120号 SPRING 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 症例1 ラミネートベニア
- ≫ 症例2 ジャケットクラウン
- ≫ おわりに
■はじめに
オールセラミックスによる修復は、メタルをその構造に有しないため、支台歯マージン部や周辺組織に対して色調面や生体親和性の面では有効な修復方法である。また患者からも、可能な限り口腔内から金属をなくしたいという要望が高まっている。
それだけでなく、修復が多数におよぶ場合は明らかに不自然であっても、より白くしたい、歯を長くしたい、短くしたい、過度に歯肉をみせたくない、歯列を整えたいなど、個々の美的理念に合う審美修復を希望するようになってきた。
本稿では、ポーセレンラミネートベニア法を応用して患者の審美的要求に応えた症例を提示し、臨床ステップに沿って、用いた材料を検証してみたい。
図1は、本症例のラミネートベニアを製作するために使用したノリタケスーパーポーセレンAAA、スクリーニングポーセレン(狭義のマスキングポーセレン・商品名)、およびこれらポーセレンの熱膨張係数に合った専用耐火模型材ノリベストである。
このなかでスクリーニングポーセレンは、おもに色調の変更をともなう場合に使用する。
本症例では、修復部位を含め、それ以外の隣在歯もブリーチングしており、患者の白い歯に対する要求は高い。すなわち、ブリーチングによって得られた天然歯の色調と同等か、それ以上に白い色調が修復後に求められる。
したがって、スクリーニングポーセレンのうち、支台歯の色調をある程度活かしながら明るい色調に変更することができるS-Brownを採用することにした。
図2-1は、本症例のラミネートベニアを支台歯に接着するために使用したクリアフィルエステティックセメント(クラレメディカル)である。
色調と透明度は、臨床において使いやすいよう厳選・調整され、チェアサイドで容易に修復後の色調確認ができる各色トライインペースト(図2-2)もある。
特にラミネートベニアのようなポーセレン層の薄い修復物では、支台歯とセメントの両方の色調の影響が修復結果を大きく左右する。つまり、ラミネートベニア単体で希望する色調が得られにくい症例でこそ、セメントのパフォーマンスが必要になる。
以下アトラス形式にならい、ラミネートベニア修復の一連の工程およびジャケットクラウン修復を供覧したい。
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図1 今回の症例に用いたノリタケスーパーポーセレンAAA、スクリーニングポーセレン、専用耐火模型材ノリベスト(ノリタケデンタルサプライ)。 -
図2-1 本症例のラミネートベニアを支台歯に接着するためにもちいたクリアフィルエステティックセメント(クラレメディカル)。 -
図2-2 セメントとトライインペースト各5色が準備されている。
■症例1 ラミネートベニア
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図3 形成前の口腔内の状態。修復歯を含め、ブリーチングをおこなって天然歯の色調を明るくしてある。修復後の色調は現在と同等かそれ以上に明るく、形態的には歯間空隙を埋めながら中切歯のと長さのプロポーションを修正する必要がある。 -
図4 術前の参考模型。ここでは各歯冠間の空隙量(模型上に鉛筆で記入)を観察した。通常、2枚のラミネートベニアを使って空隙を埋める場合は、この数値の2分の1ずつ正中側に張らせることになる。 -
図5 図4の模型をもとに、中切歯の切縁を1.2mmカットし、ワックスで幅を調整して作製したモックアップ。 -
図6 形成量を確認しながら終了したラミネートベニアの支台歯。正中側に向かってポーセレンを張らせる必要がある場合、各歯牙の近心歯頸部のマージンは歯肉縁下約0.8mmに設定し、縁下からなだらかなカーブのカウンツアーをもって立ち上げる。 -
図7 支台歯のシェードの確認。必ず水等で形成面を湿潤状態に保ち、過度な光の反射を避ける。支台歯はノリタケシェードガイドのNP1.5くらいの明るさを呈する。 -
図8 作業用模型。筆者は、白色の耐火模型材(ノリベスト)を使用するため、ラミネートベニアを製作する際には同じ白色の石膏をもちいて作業模型をつくっている。 -
図9 支台歯の歯頸部色を活かすレンズエフェクトテクニックに対応する部分にトランスルーセントTX(高透明)、その他全面にスクリーニングポーセレンS-Brownをごく一層ウオッシュベイクしたところ。焼成温度は950℃。焼成面にツヤがでる状態が適正温度。 -
図10 歯間空隙部分にS-BrownとOBOrengeを1:1で混ぜたものを先に築盛する。歯質のない部分なので、明るくてかつ彩度が下がり過ぎないポーセレンとして調合した。 -
図11 マージン付近約0.3mmにTX、続けてS-Brownを厚さ約0.3mmになるように築盛する。 -
図12 図11の焼成後の状態。収縮により、歯間空隙の部分が不足した。 -
図13 再度歯間空隙の不足部分に図10と同じポーセレン、唇側のS-Brownが足らない部分にも追加築盛したのち、同じ温度で焼成した。 -
図14 ボディA1Bの築盛。カットされた切縁部分に少しオーバーラップするように築盛した。 -
図15 エナメルE1の築盛。ボディでつくったマメロン部分にのみ重ねて築盛した。 -
図16 ラスターポーセレンLT1の築盛。焼成収縮を見込んで大きめに築盛する。 -
図17 形態修正、グレーズを終了し、耐火模型(ノリベスト)を除去して得られたポーセレンラミネートベニア唇側面。図8と同じ作業模型上にのせたところ。
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図18 5つの色調と透明性のバリエーション。
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図19 完成したポーセレンラミネートベニア。全体に明るめの色調が得られた。マージン部分はトランスルーセントTXを使用したため、透明度が高い。 -
図20 4色のトライインペーストを使って修復後の色調をイメージしてみたところ。右側切歯より、ブリーチ、ユニバーサル、クリア、オペークの順番であるが、やはり患者の希望するイメージは右側切歯(写真では左端)の色調。 -
図21 リン酸エッチングによって接着準備の整ったエナメル質表面。ほとんどすべての表面が脱灰しており、エナメル質範囲内での適正な形成だったことがわかる。 -
図22 支台歯にEDプライマーⅡを塗布する。この後軽くエアーブローしておく。 -
図23 新しくシステムに加わった1液性セラミックプライマー。清掃されたベニアの内面に塗布する。 -
図24 セラミックプライマーはすぐに乾燥する。続いてエステティックセメントのブリーチをマージン付近を除く内面に、マージン部分にはクリアを塗布する。 -
図25 ラミネートベニアをゆっくり圧接する。本症例では2色のセメントをもちいた。ブリーチの目的は歯冠色の明度の向上、クリアの目的はマージン付近の自然感の獲得である。圧接の際に色調の確認をおこたってはならない。 -
図26 セメンティング直後の状態。通常、下顎の中切歯は最も白い。したがって、一口腔内における審美領域の色調のバランスという意味では理想に近い。 -
図27 比色シェードガイドによる色調の確認。図7では支台歯のシェードはNP1.5であったが、修復後NW0.5に近いシェードになり、患者の高い満足が得られた。
■症例2 ジャケットクラウン
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図28 ジャケットクラウン用の支台歯形成がなされた状態。非常にきれいな色調を呈する。 -
図29 前症例と同様のマテリアルを使用して作製したポーセレンジャケットクラウン。コアフレームを有さないため、透過性に優れる。 -
図30 エステティックセメントにて装着された状態。ユニバーサル色を用いることにより、支台歯とクラウンの色調が同化している。
■おわりに
今回は、審美歯科治療の重要性が唱えられるなか、タイミングよく発売されたクリアフィルエステティックセメントをポーセレンラミネートベニアおよびジャケットクラウンの接着に使用した症例について供覧した。
わが国にポーセレンラミネートベニア法が紹介された当初は、レジンセメントの種類も多く、むしろセメントの色調をコントロールすることで修復後のラミネートベニアを口腔内に調和させた感があった。ところが、ベニア内面への均一なセメントスペースを与えることの困難さ、厚くなりすぎたセメントの強度が早期に低下することへの懸念から、単一色のセメントおよびラミネートベニア単体で色調再現をおこなうようになった。
クリアフィルエステティックセメントは、セラミックプライマーの併用による接着能力の高さとセメント自体の強い強度で再び色調調整の選択肢を広げたといえよう。
今日、CAD/CAMが牽引するかたちでオールセラミックスが脚光をあびているが、同時に患者の要望もきわめて多彩になった。現代の審美修復において筆者らは、セメントこそがチェアサイドとラボサイドをつなぐコミュニケーションツールであると考えている。
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