎると逆にバズりません。革新的なデザインのおむつを突然見せられても、理解が追いつかないんです。世の中の人たちが考えている少し先くらいを発信することが大切ですね。だから、最初は市販のおむつを染めただけの分かりやすい画像を投稿して、ある程度、興味を持ってもらえたら、もう少し斬新なアイデアを投稿するというふうにSNSを運用しています。
長縄 世の中に合わせながらも人々を誘導するみたいな感覚がありますね。
平林 そうですね。でも、「これはいける!」と思ってもバズらないことはたくさんあります。ただ、失敗したら削除すればいいので、それがSNSのいいところです。「炎上」も僕は歓迎で、例えば、黒いおむつの画像を投稿した時、「中が黒かったら排泄しているかがわからない」と批判を受けました。確かにそうだなと思い、改良するきっかけになりました。賞賛しかない投稿はむしろ失敗だと思っています。
長縄 SNSを積極的に活用している歯科医院はたくさんあります。でも、歯科医師の投稿はなぜかつまらないと感じることが多いんです。それは医療職として正しいことを言わなきゃいけないけど、正しいことを言っても世の中には刺さらないというジレンマのようなものがあるのかもしれません。
平林 切り口が大事なんだと思います。正しい発信をしながらも、ちょっと世の中と違う切り口をつぶやいてみるとか。長縄先生なんてSNSをやったらバズると思いますよ。アートも世の中とは違う切り口を提示して、人々に気づきを与えるところがあるじゃないですか。
長縄 なるほど。僕もやってみようかな。僕がおむつをはいた画像を載せたりして(笑)。
平林 歯科医師とおむつ、そういう意外な組み合わせや面白い切り口がないと、なかなかバズらないですね。僕がよくやるのが「寝かす」ことです。投稿を書いている時はテンションが上がり、世の中と感覚がズレていることがあります。そのズレが大きいほど受けません。客観視した上で、それでも面白い内容だとバズりやすくなります。だから、数日寝かせて、修正して、また寝かせてと、1つの投稿に2~3週間かけることもよくあります。
長縄 SNSを効果的に活用するには相応の労力が必要なんですね。スタッフにSNSを任せている院長先生も、たまには「大変だよな。寝かせているネタがあるなら、一緒に考えてみようか」みたいに一声かけられると、効果も違ってくるかもしれません。

「バズりは1日にしてならず」ですね

[写真] 長縄拓哉

PROFILE
長縄拓哉

1982年愛知県生まれの歯科医師(医学博士)であり現代美術作家。
2007年東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病院、デンマーク・オーフス大学での口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)研究を経て、口腔顔面領域の感覚検査器を開発。IADR(ボストン、2015)ニューロサイエンスアワードを受賞。デジタルハリウッド大学大学院在学中。
現代美術の特性を応用し、医療や健康に無関心な人々や小児のヘルスリテラシーを向上させ疾病予防をめざす。

[写真] 長縄拓哉
[写真] 平林さんにプレゼントした長縄先生の作品
平林さんにプレゼントした長縄先生の作品。タイトルは「トイレ探しにサンタ苦労する」クリスマスの日に、やっとトイレを見つけて一息つくサンタクロースがモチーフ。

平林 そうですね。よくバズらせているインフルエンサーは緻密に計算をして投稿していますから。いろいろな視点でアイデアを持ち寄って運用するのはいいと思います。
長縄 「バズりは1日にしてならず」ですね。ところで、歯科医院は歯をきれいにする場所なので他科に比べて、美やおしゃれに気をつけている先生やスタッフは多いように思います。最近はおしゃれな歯科医院も増えています。最後に平林さんが考える「おしゃれとは何か」について教えてください。
平林 僕のモットーは「おしゃれの力で福祉を変える」です。見た目がただ良いというだけではなく、自分らしくいられたり、心が豊かになったりすることも、おしゃれの大事な要素だと思っています。おむつの企画も「放課後等デイサービス」の事業もそうした視点で取り組んでいます。今後もワクワクするような明るい未来を描きながら、社会課題の解決に挑戦したいと思っています。
長縄 勉強になります。本日はありがとうございました。

対談を終えて

平林さんは多動と集中が共存しているような不思議な方で、困りごとの解決に楽しみを感じるタイプ。不便な常識をひっくり返し、「新世界へようこそ」と悪魔のように高笑いするような、良い意味でサイコパス濃度が高い方だと思いました。困りごとの解決だけではつまらない、マイナスをゼロではなく100にして、誰もが欲しがるモノにひっくり返す。それが叶った瞬間、次の獲物を見つけに出かける。
SNSでバズるノウハウも試行錯誤の賜物。自分と対話し、思考を掘り下げ、深海を漂う小さなちょうちんあんこうを見つけて、生きたまま慎重に陸に連れてくるみたいな作業を常にしている人なんだろうと思います。一緒にプロジェクトに関われることができて光栄です。平林さんありがとうございました!

Dental Life Design」では、本誌で採録できなかったこぼれ話や平林さんの歯磨きライフなどを掲載。
ぜひご一読ください。

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