194号 AUTUMN 目次を見る
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東京都渋谷区
医療法人社団まる歯 渋谷歯科
理事長 田中 健久
切端咬耗やくさび状欠損は、現在コンポジットレジンによる修復が広く行われています。ところが、コンポジットレジンはエナメル質への接着性に優れる一方で、切端咬耗やくさび状欠損などに見られるような象牙質が露出した症例では、十分な接着効果を得ることが難しいと考えられます。そのため、修復物の脱離を繰り返すケースがよく見られます。
2024年に登場した「ボンドフィルSBⅡ」は、歯質への高い接着性から長年多くの歯科治療で用いられている歯科接着用レジンセメント「スーパーボンド」の基本組成をベースにした接着性充填材料です。象牙質にも高い接着性を示し、しなやかな硬化体特性と適度な耐摩耗性を持つため、通常のコンポジットレジンでは脱離しやすい切端咬耗やくさび状欠損においても、良好な修復結果が得られ、現在、当院でも積極的に活用しています。
切端咬耗やくさび状欠損の症例は、近年顕著に増えているように感じています。従来から指摘されているような酸性食品の習慣的な摂取や継続的なオーバーブラッシングがその一因と思われますが、多くの場合はストレス社会の影響による就寝中の歯ぎしりや食いしばりが大きな要因ではないかと考えられます。
加齢に伴い、マイクロクラックのリスクが高まる高齢者に摩耗や欠損は生じやすいものですが、前述の理由から若い方の症例にも日常的に接します。
「ボンドフィルSBⅡ」を用いた症例
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症例1-1 くさび状欠損の症例①:術前
13のくさび状欠損。13の犬歯切端に注目すると歯ぎしりをされているのが分かる。 -
症例1-2 くさび状欠損の症例①:術後
通常コンポジットレジンで修復すると脱離の可能性が高いが、「ボンドフィルSBⅡ」で修復すると、ほぼ脱離することなく機能する。 -
症例2-1 くさび状欠損の症例②:術前
36が最後方臼歯となった場合、どうしても36に応力が加わるため、楔状欠損になることが多い。 -
症例2-2 くさび状欠損の症例②:術後
こうした最後方臼歯のくさび状欠損にも「ボンドフィルSBⅡ」を使用することで脱離を抑制し、良好な結果が得られるケースが多い。 -
症例3-1 切端咬耗の症例:術前
下顎前歯切端は、矯正治療後も含めて咬耗が見られることが多く、エナメル質への接着を求めることが難しいケースがある。 -
症例3-2 切端咬耗の症例:術後
こうした切端咬耗のケースでも、「ボンドフィルSBⅡ」を使用すると脱離せず、修復治療後も機能することが期待できる。
切端咬耗やくさび状欠損のある高齢者の中には、義歯を使用している方が一定の割合で見られ、若い世代においても、就寝中の歯質の摩耗や欠損の進行を抑える目的でマウスガードを使用しているケースがあります。こうした口腔内装置には口腔内細菌が付着しやすく、それを防ぐ有効な手段として、最近注目されているのが口腔内装置用コーティングシステム「キレイキープ」です。
「キレイキープ」は口腔内装置を超親水性の「光反応性MPCポリマー」でコーティングし、バイオフィルムの形成を抑制するシステムです。使用方法は、口腔内装置を洗浄した後、「キレイキープ スプレーⅡ」を口腔内装置に塗布し、弱圧エアーブローで乾燥させます。その後、「キレイキープ ライト」を使用して口腔内装置の表裏を各3分ずつUVC照射し、最後に流水で軽く洗い流します。
コーティングは日々のブラッシングや義歯洗浄剤の使用にも耐久性を示し、効果はおよそ3か月間持続します。そのため、定期的に再コーティングを行うことで、口腔内装置の清潔な状態を維持できるようになります。
当院では義歯を製作したすべての患者さんに対して、装着時のタイミングで「キレイキープ」の使用を提案しています。その際には、口腔内の衛生管理が重要であること、とりわけ、誤嚥性肺炎のリスクを低減させる必要があることをお伝えしています。こうした説明に対して患者さんも関心が高く、多くの方が積極的に利用されています。
![[写真] キレイキープ](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2025/09/194-16_photo07.jpg)
受付には「キレイキープ」の実物とともに、スタッフが作った製品の特徴を紹介するPOPを置いている。
特に超高齢社会である現在、訪問診療で独居の高齢者に接すると、「キレイキープ」の重要性を痛感することがあります。以前は部屋をきれいに整え、食事もきちんと摂っていた方でも、配偶者を亡くされた途端に、部屋が汚れ、食事の質が落ち、口腔内や義歯の清掃が行き届かなくなるケースが多々あります。そうした方の診療を行うたびに、誤嚥性肺炎のリスクが頭をよぎります。
「キレイキープ」でコーティングした義歯は、口腔内細菌の付着が抑制され、日々の清掃も手軽になります。その結果、誤嚥性肺炎のリスクが低減されると考えられます。実際に、「キレイキープ」を希望される患者さんの中には、「肺炎が怖いから」という理由を挙げる方も多くいらっしゃいます。
コーティングによって、手軽に効果的に口腔内装置の清潔さを保つという考え方が世の中に広まり定着すれば、より多くの方の健康や命を守ることにつながるのではないかと考えています。
「キレイキープ」を用いた症例
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症例4-1 「キレイキープ」処置前①
メチレンブルー染色により、多量に付着したデンチャープラークが確認できる。 -
症例4-2 「キレイキープ」処置前②
患者さんは義歯洗浄剤を毎日使用されているが、やはり歯間部などはデンチャープラークが滞留している。義歯ブラシを用いて、この汚れを除去するのは難しいと感じる。 -
症例4-3 「キレイキープ」処置①
クリーニング後、義歯全体に「キレイキープ スプレーⅡ」を吹きかけ、弱圧のエアーブローで乾かす。 -
症例4-4 「キレイキープ」処置②
専用のビニール袋に入れて、「キレイキープ ライト」で両面を3分ずつUVC照射する。 -
症例4-5 「キレイキープ」処置後①
装着感や舌感に影響を与えず、無香料なのでコーティング直後から違和感なく食事を摂ることができる。 -
症例4-6 「キレイキープ」処置後②
「キレイキープ」処置後は、デンチャープラークが滞留しなくなったことがわかる。日頃より「キレイキープ」を使用して細菌付着への対策を行っていきたい。
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