184号 SPRING 目次を見る
キーワード:GBR法/3次元的賦形
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はじめに
Tiハニカムメンブレンは薄い素材であるため操作性が良く、合併症が少ないことを経験してきて、私の臨床の中で応用頻度が高くなってきている材料である。
症例
患者は初診時69歳男性、最近作った上下の部分床義歯をインプラントに替えたいとの希望で来院された。全顎治療を行ったが、本稿ではTiハニカムメンブレンを用いた左下臼歯部の治療経過について報告したい。
6は歯周病により根尖に及ぶ骨吸収が認められ、歯の動揺も顕著で保存不可能と判断した。4は2年前に自然脱落したままであった。このため₅は近心傾斜し、また舌側にも傾斜が認められた(図1)。矯正すれば残せなくはない歯であったが、467にインプラント修復が必要であり、治療をシンプルにし、治療期間も長引かせることがないように、年齢にも配慮し、5は戦略的に抜歯を行いインプラントによる固定性の補綴装置を選択した。
インプラント植立の計画では、とくに7に注意が必要であった。パノラマX線写真では骨頂から下顎管まで十分距離があり、容易にインプラントを埋入できるように見えるのだが、図2のようにCBCTのクロスセクショナル画像を見ると同部位の下顎骨の舌側が大きく陥凹しており、長さ6mmのショートインプラントであれば埋入可能と診断した1)。CBCTを自院に導入前であったら、事前にこのリスクを知ることは困難であっただろうと考えると、改めてインプラント治療におけるCBCTの有用性について確認することができた症例でもあった2~4)。
フラップを展開すると、舌側の皮質骨壁は骨吸収はほとんど無かったが、歯周病による骨吸収によりとくに467の頰側の歯槽骨の吸収が著しく、インプラントを埋入するとそれぞれのインプラントの頰側に裂開が認められ、水平的な骨造成が必要な状態であった(図3-a)。垂直的には舌側の骨壁で高さが保たれており、側方への骨造成であったため、埋入と同時のTiハニカムメンブレンを応用したGBR法を選択した。
十分な量の骨移植を行い(図3-b)、Tiハニカムメンブレンで被覆し、頰舌側のフラップに骨膜減張切開を加え閉鎖、縫合した5、6)。
Tiハニカムメンブレンには表面と裏面があるが、このときは逆になってしまっている。機能的には問題無いが、フレームが外側にくると、メンブレンを屈曲させたときにフレームの先端が浮き上がり、それが治癒期間に粘膜を貫通してしまう恐れがあるため、フレームが骨面側になるようにしなければならない(図4-a)。幸いそのようなトラブルも無く経過し、7ヵ月後の二次手術時、Tiハニカムメンブレンを除去し良好な結果を確認した(図4-b)。
Tiハニカムメンブレンはわずか20μmと薄く、以前応用していたチタンメッシュと比較して、賦形性に優れ、チタンメッシュのように軟組織がメッシュの網目の中に入り込むことがないため、治癒後除去が容易である。もしピンでTiハニカムメンブレンを固定していないケースであれば歯槽頂切開とわずかなフラップの挙上で取り出すことも可能である。GBR後4年、補綴装着後3年経過しているが、インプラント周囲辺縁骨の吸収も認められず安定しており(図5)、経過良好である(図6)。
図1 初診時。a:4はすでに欠損しており、そのスペースに56が倒れ込み近心傾斜している。 b:5は舌側へも傾斜し歯列から外れている。c:6は根尖に及ぶ骨吸収が認められる。-
図2 7CBCT画像。a:骨頂から下顎管まで12mmあるが、下顎骨の舌側の陥凹があり、インプラントの埋入スペースは限られている。b:6mmの長さのショートインプラントを埋入し頰側の骨欠損部にはTiハニカムメンブレンを用いたGBRを行った。 -
図3 a:インプラント埋入時、頰側の歯槽骨の吸収のためインプラントが露出し裂開状の骨欠損形態となっている。 b:骨移植材の填入の状態、術後の吸収も見込み十分な量の骨移植を行う。 -
図4 a:Tiハニカムメンブレンの設置、3遠心から少なくとも1mmは離し、フラップの再付着を妨げないように注意する(推奨されるメンブレンの設置法は表裏逆である)。 b:GBR後7ヵ月経過しTiハニカムメンブレンの除去後の状態。インプラントは十分な量の組織で被覆されている。 -
図5 a:治療終了時。 b:治療終了後3年、GBR後4年経過時、辺縁骨の吸収は認められない。 -
図6 最終補綴装着後3年、軟組織に炎症は見られず経過良好である。
まとめ
Tiハニカムメンブレンは3次元的な賦形が比較的容易であり、その形を粘膜下で維持してくれるため、意図した形態や量の骨造成を可能としうる材料であると考える。
- 1) Nisand, D. and F. Renouard, Short implant in limited bone volume. Periodontol 2000, 2014. 66(1): p. 72-96.
- 2) Nickenig, H.J., et al., Lingual concavities in the mandible: a morphological study using cross-sectional analysis determined by CBCT. J Craniomaxillofac Surg, 2015. 43(2): p. 254-9.
- 3) Chan, H.L., et al., Cross-sectional analysis of the mandibular lingual concavity using cone beam computed tomography. Clin Oral Implants Res, 2011. 22(2): p. 201-6.
- 4) Tan, W.Y., et al., Evaluation of anatomic variations of mandibular lingual concavities from cone beam computed tomography scans in a Malaysian population. J Prosthet Dent, 2021. 125(5): p. 766.e1-766.e8.
- 5) 石川知弘、船登彰芳:新版4Dコンセプトインプラントセラピー chapter5.
- 6) 石川知弘、菊池康司、片山昇:下顎臼歯部におけるインプラント周囲硬・軟組織マネジメント Dental Implantology 2022. Vol29, 4.
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