181号 SUMMER 目次を見る
Field Report
患者さんの行動変容や意識改革を促す当院の“お役立ちツール”たち
目 次
<田中康之 院長>
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京都府舞鶴市
たなか歯科クリニック
院長 田中 康之
予防歯科をベースに患者さんのお口に対する意識を変えてもらえるような歯科医院づくりを目指して、1年半前に地元京都府舞鶴市で開業しました。診療の流れとしては、まず患者さんの要望や目指す将来像を丁寧にヒアリングすることから始まります。そこで、口腔内の現状を確認しながら、患者さんが納得できるゴールを定めるために、45分程度のカウンセリング時間を設けるようにしています。この地域では「歯科医院は削って詰め物をしてもらうところ」と思っておられる方も多く、そのたびに「削って詰めても歯は治りません。本当はそうならないようにするのが私たちの仕事なんですよ」とお話しすると、それまで早く治療して欲しい(削って詰めて欲しい)と来られた方も「そんなこと今まで言われたことがなかった」と驚かれて、次回の来院時から私やスタッフの説明にも真剣に耳を傾けてくださるようになりました。
さて、当院では新しい診療ツールを導入する際には、まずスタッフ全員で実際に使ってみて「これは使えそう」という評価になれば導入するスタイルをとっています。今回は院内で大変重宝しているツールをご紹介します。
一つ目は多項目・短時間唾液検査システム「Salivary Multi Test(SMT)」(ライオン歯科材)です。予防に注力するうえで、患者さんの行動変容につながるツールとして、唾液検査は欠かせないと感じていました。SMTはコストや手間の点で患者さんへの負担が少なく、結果がすぐに確認できるのも大きなメリットです。何より患者さんの口腔状態が一目でわかる結果シートは、学生時代のスポーツ測定の結果のように、「何とか数値を改善したい」とスイッチが入る患者さんも多いです。SMTは歯周組織検査、X線画像検査、口腔内写真などの資料採得に加えて行い、その結果を口腔衛生指導(OHI:oral hygiene instruction 以下OHI)に活用しています(症例1)。
そして二つ目として、カウンセリングやOHIの際にとても有効なツールが「Trinityアニメ」です。症例2は初診時60歳の男性ですが、歯がグラグラして違和感があるとの主訴で来院されました。プラークコントロールは不良で歯周病は進行しており、歯肉の発赤、腫脹だけでなく病的な歯の移動も認めました。そこでTrinityアニメを活用して、主に私が歯周病の病因論や歯周基本治療の流れを説明し、歯科衛生士がブラシの当て方や歯間清掃用具の説明などを丁寧に行った結果、患者さんの行動変容を促し、プラークコントロールが大幅に改善しました。歯周基本治療が進むにつれ、歯周組織の状態にも改善を認め、主訴の違和感も消失しました。患者さんはとても喜んでくださり、OHIで歯科衛生士が提案したセルフケア製品をその後も継続して使用してくださっています。Trinityアニメを導入するまでは自らイラストを描いて説明していましたが、時間がかかるわりに口腔のしくみを知らない方には伝わりにくく、単なる自己満足と感じていました。Trinityアニメはイラストが鮮明でバリエーションも多いうえ動画になっているので、ご自身の治療がこれからどのように進んでいくのかを具体的にイメージしてもらうのにとても重宝しています。
そして最後に、義歯を装着している患者さんに有効なツールをご紹介します。都市部に比べて、この地域の高齢者は多数歯欠損や無歯顎、さらに欠損放置の状態の方も多く、私も開業以来多くの義歯を作製してきました。ただ、「古くなったらまた新しい義歯を作ってもらったらいい」と安易に考えている方も多く、その度に「新しい義歯を作るのはお互いに大変ですよね。ですから、せっかく作ったこの義歯をキレイな状態で長持ちさせませんか」とお話ししてきました。義歯コーティングシステム「キレイキープ」(サンメディカル)は導入費用が安価なので、何かと経済的な負担が大きい開業時のタイミングでも無理なく導入することができました。来院時のデンチャープラークや歯石の付着が減少し、患者さんからは「以前よりもヌメリを感じなくなった」「ニオイがましになった」などのお声をいただいています(症例3)。当院では義歯の状態を確認後、まず義歯の汚れを機械的に除去し、薬液につけ超音波洗浄を行います。その後、調整を行い、最後レーズなどで研磨を行ったのちにキレイキープを行っています。患者さんにとって見た目がキレイになることはもちろん、ヌメリやニオイが軽減されることが大きいようです。特に女性はニオイに対してデリケートなので「ニオイの原因になる細菌の付着を減らしてくれますよ」というアプローチが有効で、男性は「抗菌コーティング」という言葉に触発されて、それぞれ継続するモチベーションに繋がるようです。
今後もこれらお役立ちツールを活用し、お口の健康を大切に考えてくださる患者さんを増やせるようスタッフ共々精進したいと思います。
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症例1-1 37歳女性。初診時の口腔内。歯間部に歯石の沈着、同部歯肉の発赤、腫脹を認める。SMTで分かる項目、簡便さなどについて説明し、患者の了承を得た。
初回のSMTの結果。う蝕リスクを示す数値だけでなく、白血球などの歯肉の炎症を示す数値も高い。 -
「TrinityCore3」のランチャー機能を使うことで、X線画像や口腔内写真、SMTの結果などの患者データを一括表示(SMT連携)することが可能となる。
初診時の各種検査結果と併せてSMTの結果も活用し、歯科衛生士がOHIを行う。その際に「TrinityCore3」を使うことで、写真を時系列に並べたり、文字や矢印などを書き込むことが可能となり、視覚的にわかりやすい患者説明が可能となる。 -
症例1-2 歯周基本治療終了後の口腔内。歯間部歯肉の発赤、腫脹に改善を認める。今後、上顎前歯部の修復治療を予定している。
歯周基本治療後のSMTの結果。OHI後のセルフケアの徹底もあり、歯肉の炎症を示す数値の大幅な改善が認められる。 -
症例2-1 60歳男性。初診時の口腔内。歯の動揺と違和感を訴え来院。全顎的に顕著なプラークおよび歯石の付着、歯肉の発赤、腫脹を認める。 -
症例2-2 OHI、歯肉縁上の歯石除去後の口腔内。プラークコントロールが改善、少しずつ歯肉の発赤、腫脹も改善してきた。 -
症例2-3 歯肉縁下の歯石除去後の口腔内。歯周組織の変化とともにフレアアウトしていた上顎前歯にも変化を認める。 -
症例3-1 66歳男性。新製した総義歯。この状態を長く保つために「キレイキープ」をお薦めしたところ快諾いただいた。 -
症例3-2 装着後1年の状態。装着から3ヵ月ごとに計3回「キレイキープ」を行った。元々義歯のお手入れに対して意識の高い方ではなかったが、外見上は大きな変化は認めない。 -
症例3-3 装着後1年、プラーク染め出し後の状態。前回「キレイキープ」を行ってから3ヵ月経過しているが、デンチャープラークの付着は少ないように感じる。
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