194号 AUTUMN 目次を見る
キーワード:接着性レジン系シーラー/根管充填のコツ
目 次
- ≫ 1. 根管充填におけるシーラーの役割
- ≫ 2. 接着性レジン系シーラーへの期待と懸念
- ≫ 3.「メタシール®Softペースト」の特徴
- ≫ 4.「メタシール®Softペースト」単独での根管充填
- ≫ 5.「エンドノズル® #30(オレンジ)」の特徴
- ≫ 6.「エンドノズル® #30(オレンジ)」が効果的な症例
- ≫ 7. おわりに
1. 根管充填におけるシーラーの役割
根管充填はガッタパーチャを加圧して根管壁に密着させる方法が長年行われてきた。この場合のシーラーは、わずかな間隙を封鎖するための補助的な役割にすぎず、溶解性や為害性があるため、できるだけ薄くすることが必要と考えられてきた。
しかし、近年のシーラーの進歩に伴い、根管の封鎖はガッタパーチャからシーラーに主役が移っている。
2. 接着性レジン系シーラーへの期待と懸念
接着性レジン系シーラーは、根管壁に接着すれば優れた封鎖性が得られることは容易に想像できる。一方、根管は接着にとって過酷な環境であるため、根管壁に確実に接着するのかが不安要素の一つである。
接着を阻害するものとして、まず根管壁の水分がある。根管内はエアードライが原則禁忌なので、ペーパーポイント乾燥では根管壁には相当の水分が残っていると考えなければならない。また、根管洗浄時の次亜塩素酸ナトリウムがわずかでも残存していると重合が阻害される。さらに、根管は象牙質が全周を取り囲んでいるため、重合収縮によるコントラクションギャップが生じやすい。万一根尖孔から溢出した場合には、血液でレジンの重合が不十分となって刺激性が生じ、症状が持続する危険性も危惧される。
しかし、「メタシールSoftペースト」(図1)はこれらの不安要因をすべて払拭し、接着のもつ利点を引き出すことに成功した製品である。
図1 「メタシール®Softペースト」
3.「メタシール®Softペースト」の特徴
(1)根管壁からの重合
「メタシールSoftペースト」は親水性アミノ酸系重合開始剤を使用しているため、水分のある根管壁から重合が開始される。これは「スーパーボンド」の「キャタリストV」に使用されている「TBB」と似た特徴である。根管壁から重合が開始され、シーラー全体の硬化がゆっくり進むため、コントラクションギャップは生じにくくなる。また、次亜塩素酸ナトリウムが根管壁に残存しても、重合阻害が生じないのが大きな特徴である。
(2)吸水性
「メタシールSoftペースト」は吸水性に優れ、同量の水を混和しても重合率や崩壊率、表面形態にはほとんど影響しない1)。また、水を30%混和しても象牙質との界面には樹脂含浸層とレジンタグが形成された1)(図2)。色素浸入試験では、エポキシ系レジンシーラーは水分が増加すると色素浸入が大きくなり、酸化亜鉛-脂肪酸を主成分とするシーラーでは、水の混和にかかわらず大きな色素浸入を示したが、「メタシールSoftペースト」は30%水を混和しても大きな影響がなかった1)。さらに、根管内を乾燥しても根尖孔からの水分や象牙質内の水分を吸水してわずかに膨張するため、実質的に重合収縮はなく2)、万一接着しない部位があっても十分な封鎖性が得られると考えられる。
(3)流動性
「メタシールSoftペースト」は親水性が高く、濡れた象牙質に対してもなじみが良く、細い根管にも浸入するが、根管壁の汚染を除去しておくことが必須である。ファイルが届かない側枝などは、「ルートZX3」(株式会社モリタ)で高周波電流を通電することで根管壁の有機質をすべて消失させることが可能である。
したがって、通電後には乾燥できず完全に水で満たされた側枝やフィン、イスムスなどでも、「メタシールSoftペースト」を送り込むことができれば、すべての水を吸収して硬化し、根管壁と良好に接着し高い封鎖性が期待できる。
(4)封鎖性の維持
レジンと象牙質の接着強さは経年的に低下することから、接着性レジン系シーラーの封鎖性も長期間維持されるのかは不安要素の1つかもしれない。一般に、象牙質とレジンとの接着強さは1年以内に低下して下限に達し、その後はほぼ平行になるが、「メタシールSoftペースト」の前に発売されている粉液タイプの「メタシールSoft」で根管充填した歯の予後を5年間調べた研究では、根尖病変が発現したり根尖性歯周炎が再発したりする症例は認められず、成功率の低下も認められなかった3)(図3)。
「メタシールSoftペースト」も発売から4年以上が経過するが、一旦治癒した根尖性歯周炎が再発した症例は経験がない。また、硬化後も吸水性があるので、万一接着が破綻してわずかな間隙が生じることがあったとしても、吸水により膨張して封鎖され、長期的にも封鎖性は確保されると考えている。
(5)生体親和性
一般にレジンに水を混和すると重合率が下がり生体親和性が低下する。しかし、「メタシールSoftペースト」は水を混和して直ちに結合組織内に滴下して閉創し、組織内で硬化させても、炎症がほとんど出現しなかった4)。
このことから、「メタシールSoftペースト」が根尖孔から溢出することがあっても、炎症が出現する危険性はきわめて低い。実際に根尖孔から「メタシールSoftペースト」が溢出した症例で、自発痛や打診痛が出現した経験はなく、シーラーは骨に囲まれた状態で治癒する(図4)。
(6)除去性
「メタシールSoftペースト」は硬化後もスチールバーや超音波ファイル、手用ファイルで切削可能なため、ポスト形成や再根管治療時のシーラー除去を阻害することはない。
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図2 水を混和した「メタシールSoft ペースト」と象牙質の接着(文献1より引用)
左:水の混和なし 右:シーラーに30%の水を混和樹脂含侵層(黄矢印)とレジンタグ(青矢印)がみられる。 -
図3 「メタシールSoft」で根充した歯の予後(文献3より改変して引用)
5年間治療成績が低下することがないので、根管充填の封鎖性は確保されていると考えられる。 -
図4 「メタシールSoftペースト」が根尖孔から溢出した症例
シーラーが溢出(黄矢印)したが症状は出現せず、根管充填1年後には溢出シーラーは骨に囲まれていた。
4.「メタシール®Softペースト」単独での根管充填
「メタシールSoftペースト」は接着して封鎖することから、ガッタパーチャを用いて加圧する必要はない。側方加圧またはノズルを用いた単独での根管充填を行って、歯冠側からの色素漏洩量を計測した研究5)では、ノズルを用いて「メタシールSoftペースト」単独での根管充填法が最も高い封鎖性を示した。
「メタシールSoftペースト」は流動性が高いため、特に根尖孔が大きい場合には、単独で根管充填後に仮封材を根尖方向に押すと、シーラーが根尖孔から溢出することがあるので注意したほうが良い(図4)。
また、ガッタパーチャポイントは支台築造時のポスト形成や再根管治療の根管充填材除去のためにガイドとなるので併用しても良いが、加圧することに利点はなく軽く挿入するのみで良い。
5.「エンドノズル® #30(オレンジ)」の特徴
「メタシールSoftペースト」を根尖部まで送り込めれば根管充填は成功することから、その方法が重要となる。ガッタパーチャポイントでポンピングする方法、Ni-Ti ロータリーファイルを逆回転する方法などがあるが、「エンドノズル」をCRシリンジに装着して根管内に充填する方法が最も簡単である。
これまでも#60の「エンドノズル」はあったが、「エンドノズル#30(オレンジ)」(図5)は先端が#30なので細い根管でも充填できる。また、吐出孔は先端部側面に開いているため、根尖方向にシーラーを押し出す危険性が少ない。側面からシーラーが押し出されると、歯冠側方向と根尖方向の両方に流れるため、根管が途中で分岐し、乾燥できず水が残っている場合にもシーラーは浸透し続けて根尖孔に達し、根尖孔から著しく溢出することなく、歯冠側にあふれていき根管口付近まで充填される(図6)。2根管をつなぐ管間側枝のある透明模型では、一方の根管からシーラーを押し出すだけで、管間側枝と、もう一方の根管にシーラーが流れる(図7)。
シーラーが根尖孔から溢出する危険性は低いので、途中で引き抜かず根管上部にシーラーが充填されるまでノズル先端部を動かさずに押し出し続けることがコツである。また全長が25mmあるのでほとんどの根管で長さは十分で、折り曲げてもシーラーの押し出しは悪くならないため、作業長で曲げたり(図8)、「ストップリング」の位置を作業長に合わせておいたりすると、先端部の位置が把握しやすくなる。
「メタシールSoftペースト」は光によりわずかに重合が進むことから、ノズルはオレンジ色に着色されている。それでも吐出孔付近は硬化が進むことがあるので、マイクロスコープ下で根管充填する場合にはオレンジのフィルターを入れた方が良い。
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図5 「エンドノズル#30(オレンジ)」と「エンドノズル」
先端側面の吐出孔からシーラーが押し出される(赤矢印)。両ノズルともCRシリンジに装着して使用する。 -
図6 水が残る分岐した根管への根管充填
ノズル先端(橙矢印)からシーラーを押し出すのみで、分岐した両根管の根尖孔から根管上部まで充填された(白矢印)。 -
図7 管間側枝への根管充填
ノズル先端(橙矢印)から押し出されたシーラーは管間側枝(黄矢印)を通り、もう一方の根管も過不足なく充填された。 -
図8 「エンドノズル#30(オレンジ)」の使用法
作業長で曲げてノズルを根管内に挿入し、シーラーを押し出すのみで良好な根管充填が行える。
6.「エンドノズル® #30(オレンジ)」が効果的な症例
(1)細い根管
抜髄や初回の感染根管治療で元の根管が細ければ、「メタシールSoftペースト」を「エンドノズル#30(オレンジ)」で根管充填するには#25の根管形成で十分である(図9)。
#25では歯髄や細菌の残存が心配される症例の場合に、「ルートZX3」で歯髄や細菌の蒸散を行っておけば良い。根管洗浄は必須で、EDTAでスミヤー層を除去しておくことが良好な接着に必要である。
「エンドノズル#30(オレンジ)」は03テーパーであるため、#25のNi-Tiロータリーファイルで根管形成をしておけば、作業長から約1mm歯冠側の位置まで挿入できるが、根管壁にノズルが密着していると、吐出孔がふさがれてシーラーが押し出せないため、0.5~1mm歯冠側に引き上げて、シーラーを押し出す。これで、根尖孔までシーラーが侵入し封鎖できる。
(2)外開きの太い根管
湾曲根管を直線化してジップが形成されたり、根未完成時に失活して根尖孔が大きく開いているような症例(図10)でも、「エンドノズル#30(オレンジ)」を作業長まで挿入して「メタシールSoftペースト」を押し出すことで根管充填は完了する。
加圧が不要なので、根尖部に肉芽組織があれば「メタシールSoftペースト」は組織内に浸入せず根管外への溢出はほとんどない。しかし、骨欠損内が空洞の場合には空洞内に浸入する可能性があるので、根尖孔部に組織が増殖するのを待つか、コラーゲンスポンジなどを骨欠損内に充填してから根管充填した方が良い。
(3)側枝や管間側枝、イスムスのある根管
側枝や根管と根管をつなぐ管間側枝、イスムスがあっても、「エンドノズル#30(オレンジ)」を用いて「メタシールSoftペースト」を根管内に押し出すのみで、シーラーが浸入しすべての空隙を容易に封鎖できる(図11~13)。
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図9 抜髄後の根管充填症例(64歳男性)
Ni-Ti ファイルで#25まで根管形成し根管充填した。#25のサイズで容易に根管充填できる。 -
図10 根尖孔が開大した根管への根管充填(27歳女性)
根尖部に骨欠損(黒矢印)がみられ根尖孔は外開きだが、過不足なく充填され、6か月後には骨欠損は消失した。 -
図11 管間側枝への根管充填(69歳女性)
ML根管からの充填で、MB根管にもシーラーが浸入(青矢印)し、管間側枝も容易に封鎖された。 -
図12 側枝への根管充填(59歳男性)
側枝へのシーラーの浸入(青矢印)がみられ、近心側面の骨欠損も縮小(白矢印)した。 -
図13 樋状根への根管充填(59歳女性)
近心と遠心の根管をつなぐイスムスまでシーラーで封鎖され(青矢印)、1年後には骨欠損は消失した。
7. おわりに
「メタシールSoftペースト」の優れた機能を発揮させるために、「エンドノズル#30(オレンジ)」の使用がきわめて効果的である。根管充填が簡単・確実になるだけでなく、これまで必要だったアピカルシートや根管上部のフレアー形成も不要なので、根管形成も容易になる。ただし、根管内の細菌除去は必須であることを忘れてはならない。
- 1) 鈴木 魁ら.新規メタクリル酸エステル系接着性シーラーの硬化と封鎖性に及ぼす水の影響.第151回日本歯科保存学会秋季学術大会抄録集、120、2019.
- 2) Furuta K et al. Effect of the wet environment around the root on dimensional changes in resin-based root canal sealers during setting in human extracted teeth. ODEP, 4:36-45, 2024.
- 3) 金子 至ら. メタシールSoft を用いた根管充填後の臨床成績に関する後ろ向き研究.日歯保存誌、62: 279-285, 2019.
- 4) 鈴木 魁ら.新規メタクリル酸エステル系シーラーの生体親和性に及ぼす影響.第156回日本歯科保存学会春季学術大会抄録集、39, 2022.
- 5) 伊藤修一ら. レジン系シーラーの根管封鎖性および除去性の評価.日歯内誌, 44: 27-35, 2023.
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