184号 SPRING 目次を見る
Clinical Report
デジタル技術を応用したインプラント治療
キーワード:デジタルソリューション/長期安定性
目 次
はじめに
光学印象やCAD/CAM機器は、もはや補綴歯科治療に欠かせない存在となっている。
中でもインプラント治療は、これらのデジタル技術との親和性が極めて高く、筆者もほとんどの症例で診断から上部構造の製作まで、デジタルデータを用いて行っている。
本稿では、インプラント治療におけるデジタル技術の応用と従来法との比較について、症例とともに筆者の考えを紹介したい。
症例概要(図1~4)
患者は70歳女性。右下大臼歯部へのインプラント治療を希望され来院した。
清掃状態は良好で、欠損部の上下顎のクリアランス、角化粘膜の幅に問題は認めなかった。下顎歯列はややアーチが広く切端咬合であったが、口腔内ならびにスタディ模型分析の結果、臼歯部離開は得られていると判断し、また矯正介入は希望されなかったため、インプラントの診断へ移行した。
なお筆者は、可能な限りデジタルで治療を行うことを心掛けているが、スタディモデルはいまだに石膏を用いて製作している。その理由は、ファセットを観察し、実際に模型を咬合させ顎運動をイメージすることが重要であると考えているからである。
また、欠損形態や、頰や舌といった周囲軟組織の状態によっては、光学印象では欠損部顎堤が十分に記録できないことも経験している。
図1 正面観-
図2 右側側方面観 -
図3 下顎咬合面観 -
図4 術前のパノラマX線所見
CT撮影~インプラント体選択
CBCT検査の結果、骨幅・高さ・骨密度ともに、レギュラー径のインプラントの埋入が可能と判断された(図5)。なお撮影時には、デジタルワックスアップを基にした診断用ステントを装着している。
サージカルガイドプレートを用いる場合などは、診断用ステントは必須ではないと考えられるが、骨面から造影材までの距離を測ることで粘膜厚さが容易に把握できるため、筆者はルーティーンとして用いている。
本症例は、粘膜の厚みが1.5 mm程度と薄く、いわゆるThinタイプであった。
インプラント周囲粘膜は生物学的な防御機構を果たしており、粘膜の厚みとインプラント周囲骨の吸収には関連があることが報告されている1)。特に、Thinタイプにおいては、生物学的幅径の確保に、より注意が必要であると考える。SPIイニセルインプラントは、骨頂とインプラント―アバットメントの接合部との間に垂直的な距離が設定されている、いわゆるティッシュレベルタイプに分類されるインプラントであるが、イニセルインプラントエレメントタイプでは2.5mm、1.0mm、 0.5mmの3種類のカラーの長さから選択することができる(図6)。生物学的な観点から考えるとプラットフォームは骨面から離すことが望ましいが、エマージェンスプロファイルや、埋入時の創部閉鎖性、患者の外観への要求度など、さまざまな視点から検討する必要がある。その際に、3種類の選択肢があることは大きなメリットである。本症例では、Thinタイプであること、外観への要求がやや高かったことから、粘膜下にメタルカラーを留めたうえで、可及的に骨面からの垂直的距離を求めるため、1.0 mmのカラー(RC)を選択した。
3Shape TRIOS インプラントスタジオを用いて、スタディモデルのSTLデータ、CBCTのDICOMデータ、ならびにデジタルワックスアップデータを重ね合わせ、インプラント埋入位置のシミュレーションを行った(図7、8)。埋入位置決定後、サージカルガイドを設計(図9)し、3Dプリンターを用いて出力した。なお、変形を防ぐためにサポート部を付与することや、適合状態を把握するための窓開けなど、造形時に生じうる誤差への対応策は重要である(図10、11)。
図5 CBCT所見(朝日レントゲン工業株式会社製CT)-
図6 3種類のカラーのラインナップ -
図7 インプラント埋入位置のシミュレーション -
図8 3Shape TRIOS インプラントスタジオによる手術レポート -
図9 サージカルガイドの設計 -
図10 適合確認用の窓開け -
図11 口腔内での適合確認
埋入~プロビジョナルレストレーション装着
ガイディッドサージェリー用ドリルと、スリーブとの適合は適度に良好で、ストレスなくドリリングを行うことができ、1回法にて予定通りの位置へイニセルインプラントのエレメントRC4.0インプラント体(#46:9.5mm、#47:8.0mm) を埋入した(図12~16)。#46、#47ともに初期固定は30Ncm程度、ISQ値は#46で76、#47で78と良好な安定性が得られた。また、封鎖スクリューを締結する前に、プロビジョナルレストレーション製作のため、スキャンアバットメントを用いてインプラント体の光学印象を採得した(図17)。非接触で印象採得を行えるデジタル技術ならではのステップである。なお手術時間の延長を避けるため、事前に全顎のスキャンならびに咬合採得を行い、インプラント部位のみデータを削除し、追加スキャンを行っている。
2.5ヵ月の免荷期間の後、手術時にスキャンしたデータを基に製作したプロビジョナルレストレーションを装着した。診断時のワックスアップに基づいて製作したが、それぞれのステップを見比べてみても、プランニング通りの形態が付与されていることがわかる(図18)。プロビジョナルレストレーションの適合は良好であり、咬合もほぼ調整なく装着することができた(図19)。従来法では、咬合器装着の際に石膏の膨張により誤差が生じ得るが、光学印象は咬合時の画像データから上下顎顎間関係を再現するため、誤差が生じにくく、経験上、特に遊離端欠損においてはそのメリットが大きいと感じている。
一方で、フルアーチでのスキャンの際には光学印象の方が印象体としての誤差が生じやすいことも知られており、一長一短であると考えられる。
図12 全層弁剥離-
図13 ドリリング -
図14 埋入 -
図15 埋入エイドとガイドスリーブによる位置確認
図16 埋入後のパノラマX線所見-
図17 インプラント体の光学印象 -
図18 診断用ワックスアップ、ステント、プロビジョナルレストレーションの形態の比較 -
図19 装着されたプロビジョナルレストレーション
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