184号 SPRING 目次を見る
Clinical Report
顎関節症から考える人生を通した口腔機能管理の重要性について
キーワード:ガムトレーニング/成人期の口腔機能の問題/口腔機能変調症
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 口腔機能発達不全症と口腔機能低下症
- ≫ 顎関節症患者の口唇閉鎖力、舌圧調査
- ≫ 顎関節症改善へのアプローチ
- ≫ まとめ
はじめに
近年、歯科医療において、機能的疾患への対処が求められるようになってきている。う蝕などの器質的疾患は、患者の訴える症状と客観的所見が一致するケースが多く、各種組織に対する術者主体の治療が主となる。
一方、顎関節症などの機能的疾患では客観的所見が見つけづらく、治療は運動器に対する患者主体の治療が主となる1)(図1)。歯科における運動器の代表的なものは顎(顎関節+咀嚼筋)であり、嚥下に関係する舌や、表情に関する口腔周囲筋も運動器として口腔機能に関与する1)(図2)。
図1 器質的疾患と機能的疾患(竹内、大継)1)-
図2 口腔機能にみられる運動器1)
口腔機能発達不全症と口腔機能低下症
歯科で扱う代表的な口腔機能疾患には、口腔機能発達不全症と口腔機能低下症がある。
口腔機能発達不全症は18歳未満で障害がないにも関わらず、「食べる機能」、「話す機能」、「その他の機能」が十分に発達していないか、正常に機能獲得できておらず、明らかな摂食機能障害の原因障害がなく、口腔機能の定型発達において個人因子あるいは環境因子に専門的な関与が必要な状態であり、病状としては、咀嚼や嚥下がうまくできない、構音の異常、口呼吸が認められるが、患者には自覚症状があまりない場合が多いとされている2)。
また口腔機能低下症は、加齢だけでなく様々な要因によって口腔機能が複合的に低下している疾患で、放置しておくと咀嚼機能不全、摂食嚥下障害となって全身的な健康を損なう。症状としては口腔内微生物の増加、口腔乾燥、咬合力の低下、舌や口唇の運動機能の低下、咀嚼や嚥下機能の低下など複数の口腔機能が低下している状態であり、50歳代から増加するとされている3)。
口腔機能発達不全症では口唇閉鎖力、口腔機能低下症では舌圧検査が検査のひとつとして行われ、それぞれ、正しい口腔機能の獲得を目標に口腔機能療法(MFT)、口腔機能向上のための口腔機能訓練が主に行われるが、成人期に対する口腔機能障害病名はない(図3)。
顎関節症は、基本的に運動器の機能障害であり、主な症状として咀嚼筋、顎関節の痛み、顎関節(雑)音、開口障害がある(図4)。その好発年齢と性は、20歳代から50歳代までの女性であり、その後減少することがわかっている。顎関節症の検査には、下顎運動検査、筋・関節の触診が行われ4)(図5)、その病態により、咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、顎関節円板障害(復位性、非復位性)、変形性顎関節症に分類される(図6)。顎関節症も口腔機能障害として考えられるのであるが、現在、口唇閉鎖力、舌圧などの口腔機能検査は行われていない。
図3 口腔機能発達不全症と口腔機能低下症-
図4 顎関節症の概念(日本顎関節学会2013) -
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図5 顎関節症検査(日本顎関節学会編 顎関節症治療の指針2020より) -
図6 顎関節症病態分類
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