184号 SPRING 目次を見る
Clinical Report
Er:YAGレーザーを使ってできる歯周骨再生の臨床例
キーワード:Er:YAGレーザーの優位性/レーザーによるデブライドメント
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Er:YAGレーザーとは
- ≫ 再生療法の基本的原則
- ≫ 臨床例の提示
- ≫ 最後に
はじめに
歯周組織の再生はその病態、特に骨欠損形態によって結果が大きく変わってくる。最も再生を期待できる骨欠損形態は3壁性であることを理解し、その適応症を見分けることが最初の診断として最も重要なことである。
そのためにデンタルX線、CT撮影、プロービング値を参考に骨欠損状態を把握する必要がある。まずこの点をしっかり押さえておけば大きな失敗は無くなるであろう。臨床における具体的な基本のステップについては後に詳しく述べていきたい。
インプラント周囲炎の治療法はまだ確立されていないが、今後Er:YAGレーザー治療が有意に効果的であるとの論文が数多く出ることを確信しているとともに筆者は現在最も効果的な治療法であると思っている。
結果として根面、骨面、インプラント表面へのアプローチが可能なEr:YAGレーザーの優位性を理解していただければ幸いに思う。是非、Er:YAGレーザーを活用し結果を出して患者の信頼が得られることを切に願っている。
Er:YAGレーザーとは
Er:YAGレーザーは1974年、Zharikovらによって発振された個体レーザーである。
発振媒体はイットリウム(Y)アルミニウム(A)ガーネット(G)からなる結晶を母材にして原子番号68のエルビウム(Er)をイオン状態にして混入させたものを使っている。よって、その頭文字をとってEr:YAGとなっている。
Er:YAGレーザーは発振波長が2,940nmのパルス波のレーザーで軟組織、硬組織ともに蒸散することができる。水への吸収性が高いが生体組織のごく表面における吸収であるため周囲組織への熱的ダメージは非常に少ない。
簡単な説明であるが他のレーザーには無い優れた特徴であることを認識していただきたい。このため歯周病治療において歯肉切除、歯石除去、根面のデブライドメント、肉芽の除去、骨欠損部位への廓清、殺菌、生体刺激効果などが可能である。いずれの処置も一つの器械でできるため煩わしさがないうえに確実な治療が可能であると考える。
また、チップの先が非常に細いため複雑で細かい部位へのアプローチも可能になっている。これ以外にも特有の機能として無注水下では「止血」効果もあり血餅を作ることもできるためメンブレン機能を作ることもできる。
再生療法の基本的原則
1993年、Langer,Vacantiは、engineering(工学)とlife science(生命科学)を合わせた「tissue engineering」という考え方を発表した。これは組織、臓器の再生のための学際的学問領域のことである。
この考え方を歯周組織に応用したものが「periodontal tissue engineering」であり基本的に3つの要素で構成されている。
1. 幹細胞(stem cell)
歯根膜や歯槽骨(骨髄)にある間葉系幹細胞や前駆細胞のこと
2. 足場(scaffold)
再生スペースを確保する材料(アパタイト、コラーゲン、ゼラチンなど)
3. シグナル分子(signaling molecure)
FGF2(線維芽細胞成長因子)商品名 リグロス®(科研製薬株式会社製)、BMP(骨形成タンパク質)、 PDGF(血小板由来成長因子)など
骨再生療法の場合、臨床的に簡単に説明すると(一例であるが)
1. 手術時おける歯根膜や歯槽骨(骨髄)からの出血
2. 欠損部位への骨補填剤の填入
3. FGF2(リグロス®)の使用
となる。
臨床例の提示
症例1
患者は41歳男性。主訴は歯周病の治療であったが、その病態は重度歯周疾患が大臼歯部に限局した状態であり咬合性外傷が疑われる状態であった。
大臼歯部は咬合調整を含めた歯周治療を行い3ヵ月ごとのリコール中であった。しかし途中2年ほど来院がなく次に来院した時には3に動揺が見られ歯肉が腫れてフィステルもある状態であった(図1-1)。
そこでプロービングしてみたところ近心部の一番深いところは12mmであった。患者はこの歯の保存を希望したため歯周治療を進めることにしたが成功の可能性が低いことは理解いただいた。患者はブラキサーであることから何らかの原因で犬歯が水平的な力で揺さぶられたことを考えた。実際側方運動をしてもらうとかなりの動揺が見られたため咬合調整と同時に斬間固定を行った。次にこの状態ですぐに外科処置をしてしまうと手術中、手術後に抜歯になってしまうと考え、まず歯肉をクローズした状態でのEr:YAGレーザーでの治療およびリグロス®の使用を考えた。治療後1年経過したところで遠心、近心の骨が再生してきたことがX線により確認できた(図1-2)。
しかし近心の骨にはまだ垂直性の骨吸収が見られたためCT撮影を試みた。その結果、近心の垂直性の骨吸収は2-3壁性で再生治療の適応になると考え外科手術時にEr:YAGレーザー、リグロス®、骨補填材のサイトランス®グラニュール(株式会社ジーシー製)を使用した。サイトランス®グラニュールは他の骨補填材と違い1年ほどで吸収され骨に置換するため確実に骨が再生したかどうかの見極めが容易である。
手術後は3壁性の骨欠損の部位のみ骨再生が認められた。ポケットはまだ5mmあるがブリーディングがないため今後リコールにて維持管理していきたいと思っている(図1-3)。
図1-1 3に炎症とフィステルが見られる。ポケットは近心で12mmあり動揺も見られる。骨は近心で根尖端近くまで吸収している。-
図1-2 歯肉をクローズした状態でEr:YAGレーザーの照射を行い、最後にリグロス®を注入している。一年後のX線初見では骨の再生が見られるが近心にはまだ垂直性の吸収が見られる。(チップ:PS600T /20pps 50mj) -
図1-3 垂直性吸収の箇所の2-3壁性吸収の部位にEr:YAGレーザーを使用して外科処置を行った。この際にリグロス®とサイトランス®グラニュールを使用している。外科処置後1年でX線上にはわずかであるが骨の再生が認められる。ポケットは5mmに改善している。(チップ:PS600T /20pps 50mj)
症例2
患者は63歳男性。主訴は右下第一大臼歯が噛むと痛いと言うことであった。
この歯は抜歯後インプラント治療になるが、実はその奥の第二大臼歯の頰側の分岐部のポケットが7mmあることがわかった。そこでCT撮影したところ、分岐部の骨は頰側と分岐部内部に吸収が進行していたが頰側の骨の高さはある程度保存されていることが確認できた(図2-1)。
大臼歯部の骨欠損状態を知るためには頰舌側の幅が大きいためCT撮影を行わないとその実態はつかめないと思う。手術は第一大臼歯のソケットプリザベーションと同時に行った。歯肉の剥離後Er:YAGレーザーで肉芽を除去し、歯根面にEr:YAGレーザーを照射し完全なデブライドメントを行った。特に分岐部中央のデブライドメントはEr:YAGレーザーによって容易に可能となった。その後リグロス®の塗布、サイトランス®グラニュールの充填を行い血餅で満たされたところで血液表面にEr:YAGレーザーを照射し凝固させメンブレンがわりとした(チップ:PSM600T/20pps 50mj 非注水)(図2-2)。
手術後にはこの歯の咬合力の負担を少なくするために咬合調整を行った。この咬合調整は定期的に行っているため最終的にはクラウンのメタルに穴が空いてしまっている。約1年後、第一大臼歯のインプラント手術時にリエントリーを行った。骨が分岐部を閉鎖する状態まで骨が再生していることが確認できる。また、分岐部内部の状態はCT撮影でも確認できた(図2-3)。
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モリタ友の会会員限定記事
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