170号 AUTUMN 目次を見る
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歯周組織検査と記録の重要性
日本歯周病学会によるガイドライン『歯周治療の指針2015』(図1)において、歯周検査の目的は「歯周病の進行程度や原因を把握し、「正しい診断」と「適切な治療計画」を立てるための情報を得ることである。
症例に応じて必要な検査を系統的に行い、検査結果を分析して治療計画の立案や修正に生かすことが大切である。
また、SPT(Supportive Periodontal Therapy)やメインテナンス時の歯周組織の状態を評価するためにも必要である。
検査結果は必ず診療録に記録し、治療計画を立てやすくするとともに、再評価時に比較検討できるようにする」とされている。
すなわち、歯周治療を合理的に行うには、歯周病について学び理解するのみならず、適切な「歯周組織検査」を行って正確な「記録」を取り、この記録をもとに、患者さんの希望や全身状態なども考慮して治療計画を立案、治療を実行する。さらには治療開始後も「再評価」を行い、歯周組織の改善など経時的な変化を把握しながら治療計画を適切に修正、継続していくことがきわめて必要であると考えられる。
特に現在の保険治療において歯周治療を円滑に進行していくためには、初診時だけでなく、歯周基本治療の期間中や基本治療修了時、さらには歯周外科手術後など随時にわたり治癒状態を評価し、それに応じて治療計画を修正しながら治療を進めていくため、何度も歯周組織検査を行う必要がある。
この歯周組織検査は「ポケットの深さ」の測定、「歯の動揺度」、「プラーク付着状態」の検査などからなり、いずれも一口腔単位で行い記録することが必要である。
ところが、この歯周組織検査はかなりの労力と時間を要する検査であり、術者の負担は大きくなり、歯周治療に効率的とは言いがたい状況を生み出してしまう原因の一つとなっている。
例えば検査者が自分で記録も行わなければならない医院の場合だと、1点法のポケット測定を行う歯周基本検査はともかく、4点または6点法のポケット測定、歯の動揺度、プラーク付着状態を検査する歯周精密検査では(歯数や歯周病の重症度などにもよるが)診査の途中で何度もポケットプローブ、デンタルミラーと筆記用具を持ち換えなければならず、少なくとも20分以上の時間が必要となるケースも珍しくない。
しかも測定誤差や記入ミス、さらに院内感染が生じる危険性も高まってしまう。
われわれ宮地歯科医院では、そのような状況を回避するために、かつて(株)モリタから発売していた「プロービーⅢ」という検査機器をおよそ20年にわたって愛用してきた。
プロービーⅢは、モリタ製作所と北海道大学歯学部歯科保存学第二講座(当時)が1990年代後半に共同開発しており、「一人で歯周組織検査と記録(歯周基本検査と歯周精密検査)ができ、チェアタイムの短縮、効率化ができる」という基本コンセプトは、当時としては非常に画期的な内容であった(図2)。
具体的には、設置スペースに余裕のないチェアサイドでの使用を想定して計測ユニットとプリンターから構成されていて、計測ユニットは充電式バッテリーの採用でブラケットテーブル上にも置ける小型サイズであった。
プリンター兼充電ユニットはやや大型ではあるものの受付などのデスク上に設置でき、計測結果を複数人分記録しておくことができたので、治療後にまとめてプリントアウトすることが可能であった。
プロービング方法は、オートクレーブ滅菌可能な交換式プローブハンドピース先端の探針部をポケット内に挿入した後、測定スプリングを可動し、これを歯肉辺縁に位置づけし、フットペダルを押すことにより記録できるシステムで、測定精度も臨床的に必要十分なレベルであった(図3、4)。
しかし、残念ながら後継機種が登場しないまま内蔵バッテリーを交換し、消耗品の在庫をいたる所からディーラーに取り寄せていただきながら、20年にわたり使い続けながら運用してきたが、2~3年前からそれも限界を迎えようとしつつあり、代替策の用意を迫られていた。
そんな最中に、ナルコーム社が開発・発売していた「Pam」の存在を知った。
そして昨年になり、当院で既に導入済みであったモリタDOORシステムとの連携が発表されたのを契機にPamを導入し、プロービーⅢの運用に幕を下ろした。
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図1 『歯周治療の指針2015』日本歯周病学会のHPよりダウンロード、閲覧可能である。
(http://www.perio.jp/publication/guideline.shtml) -
図2 歯周検査器「プロービーⅢ」の発売当時のパンフレット。今から20年以上前の機器としては、非常に先見性の高いコンセプトであった。 -
図3 当院で最近まで運用されていた「プロービーⅢ」。 -
図4 最大4件までの検査結果を記憶させることができた。
「Pam」のシステム構成
Pamは付属の専用アプリケーションである「ペリオスタジオ」がインストールされたWindowsOS対応のPC/タブレットに、本体であるブローブユニットとディスポヘッド、フットスイッチ(有線または無線)から成り立っている(図5)。
使い方は簡単で、Pamプローブユニットに装着したディスポヘッド先端を通法にのっとってポケット内に挿入し、適正な位置でフットスイッチを踏み押すと計測したポケット数値がアプリケーションに送信される。
また、ユーザー設定により「出血」や「排膿」「戻る」「仮入力」などを、通常押しと長押しで使い分けることができ、計測された数値はペリオスタジオに自動的に送信される。これによって、歯科医師や歯科衛生士は補助なしでも多項目に渡る検査をスムーズに行うことができる。
使用上のコツ
1. 簡単に歯周ポケット検査が可能に
これまで、歯周ポケット数値の計測は個人の習熟度に頼るところが大きく、検査者によって数値にばらつきが避けられなかった。
Pamは歯周ポケットに挿入すると、適切な圧力20~25gで計測できるよう調整してあるので、簡単にかつ安定して歯周ポケット検査を行うことができる。
2. 補助なしで歯周ポケット検査の数値入力が可能に
Pamで計測した数値は、フットスイッチを踏むことで入力ができるので、両手を計測に専念させることができる。入力のたびに検査器具を筆記用具と持ち替えることも、記録のために補助の人をつける必要もない。
今までよりも歯周ポケット検査を短時間で行うことができ、チェアタイムの短縮のみならず、患者さんの緊張や侵襲も軽減できる。
3. 先端部はディスポーザブル
先端部は取り外しが可能で、衛生面も考慮されたディスポーザブルタイプのチップになっている。
それぞれのチップはカバーをかけられた上で個包装されており、患者さんの目の前で開封・使用することで視覚的にアピールすることも可能である。
なお、先端長は7mmと13mmの2種類が用意されており、患者さんの歯周ポケットの深さに合わせて使い分けられるようになっている(図6)。
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図5 当院ではWindows OSのタブレットPCに付属の専用ソフトウェアをインストール、運用している。 -
図6 ディスポーザブル式のプローブ先端には7mmと13mmの2種類が用意されており、それぞれ個包装されている。
モリタDOORシステムとの同期
Pamで計測された検査データは専用アプリケーションソフトであるペリオスタジオに入力される。
このソフト自体も可視性に長けたものではあるが、これまではスタンドアローン的な運用にとどまることで、別途WindowsPCを用意することなどが必要であり、当院も導入については暫く二の足を踏んでいた。
しかしながら今回、モリタDOORシステムとの連携が可能になったことで、既に同システムを導入しているユーザーにとっては運用しやすくなったと言える。
もともとDOORシステムにも、「Chirpy(チャーピィ)」という口腔診査入力システムが存在していたが、これまでは歯周検査のデータを個々に入力する必要があった。
しかし、今回DOORシステムと同期が可能となったことで、Pamによって得られた測定結果は、まず接続されたPC端末上の「ペリオスタジオ」に歯周検査データが入力され、保存と同時に院内LANを介して同期、反映されるようになった。
その結果、ChirpyⅢのみならず基幹システムとなる「DOC-5 PROCYON」へも検査データが入力され、そこからP病名や部位、治療計画、コメントが自動生成され、カルテ入力の手間を大幅に削減することも可能となった。
これらのカルテ情報は、さらに患者向けプレゼンテーション用システム「TrinityCore Pro」とも連動するので、検査結果をグラフィカルに表示でき、患者さんへの説明やセルフケア用品の提案などにも有効である。
実際に使用してみて(図7~23)
本装置のハンドピースは有線式ではあるものの軽量であり、ほぼ一定荷重でポケットの深さを計測でき、使用回数を重ねることにより計測に必要な時間は短縮されてきた。
初めて全顎的精密検査をPamで行う際に要した時間は20分以上であったが、数回使用していくと操作方法にも慣れていき、現在では10分強程度とおよそ半分近くに短縮されている。
フットペダルの踏み分けで排膿や出血などポケット深さ以外の他の有益な情報の記録も簡便に行えることによって、検査効率は通常のポケットプローブを用いる形式よりも向上している。
さらにチェアサイドでは、検査結果を自動的に音声で読み上げるため、ディスプレイ上で確認しなくても測定を進められるとともに、患者さんも現状の歯周ポケットの状態を即時に把握できることで、検査後の説明・患者さん側の理解も円滑に進むようになったというメリットも、ここに書き添えたいと思う。
このPamによる検査時間の短縮と簡便化、精度の向上は、患者さんへのストレス軽減にもつながり、今後ますます到来するであろう、高齢化社会とSPTなど中・長期的な歯科メインテナンスにおいて、本システムのさらなる改良・進化と共に、多大な貢献を果たしていくことを期待したい。
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図7 患者ごとの単回使用のため、院内感染予防対策になる。なお金属製のため、インプラント部位の測定には不向きである。 -
図8 ディスポヘッドの構造上、このような持ち方が推奨されている。 -
図9 挿入圧は20~25gとほぼ一定となるように設計されている。 -
図10 無線式の2ペダル式フットスイッチは充電の必要も無く、使いやすい。 -
図11 フットスイッチは通常・長押しそれぞれにコマンドを設定可能である。 -
図12 測定の都度、ペンに持ち替えて記入する必要が無いため、コンタミネーションのリスクは格段に減少した。 -
図13 チェアサイドでディスプレイを確認できるとともに、音声でポケット深さをアナウンスさせることも可能である。 -
図14 数字はポケット深さ、色によって出血・排膿の有無が表示される。 -
図15 ペリオスタジオの表示形式は検査中でも確認しやすい。 -
図16 検査後、直ちに結果を患者さんへ示すことも簡便に行える。 -
図17 検査結果はLANネットワークを介してDOORシステムと同期・反映される。 -
図18 Pamは接続されているPC上から設定変更が可能である。 -
図19 デフォルトのままでもそれなりに運用可能だが、自由度はかなり高い -
図20 歯列入力の順番も細かくカスタマイズ可能である。 -
図21 歯周精密検査(4点法)の入力画面。 -
図22 歯周精密検査(6点法)の入力画面。 -
図23 歯周基本検査(1点法)の入力画面。
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