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120号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

インプラント(SPI® CONTACT Implant)治療を利用した口腔内環境の確立

林 正人

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■目 次

■はじめに

口腔内の清掃状態は、清掃の手技、回数、時間帯のみならず口腔内環境に大きく左右される。また、口腔内環境の破壊には、原因として全身的と局所的とに区分され、全身的には代謝系疾患、循環器疾患、血液疾患、骨疾患および内分泌疾患等があげられ、局所的にはカリエス、小帯の位置、付着歯肉、唾液の質と量、不良補綴、咬合、歯周病、歯列不整および智歯等があげられる。
その結果、天然歯のみならずインプラントにおいてもその周囲歯槽骨の吸収を惹起する。すなわち、それらの原因を追求し解決することが必要となる。
今回、臼歯部における口腔内環境をインプラント(SPI®CONTACT Implant)埋入、GBR Techniqueおよび口腔前庭拡張術を併用し改善した症例を紹介する。

■症 例

患者:35歳、女性
初診:2004年11月5日
主訴:下顎左側第一大臼歯の違和感
既往歴・家族歴:特記すべき事項なし
現病歴
2004年11月初旬、患者は下顎左側第一大臼歯根分岐部に歯間ブラシが破折し違和感を訴えて来院した。患者は6年前、某歯科医院にて下顎左側第一大臼歯の根管治療および補綴処置を施行した。
初診時の口腔内所見において、歯頸部ラインは凹凸不整であり、口腔前庭が完全に失われていた(図1a1c)。
またX 線所見において、根分岐部を中心に骨吸収が認められ、さらに破折した歯間ブラシの不透過像が認められた(図2)。
現症
全身的所見;身長152cm、体重46kg
口腔内所見;下顎左側第一大臼歯歯頸部ラインの凹凸不整および口腔前庭の消失
治療方針
下顎左側第一大臼歯抜歯後、インプラントを利用した補綴処置を予定
下顎左側第一大臼歯抜歯
口腔内所見における下顎左側第一大臼歯歯頸部ラインの凹凸不整および口腔前庭の消失を考慮し、抜歯時の骨および粘膜処理に注意した。
まず、切開線を下顎左側第一大臼歯歯肉溝底部、さらに縦切開を下顎左側第二小臼歯遠心隅角部および下顎左側第二大臼歯近心隅角部から扇状に求め、全層弁にて剥離翻転した。
次に下顎左側第一大臼歯の抜歯を施行した。
抜歯後は不良肉芽の掻爬を鋭匙およびラウンドバーを用いて確実に行い、粘膜縫合時には唇頬側に減張切開を追加し、抜歯窩にT C コーンおよびテルプラグM<(株)テルモ>を挿入し、ベアーメディック社のブレードシルク糸付縫合針3 - 0 を用いてマットレス縫合および単純縫合を行い下顎左側第一大臼歯の抜歯を終了した。
下顎左側第一大臼歯抜歯後のインプラント埋入およびGBR手術
抜歯2ヵ月後(2005年1月14日)にインプラント埋入手術およびGBR法による骨造成術を施行した(図3a , b)。
まず、2%キシロカイン3.6mLによる浸潤麻酔後、歯槽骨頂部に切開線を求め、抜歯時と同様に縦切開を下顎左側第二小臼歯遠心隅角部および下顎左側第二大臼歯近心隅角部から扇状に求め、全層弁にて粘膜骨膜弁を剥離翻転した(図4)頬側の顎骨欠損状態は予想以上に大きいため、通常よりやや舌側よりにドリリングを行い、埋入孔を拡大していき、SPI® CONTACT Implant(φ4.5 3.5mm/L9.5mm)埋入に必要な深さを獲得しインプラントを埋入した後、ヒーリングキャップを装着した(図56)。
その際、骨欠損状態とTop Down Treatmentを考慮し、インプラントの選択およびプラットホームの位置を決定した。なお、この時点においてインプラント部の頬側骨壁が大きく欠損し、埋入時における表面処理部の露出が免れないためGBR法を併用した。
まず、周囲の皮質骨から骨髄に到達するまで穿孔し、骨表面に出血を促した後、露出した表面処理部を閉鎖するように自家骨細片を填入した。その後、barrier membraneとしてe-PTFE膜を使用してインプラント体が露出しないように被覆し、ボーンタックを用いて確実に固定した(図78)。粘膜縫合時には唇頬側に減張切開を追加し、ゴアテックススーチャーを用いてマットレス縫合と単純縫合を行い、インプラント埋入およびGBR手術を終了した(図911)。
経過
術後2週間は毎食後に0.2%クロルヘキシジン(グルコン酸クロルヘキシジン)による口腔内洗浄と組織修復促進剤(Solcoseryl軟膏)の塗布を行い創部の安静を図った。
その後、barrier membraneの露出は全く認められず(図12)、約2ヵ月後(2005年3月15日)には浸潤麻酔下において歯槽骨頂部を切開・剥離し、barrier membrane除去手術を施行した(図13)。
barrier membrane下においてインプラント体を完全に取り囲むように白色状のやや弾性のある骨様組織の形成を肉眼的に認めることができ、良好な術後経過を示していた(図1416)。
術後約5ヵ月(2005年6月7日)のX線所見において骨様組織の形成を示唆する明らかな不透過像が認められ、さらにPTVは-6を示していた(図17)。
そこで、アバットメントの装着を行い、テンポラリークラウンを作製し口腔前庭拡張術を施行した(図18)。
粘膜治癒後は、上部構造を作製した(図1921)。
現在のところ、埋入したインプラント周囲では大きな発赤等は認められず、良好な術後経過を示している。

  • [写真] 初診時の口腔内所見
    図1-a 初診時の口腔内所見:初診時の口腔内所見において、歯頸部ラインは凹凸不整である。
  • [写真] 初診時の口腔内所見
    図1-b 初診時の口腔内所見:不良補綴物の装着。
  • [写真] 初診時の口腔内所見
    図1-c 初診時の口腔内所見:口腔前庭が完全に失われていた。
  • [写真] 初診時のX線所見
    図2 初診時のX線所見:根分岐部を中心に骨吸収が認められ、さらに破折した歯間ブラシの不透過像が認められた。
  • [写真] 抜歯後2ヵ月の口腔内所見
    図3-a 抜歯後2ヵ月の口腔内所見:抜歯後の粘膜は、ほぼ完全に治癒している。
  • [写真] 抜歯後2ヵ月のX線所見
    図3-b 抜歯後2ヵ月のX線所見:抜歯窩のX線透過像が認められる。
  • [写真] 切開・剥離
    図4 切開・剥離:頬側の顎骨欠損状態は予想以上に大きく、抜歯窩は骨様の肉芽で充満していた。
  • [写真] SPI®CONTACTインプラント埋入
    図5 SPI®CONTACTインプラント埋入:Top Down Treatmentを考慮し、埋入位置を垂直的、頬舌的、近遠心的および傾斜角度に注意し決定した。
  • [写真] SPI® CONTACTインプラントヒーリングキャップ装着
    図6 SPI® CONTACTインプラントヒーリングキャップ装着。
  • [写真] 自家骨細片の移植
    図7 自家骨細片の移植:露出した表面処理部を閉鎖するように自家骨細片を填入した。
  • [写真] Membrane設置と安定化
    図8 Membrane設置と安定化:Membrane(e-PTFE)を使用してインプラント体が露出しないように骨欠損部を完全に被覆し、ボーンタックを用いて確実に固定した。
  • [写真] 減張切開
    図9 減張切開:唇頬側に減張切開を追加した。
  • [写真] 縫合
    図10 縫合:マットレス縫合および単純縫合を行った。
  • [写真] 術直後のX線所見
    図11 術直後のX線所見:インプラント体の遠心側に明らかなX線透過像が認められる。
  • [写真] 術後2ヵ月の口腔内所見
    図12 術後2ヵ月の口腔内所見:Membraneの露出は全く認められない。
  • [写真] Membrane除去手術(切開・剥離)
    図13 Membrane除去手術(切開・剥離):Membraneは安定した状態で完全にインプラント体を被覆していた。
  • [写真] Membrane除去時の口腔内所見
    図14 Membrane除去時の口腔内所見:幼弱な骨様組織を傷つけないように丁寧にMembraneを除去した。
  • [写真] Membrane除去直後の口腔内所見
    図15 Membrane除去直後の口腔内所見:インプラント体を完全に取り囲むように白色状のやや弾性のある骨様組織の形成を肉眼的に認めた。
  • [写真] 除去したMembraneおよびボーンタック
    図16 除去したMembraneおよびボーンタック:粘膜直下にMembraneの取り残しを懸念し、除去したMembraneの大きさおよび形状を再確認した。
  • [写真] 術後5ヵ月のX線所見
    図17 術後5ヵ月のX線所見:X線所見において骨様組織の形成を示唆する明らかな不透過像が認められた。
  • [写真] 口腔前庭拡張術
    図18 口腔前庭拡張術:テンポラリークラウンを装着し、口腔前庭拡張術を施行した。
  • [写真] 6 部構造装着直後の口腔内所見
    図19 6部構造装着直後の口腔内所見:口腔前庭が獲得された。
  • [写真] 初診時および上部構造装着直後の口腔内所見
    図20 初診時および上部構造装着直後の口腔内所見:初診時における歯頸部ラインの凹凸不整がほぼ解消され、口腔前庭も獲得された。
  • [写真] 上部構造装着後3ヵ月のX線所見
    図21 上部構造装着後3ヵ月のX線所見:インプラント体遠心側には明らかなX線不透過像が認められた。

■まとめ

最善の口腔衛生状態を維持するには、患者自身による日々の口腔内清掃や歯科医院におけるPMTCなどが必要となる。しかし、患者自身による日々の口腔内清掃は口腔内環境によって限界がある。
すなわち、口腔内環境を確立することは、良好な口腔衛生状態を維持する上で非常に重要なことである。
今回の症例は、口腔内の局所的環境条件が齎した結果と考えられ、原因の追求と歯周組織の改善を考慮した上でインプラント(SPI® CONTACT Implant)による補綴処置を施行した。
その結果、良好な口腔内環境および審美性を獲得することができた。
インプラント治療は瞠目の進歩を遂げ、一時的咀嚼機能の回復からOsseointegrationの確立により長期的医療を確立した時代へと移り変わり、確実なものとしてのインプラントロジーに焦点が注がれている。
そのため、単にインプラントを埋入し、一時的な咀嚼機能の獲得のみではなく、埋入位置(垂直的、頬舌的、近遠心的、傾斜角度)、GBRによる骨の造成および口腔前庭拡張術などを考慮し長期的医療の確立を目指していくべきであろう。すなわち、上部構造装着時点がその予後のスタートラインであることを忘れてはならない。

参考文献
  • 1) 林 正人:中級者のためのインプラント臨床;ゼニス出版、東京、2006.
  • 2) BUSER, D., DAHLIN, C. and SCHENK, R. K.:中村社綱、末田 武、井上 孝、小宮山彌太郎:GBRの歯科インプラントへの応用;クインテッセンス出版、東京、1995:Guided Bone Regeneration in Implant Dentistry, 1st ed., Quintessence Pub. Co., USA, 1992.
  • 3) 林 正人、中村 義、松田俊男、山本浩嗣、川原春幸:A case using One-piece Screw Implants with GBR, Titanium plate and Autogenous Bone Graft after Rad:cular Cystextipation;日口腔インプラント誌、(4)88-94, 2000.

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