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アメリカに見る睡眠歯科のトレンドとウェルビーイング実現へのヒント

東京都渋谷区 DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 歯科医師 宮地 舞/ブランドディレクター 宮地 理津子

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目 次

東京都渋谷区 
DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA

  • [写真] 歯科医師 宮地 舞
    歯科医師
    宮地 舞
  • [写真] ブランドディレクター 宮地 理津子
    ブランドディレクター
    宮地 理津子

米国睡眠歯科医学会専門医の資格を持つ「DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA」の宮地舞先生が、今年前半にアメリカのフィラデルフィアやロサンゼルス、ニューヨークを訪れ、現地のクリニックなどを視察されました。審美歯科と睡眠歯科の親和性、人々の健康観、最新のトレンドなどに触れながら、これからの睡眠歯科の可能性について探ります。
また、クリニックのブランドディレクターを務める宮地理津子先生には、医療におけるコミュニケーションのポイントについて、お話を伺いました。

“よりよく生きる”を支える審美歯科と睡眠歯科

アメリカでは近年、睡眠歯科を専門領域として掲げるクリニックが増えています。特に今回の視察で印象に残ったのは、審美歯科を主軸にする歯科医院が、睡眠歯科の分野にもアプローチを広げているケースです。睡眠の領域と審美や美容などの分野はオーバーラップする部分が多く、両者を並行して取り組むことによって相乗効果が期待できるという考え方が、美容や健康に関心を持つ人たちの間で広がりつつあるように感じます。
例えば、ロサンゼルスで見学した審美歯科のクリニックでは、「睡眠と美容」という切り口で睡眠歯科のプログラムを提供していました。ホワイトニングなどの審美的処置に加え、睡眠を改善させることで心身の状態を総合的に高めていくという発想です。
睡眠歯科では、口腔内装置(Oral Appliance)の装着だけではなく、食事や生活リズム、運動といった患者さんの日常生活そのものにアプローチするケースがあります。実際、当院でも、24時間を見据えた包括的なケアを行う中で、睡眠の改善から前向きな気持ちが引き出され、「もっときれいに、もっと健康になりたい」と審美歯科や美容への関心を高める患者さんがいらっしゃいます。一方で、歯並びを整えたり、ホワイトニングを行うことで日中の活動が活発になり、それが良質な睡眠を後押しすることもあります。
審美歯科と睡眠歯科は患者さんの「よりよく生きたい」という気持ちに応える点で親和性が高く、今後、日本でも両者を組み合わせた取り組みが広がっていく可能性を感じています。

アメリカの健康トレンドと新たな選択肢

ニューヨーク滞在中には、人々の健康意識を探るためにスーパーマーケットにも足を運びました。店頭にはタンパク質入りの食品やスナック、ドリンクが数多く並び、若い世代から高齢者まで幅広い年齢層の方々が手に取っている様子が印象的でした。眠りを誘うホルモンであるメラトニンは、タンパク質に多く含まれるトリプトファンから生成されます。そのため、睡眠歯科の視点からもタンパク質入りの食品などが流行していることは興味深く感じました。
一方、アメリカの睡眠学会(AASM)で注目されているのが、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる肥満治療薬です。これはもともと糖尿病の治療薬として開発されたもので、近年では体重減少効果が評価され、肥満治療薬としても応用されるようになりました。
アメリカでは睡眠時無呼吸の治療薬としてFDA(米国食品医薬品局)に承認され、睡眠歯科の領域からも関心が高まっています。実際に、肥満が原因で睡眠時無呼吸を発症した患者さんが肥満薬によって体重を減らし、CPAPが不要になるケースが報告されるなど、治療の選択肢が広がっています。

  • [写真] ロサンゼルスで見学したホワイトニングのクリニックの外観
    ロサンゼルスで見学したホワイトニングのクリニックの外観。睡眠の質改善にも力を入れていた。
  • [写真] ニューヨークのスーパーマーケット
    ニューヨークのスーパーマーケットでは、タンパク質入りの食品が数多く並んでいた。
  • [写真] 米国睡眠学会(AASM)の展示会場の様子
    米国睡眠学会(AASM)の展示会場の様子。GLP-1受容体作動薬の開発企業が大規模なブース展開を行っていた。

良質な睡眠のための食事の摂り方、選び方

[写真] 歯科医師 宮地 舞 よい睡眠を得るためには、朝食を摂ることも大切です。その際には噛み応えのあるものを食べると、噛む行為によって身体にスイッチが入ります。自律神経が刺激され、日中の活動リズムが整いやすくなり、それが夜の自然な入眠を助けてくれます。
また、朝食には炭水化物に偏りがちなパン食よりも和食をお勧めします。お味噌汁や納豆、豆腐、焼き魚などはタンパク質が摂れるメニューです。トリプトファンからメラトニンを生成するのには14~16時間がかかるため、朝にしっかりタンパク質を摂ることも自然な入眠を促すうえで大切なのです。
ランチの内容や食べる順番にもポイントがあります。日中、忙しいとラーメンや丼物といった手軽に食べられるメニューを選びがちです。しかし、これらのメニューには炭水化物が多く含まれているため、血糖値が急激に変動し、食後に強い眠気に襲われることがあります。これらのメニューを選ぶ際には、野菜を先に、あるいはお味噌汁を一口飲んでからゆっくり食べることで、血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。
睡眠時無呼吸の治療が順調でも日中の眠気が残る患者さんには、上記のような工夫が改善に役立つことがあります。

個別性に対応するための「ケアリングマインド」

睡眠歯科治療を成功に導くカギは、「その人自身に合わせること」だと考えています。例えば、人間の睡眠リズムはライフステージに影響を受けやすいものです。中高校生は夜型になりがちですし、高齢者は早朝型で睡眠時間も短くなる傾向があります。子育て世代であれば、赤ちゃんの生活リズムに引っ張られて自分の睡眠が不安定になることもあるでしょう。また、睡眠時無呼吸に関しては、男性では日中の眠気や倦怠感、女性では朝の頭痛や「なかなか寝つけない」といった具合に、性別や年代によっても自覚症状の傾向に違いがあります。
年齢、性別、生活環境、あるいは育児や介護、仕事の負荷など、患者さんの個別性に応じた治療を提供するために私が心がけているのが、「ケアリングマインド」です。患者さんに寄り添い、自分の家族と接するように丁寧に向き合うこと。口腔内の情報だけではなく、生活やメンタル面にも目を向けながら、こちらの価値観を押しつけず、急かさず、患者さん自らが気づきを得られるように促すーーこのようなケアリングマインドによるコミュニケーションを心がけています。
忙しい業務の中では、ケアリングマインドを保つことが難しい場面もあります。そうした際には、診療前に深呼吸をしたり、数秒間目を閉じたり、お気に入りの写真を眺めたり、気持ちを切り替えるきっかけを自分の中でつくると良いのではないかと思います。

  • [写真] 母校UCLA
    ロサンゼルスでは、母校UCLAにおいて、「meditative communication」をテーマに講義を行われた。
  • [写真] 宮地先生の考える「meditative communication」について解説される様子
    講義の冒頭で、クリニックの紹介や睡眠歯科を志した経緯について説明した後、宮地先生の考える「meditative communication」について解説された。
  • [写真] るDeip先生とのツーショット
    宮地先生のレジデント時代からのメンターでもあるDeip先生とのツーショット。

睡眠歯科に対するニーズの広がりと課題

日本における睡眠歯科は、比較的新しい分野です。しかし、ここ数年で大きな変化を感じています。連携する病院の数は着実に増え、紹介の件数は増加しています。テレビやインターネットで睡眠時無呼吸やマウスピース治療の情報に触れた患者さんが、能動的に情報を集めて来院されるケースも増えています。
さらに、患者さんの睡眠に対するリテラシーも上がっているようです。サプリメントやウェアラブルデバイスを持参し、データを見せながら相談される方も少なくありません。こうした変化は、睡眠歯科の存在意義が社会の中で認知され始めた現れだと感じています。

宮地舞先生がアメリカ視察の中で得られた気づきや展望、睡眠歯科のトレンドに関するお話は「DENTAL LIFE DESIGN」でもご覧いただけます。
ぜひそちらもご一読ください。

Column本音を引き出す医療コミュニケーション術

[写真] ブランドディレクター 宮地 理津子
ブランドディレクター 
宮地 理津子

「患者さんの心を開くにはどうすればいいですか?」そんなご質問を受けることがあります。患者さんの本音を引き出せるかどうかは、治療結果にも大きな影響を与えます。ただ、最初からすべてを語ってくださる方は多くありません。
その第一歩は、患者さんの主観性を尊重することです。医療従事者は最善の判断を伝えようとするあまり、ついパターナリズム的な対応を取ってしまうことがあります。すると、患者さんは本音を言えなくなってしまいます。まずは、「その人らしさ」に耳を傾け、治療に主体的に関わっていただけるようにサポートすることを心がけてください(図1)。
医療コミュニケーションを考える上で大切なポイントに「場面ごとの流れ=フロー」があります。当院では「セットアップ」「聴く」「質問」「メッセージ/承認」の4段階に分けて考えています(図2)。
最初の「セットアップ」では、安心して話ができる環境を整えます。診療室内の温度やインテリアだけでなく、その場の空気感や患者さんに関心を持つ姿勢も「環境」として含まれます。
次に「聴く」です。ここでは「NOジャッジメント」「NOコントロール」「NOアドバイス」の3つの姿勢が基本になります。早急に評価したり、話を遮ったりすると、患者さんは言葉を飲み込んでしまいます。
「聴く」姿勢を保つためには、自分自身の聴き方を客観的に見直すことも大切です。例えば、「適当にあいづちを打って聞き流していないか」「自分本意の話をしていないか」など、定期的にセルフチェックを行うことをお勧めしています(図3)。

  • [図] 相手の心のドアを開くコミュニケーション
    図1 初診時は患者さんとの信頼関係を築く入口。まずは患者さんの主観性を尊重することを意識する。
  • [図] マップコミュニケーション®のコミュニケーション・フロー
    図2 医療コミュニケーションを考える際は、「セットアップ」「聴く」「質問」「メッセージ/承認」の4段階に分けて考える。
  • [図] 聴き方チェックリスト
    図3 聴き方チェックリスト。「聴く」姿勢を保つためには、自分自身の聴き方を客観的に見直すことも大切。

その次のフローは「質問」です。質問には、「関係構築のため」「情報収集のため」「相手に考えを深めてもらうため」という3つの目的があります(図4)。この時、大切なのは「はい/いいえ」で回答できる質問だけではなく、「なぜ、この治療を受けようと思ったのですか?」といったオープンクエスチョンを用いることです。このように問いかけると、患者さんは自分自身の感情や生活を振り返ります。こうしたプロセスが治療に対する意識の高まりにつながり、ゴール設定をより明確にする手助けになるのです。
最後が「メッセージ/承認」です。ここで意識したいことは、承認は共感とは異なるという点です。「患者さんに共感しなければいけない」と思い、無理に共感を示す方もいますが、そうした無理は患者さんに伝わってしまうものです。大事なことは、「○○と感じられたのですね」と、自分とは異なる意見や価値観であっても否定せず、相手の感情や言葉を受け入れる“承認”です(図5)。
こうしたコミュニケーションの土台となるのが、患者さんの「物語」に基づく医療です。たとえ科学的には説明できない内容であっても、患者さんにとってはそれが現実であり、意味のある経験です。その個々の物語に耳を傾け、患者さんが主体的に治療を選択し、参加できるようにサポートすることが、医療従事者の大切な務めだと考えています。
確かに、以前には医療従事者が主役のような時代がありました。しかし、現在はプロフェッショナルとしての適切な診断と治療を提供するとともに、患者さんと一緒に歩む伴走者としての役割が重視されるようになったと感じています。特に睡眠歯科は、患者さんの生活そのものを見ながら治療を進める必要がある領域です。
患者さんの物語に耳を傾け、対話を通じてともに考え、ともに歩む̶̶その姿勢が、より良い医療と、より良い人生の実現につながるものと考えています(図6)。

  • [図] 質問の目的
    図4 「はい/いいえ」で回答できる質問だけではなく、患者さんに振り返りを促すオープンクエスチョンを意識する。
  • [図] 信頼関係をアップするコミュニケーションのコツ
    図5 「承認」の積み重ねが、患者さんとの信頼関係を築き、本音を引き出す糸口となる。
  • [写真] 患者さん(相手)のマップ(価値観や考え方の傾向)を尊重する
    図6 患者さんにとって信頼できる伴走者となるためには、まずは患者さんの「物語」に耳を傾け、尊重することが大切。

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