194号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
進化を遂げたEr :YAGレーザー Adverl SH
キーワード:小帯切除/デコルチケーション/歯根端切除
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Er:YAGレーザーの良さやメリット
- ≫ 症例1:ディープスケーリング
- ≫ 症例2:舌小帯切除
- ≫ 症例3:歯肉切除
- ≫ 症例4:粘液嚢胞
- ≫ 症例5:Vital Pulp Therapy
- ≫ 症例6:歯根端切除
- ≫ 症例7:インプラント2次手術&歯肉切除
- ≫ 症例8:上唇小帯切除&デコルチケーション
- ≫ まとめ
はじめに
Er:YAGレーザーであるErwin AdvErL(以下:AdvErL)は2009年にレーザー加算の保険導入により普及されたと思われる。筆者もNd:YAGレーザー1)・半導体レーザー2)を使用してきたが、活用用途は使用すればするほど、使用できる範囲が限定されることになっていった。
しかし、AdvErLを購入・使用を始めると、日々の診療において触らない日が無いほど、稼働率が上がるように様々な用途で使うことができる機械であることに気づく。そして、昨年6月に新機種のAdverl SH(以下:SH)が販売された。
既にErwinシリーズを購入し、日々の治療に使用していた歯科医師にとっては、単なるモデルチェンジにすぎないと思われた方が多いのでは無いだろうか?
Erwin AdvErL EVO(以下:EVO)の時のモデルチェンジの時のように。
今回のSHは旧機種と比較してフルモデルチェンジをしており、全く別物と言っても過言ではない。EVOでは1Shotの繰り返し数(pps)とエネルギー量(mJ)やコンタクトチップの変更により硬・軟組織の処置に対応していたが、SHではピークパワー・パルス幅の2モードを搭載。う蝕除去(エナメル質)と骨整形用にはピークパワーが高く、パルス幅が短い『Hardモード』と、歯肉切開・切除と止血用にはピークパワーは低いがパルス幅が長い『Softモード』が設定されている(図1)。つまり、同じエネルギー量でもパルス幅とピークパワーが異なることにより、それぞれのパルス特性を活かした、各症例や部位に適した照射が可能となった。以前のモデルでは、硬組織切除や軟組織の切開・止血に時間がかかり、別のレーザーを使用した歯科医師も多かったのではないだろうか?SHは高パルス化に加えて出力範囲が拡大されたことにより、治療の効率が向上し、よりスピーディーな処置が可能となった。また、これらの改良により、低侵襲で処置効率の高い照射も実現している。
また今回、症例別18種類のプリセットモードを搭載。処置に必要なチップが表示され症例に適したppsとmJの設定が自動表示されることとなった(図2)。もちろん、今までのマニュアルモードも搭載されており、任意の条件をメモリーに記憶させ、好みの設定を使用することも可能である。
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図1 Hardモード、Softモードの2モードを搭載。ピークパワー・パルス幅の変更が可能。 -
図2 プリセットモード「硬組織疾患 う蝕除去(象牙質)」
Er:YAGレーザーの良さやメリット
当院で初めて導入したレーザーはNd:YAGレーザー3)である。麻酔効果や墨を用いた知覚過敏処置、顎関節症への温熱効果や根管内への殺菌効果等を目的として購入したが、結果、最後まで使用していたのは根管内の殺菌効果や根尖部の息肉除去のみであった。
CO2レーザーに関しては、非常勤で勤務している実家の診療所に在り、切開・止血等に使用しているようだったが、実働している場面に遭遇することはあまりなかった。実際に私も小帯切除やインプラント体のヒーリングキャップ上に過成長した歯肉切除に使用したことはあったが、火花が飛び、インプラント体への加熱の心配があった。
Er:YAGレーザーは切開に対してはNd:YAGレーザーより早く効果を得られたが、CO2レーザーのようにスピーディーに処置を終了させることは不可能であった。
ただし、CO2レーザー使用時においては麻酔が必要であったが、Er:YAGレーザーにおいて、ほぼ無麻酔で処置が可能であったのには驚きである。
そして、SHの登場により、切開・止血に関しては、私見ではあるがCO2レーザーより早い処置が可能になった感じがする。また、通常Vital Pulp Therapy4)の際、滅菌されたバーで歯髄に近接した軟化象牙質を切削するが、歯髄に細菌を感染させる可能性がある。
当院ではEr:YAGレーザーにて処置を行っているため、切削と同時に照射部位を殺菌できるので、感染させずに問題なく歯髄を残すことに成功していた。
ただし、 AdvErLの際には切削に時間を要していたが、今回のSHにおいては、プリセットモードが搭載されており、最適な設定で殺菌を行いながら感染歯質や感染した歯髄を除去することが可能なため、よりスピーディーな治療ができるようになった。また、歯髄温存の成功率も上がるのではないかと思われる。
症例1:ディープスケーリング
67歳男性、43の垂直的骨欠損への対応
基本的に痛くなってからしか来ない患者の典型的症例(図3)。残存している下顎右側犬歯と第一小臼歯臼歯間のサイナストラクト発症により来院。側枝からの感染による歯髄壊死も考えられたため、ガッタパーチャを挿入後に、デンタル撮影にて部位特定。歯周病急性症状改善後、歯周ポケット測定を行うと舌側中央に8mmのポケットを確認した(図4)。
プリセットモード「歯石除去」にてS600Tのチップを用いてディープスケーリング5)を行った(図5)。縁下内部をEr:YAGレーザーで照射、スケーリングしていくと、内部から縁下歯石がポケット外へ飛び出してくる。S600Tを用いることにより、ポケット内縁上皮も掻爬され健全な根面を得ることができた(図6)。
<症例1>
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図3 初診時パノラマX線写真。36分岐部や43・44部に骨吸収が確認できる。 -
図4 43舌側プロービング時口腔内写真。舌側中央に8mmのポケットが確認できる。 -
図5 注水化にてチップを挿入し、デトックスしながら縁下歯石除去を行う。(S600T 40pps/40mJ) -
図6 縁下歯石が除去され、内縁上皮も掻爬されていることが確認できる。
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