184号 SPRING 目次を見る
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「お口ポカン」がキーワードに睡眠時無呼吸と医科歯科連携
目 次
- ≫ 見過ごされている小児のSA
- ≫ 扁桃の肥大をきっかけに
- ≫ OSAの診断と手術適応
- ≫ 歯科と医科によって違う解釈
- ≫ 舌下免疫療法でも連携が大切に
- ≫ 鼻閉の改善後も続く「お口ポカン」
- ≫ [Message]“「お口ポカン」のスクリーナー”としての役割に期待
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愛知県一宮市
社会医療法人杏嶺会 一宮西病院
小児科部長
杉山 剛
東海地方では近年、睡眠時無呼吸(SA)に関連した医科歯科連携が積極的に行われています。その中心的人物の一人である一宮西病院の杉山剛小児科部長に小児の呼吸器疾患と歯科との関わりについて伺いました。
見過ごされている小児のSA
小児のSAは治療が必要であるにも関わらず、見過ごされているケースが多くあります。しかし近年、東海地方においては歯科医院からの紹介で病気が見つかる例が増えています。
SAは睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。SAには閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)がありますが、小児では睡眠中の2呼吸分(だいたい6~8秒くらい)以上呼吸が止まることを無呼吸、呼吸が浅くなることを低呼吸といいます。小児においては1時間に1回以上の「無呼吸」や「低呼吸」があればOSAと診断されます。睡眠障害国際分類によれば、小児のOSAの有病率は4%くらいと言われています。これは日本人の小児の統計ではないものの、日本にも相当数の潜在患者がいることが推測されます(図1)。
SAは成人の場合、日中の強い眠気で交通事故を起こすなど社会的影響の大きさが知られています。小児の場合は日中の眠気は少なく、落ち着きのなさや注意力の欠如などが症状として現れます。3~4歳を中心に未就学児に多くみられるものの、落ち着きのなさがかえって「元気なお子さん」として捉えられてしまう傾向があり、そのことが早期発見を遅らせている要因の一つにもなっています。
図1 小児の睡眠時無呼吸(SA)を疑うポイント。
扁桃の肥大をきっかけに
では、なぜ、歯科からの紹介が病気の発見へとつながるのでしょうか。多くのお子さんは睡眠中のいびきを主訴に来院されます。一方で歯科からの紹介は口腔診察時の口蓋扁桃肥大と、CT撮像時のアデノイド増殖に気付かれて、紹介のきっかけになることが多いです。
SAの原因は気道が狭くなって起こる「閉塞性」と脳の呼吸中枢の機能障害に起因する「中枢性」があります。未就学児の9割以上が閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)で、上咽頭にある咽頭扁桃(アデノイド)や口蓋扁桃の肥大によって気道が狭くなることで発症します(図2)。口蓋扁桃(扁桃腺)肥大する3~5歳前後に多くみられ、日中は無症状であることが多く、病気の存在に気付かれにくいことが特徴です。肥大のピークを過ぎると退縮期に入り、10歳頃には自然退縮します。
歯科治療で口腔内を観察する際に口蓋扁桃肥大に気付かれるケースが多く、最近では矯正治療の際に行うCT撮影で気付かれ、当院への紹介につながるケースが増えているのです。
アデノイドは鼻の奥に位置するため視診では見えませんが、口蓋扁桃については通常の歯科治療の際に視認できると思われます。ただし、口蓋扁桃肥大うち、特に奥行き(前後方向)に肥大がある場合は上気道閉塞の原因になります。もしも、CT画像や喉の奥を見られた際に通常よりも大きく感じるようであれば、睡眠障害や呼吸器を扱う小児科への紹介を検討されてもいいかもしれません(図3)。
図2 咽頭扁桃(アデノイド)と口蓋咽頭の位置。-
図3 アデノイドのセファロ画像。(ヘリカルCTによる撮影)
OSAの診断と手術適応
OSAの部位診断にはCTのほか、喉頭ファイバースコープを用います。また、アレルギー性鼻炎を合併しているケースが多いため、アレルギー血液検査も実施します。
重症度診断としては入院して行うPSG(ポリソムノグラフィ)によって睡眠中の脳波、血液中の酸素量、胸部や腹部の呼吸筋の動き、眼球運動、顎の筋肉の動きなどを調べます(図4)。最近では指先と鼻に装置を取り付けるだけの簡易検査を自宅で行えるようにもなりました。
重症度診断の結果、中等症以上であれば、手術適応となり、口蓋扁桃の場合は摘出術、アデノイドの場合は切除術になります。ただし、アデノイドは切除術後に再増殖することがあり、特に3歳未満はその確率が高くなるため、手術後も注意が必要です。
図4 PSG(ポリソムノグラフィ)で用いるセンサー類の取り付け部位。(保護者の許可を得て掲載)
歯科と医科によって違う解釈
小児OSA診療を通じて驚くのは口呼吸、いわゆる「お口ポカン」の患児が多いことです。お口ポカンの原因は、歯科的な解釈でいえば、軟らかい食事が増えたことで咀嚼筋や口輪筋、舌筋の成長が妨げられていること。あるいは咬み合わせの問題などが挙げられると思います。
医科的な解釈でいえば、前述のようにアデノイドや口蓋扁桃の肥大によって鼻呼吸が行えないことが原因の一つです。そして、睡眠時に口呼吸となり、それが習慣化し、日中でも口が開いたままになります。
もう一つ確実に増えている原因がアレルギー性鼻炎です。耳鼻科学会が行っている調査によれば、小児に限らず日本人全体でアレルギー性鼻炎の有病率は増えており、特にスギ花粉症とハウスダストやペットの毛などが原因の通年性アレルギー性鼻炎が顕著です(図5)。アレルギー性鼻炎による鼻閉(はなづまり)で、鼻呼吸が障害されるため代償性に口呼吸になります。
口腔筋機能療法(MFT)や口唇閉鎖テープによって治す方法がありますが、患児が自分でテープを外してしまうなどアドヒアランスが低いお子さんについては、鼻閉をはじめとした医科的な問題に起因する場合があります。
図5 アレルギー性鼻炎有病率の推移。(松原篤他:鼻アレルギーの全国疫学調査2019. 日耳鼻123, 485-490, 2020.)
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