184号 SPRING 目次を見る
Dental Talk
Er:YAGレーザー発売25周年記念対談 ペリインプランタイティスへのEr:YAGレーザーの応用
目 次
- ≫ Er:YAGレーザー導入の経緯
- ≫ ペリインプランタイティスへのEr:YAGレーザーの応用
- ≫ Er:YAGレーザーの使用状況と今後注目すべきトピックス
- ≫ 応用していくうえでのポイントと将来展望
このたびEr:YAGレーザー『アーウィン アドベール EVO』の薬事承認内容の一部が変更され、インプラント周囲の歯石除去について新たに薬事承認を受けたことにちなんで、インプラント治療、レーザー治療に高い見識をお持ちの船越栄次先生、山本敦彦先生にお話を伺いました。
Er:YAGレーザー導入の経緯
ーー山本先生がEr:YAGレーザーを導入されたきっかけを教えてください
山本当時、私は保険診療を中心とした診療を行っていて、歯科用レーザーの知識は全くなく、モリタの営業マンから、「痛みがなく虫歯を削れる」と聞いて、「これは今までにない画期的なデバイスだ」と感じました。さらに、当時Er:YAGレーザーを導入している歯科医院がなく、国内第1号機ということに大きな魅力を感じたのが導入したきっかけです。
ーー導入直後の状況はいかがでしたか
山本初めは使い方も分からず、患者さんには「今日からタービンから解放されますよ」という触れ込みで、設定値を150mjに合わせて照射をすると、患者さんが跳び上がるほど痛がりました。「これは大変なものをつかまされた」と思いましたが、いまさら返品することもできません。そこで「どの程度パワーを下げたら痛みが出ないのか」という目安を探す一方で、当然ながらパワーを下げれば切削効率も下がりますから、パワーを下げずに痛みを抑えるために、照射角度やチップの動かし方を工夫するなど、試行錯誤の連続でしたね。
ーー船越先生は山本先生の論文をご覧になったことがきっかけと伺いました
船越はい。2013年と2014年のInternational Symposium of Periodontics & Restorative Dentistry (ISPRD)で山本先生の講演と論文を拝読しました。2014年の論文ではペリインプランタイティスの治療に応用されていて、X線所見でも適切なエビデンスが明示されていました。ペリインプランタイティスについては、国内にこれだけ多くの方がインプラント治療を受けておられる以上、近い将来大きな問題になることは予測していました。そこで私自身も勉強し直さなければということで、海外でコースを受講するなど知識や情報は持っていましたが、当時はそれほど積極的なアプローチはしていませんでした。その後当院でモリタによるEr:YAGレーザーの勉強会を開催してもらう機会があり、有益な知見を得るなかで、当院でも差し迫ったテーマであるペリインプランタイティスへの対策として導入を決めたわけです。
ペリインプランタイティスへのEr:YAGレーザーの応用
ーー山本先生がEr:YAGレーザーをインプラントに応用してみようと思われたのはなぜでしょう
山本インプラントについては、ブローネマルクシステムを学ぶ目的でスウェーデンに赴きコースを受講しました。その最初の授業では、オッセオインテグレーションの定義、すなわちインプラントフィクスチャーのチタン表面が空気に触れることによって溶出する酸化チタン層に骨細胞が接することをオッセオインテグレーションと呼ぶことを学びます。ただ、ペリインプランタイティスを発症すると周囲の骨細胞が吸収し肉芽に置換され、汚染物質もその酸化チタン層に付着します。それをクリーニングするために切削したりガーゼで拭いたりしますが、その酸化チタン層だけを選択的に除去する、理想的にはオリジナルのインプラント表面のマイクロストラクチャーを破壊・変化させずに除去する方法はないものかと考えました。そしてある時、Er:YAGレーザーがう蝕を切削して軟化象牙質を選択的に除去できるなら、汚染された酸化チタン層も同じ理屈で除去できないだろうか、と考えたのがペリインプランタイティスに試してみようと思った経緯です。
ーーペリインプランタイティスに対してEr:YAGレーザーが有効とされる作用機序について教えてください
山本まずインプラントプラスティーは完全に汚染層を取り除くという点においては良いのですが、現在、日本歯周病学会の指針でも示されているように、削り過ぎるとインプラントフィクスチャー自体が細くなり強度が落ちてしまう可能性があるので推奨されていません。しかし、インプラント使用前にEr:YAGレーザーを照射することで汚染部分の滅菌ができていることが分かってきて、これに関してすでに多くの論文が出ています。さらに、Er:YAGレーザーを照射することでエンドトキシンが不活化されることも決定的な違いです。例えばクリーニング後に過酸化水素(H2O2)やクロルヘキシジンで洗浄される方もおられると思いますが、両方薬液ですから滅菌は不可能です。ですから私はEr:YAGレーザー照射が唯一の選択肢と信じて、これまでいろんなエビデンスを構築してきたというのが現在の状況です。
船越 栄次ーー船越先生はEr:YAGレーザー導入以前のペリインプランタイティスへの対応はいかがでしたか
船越ペリインプランタイティスについては、今までいろんなことが言われてきましたが、つまるところ口腔内細菌が感染しているということですから、歯周炎と同じ原因として扱っていくべきだろうと考えています。Er:YAGレーザー導入前は、とにかくいろんな論文を参考にしながら、インプラントプラスティーをはじめ様々な方法を試してきましたが、実は期待したほどの結果が出ませんでした。Er:YAGレーザーの様々な有効性について、私も知らない部分がたくさんありますので、そこは山本先生をはじめ詳しい先生からご教示いただきながら学んでいくことで、これまでとは違う結果が出せるのではないかと大いに期待しています。
山本ペリインプランタイティスを発症すると周囲の骨が吸収されます。つまり周囲が汚染された肉芽などに置換されるわけです。そうなるといくらポケット内にEr:YAGレーザーや薬剤を応用しても、それはあくまで消炎処置でしかありません。繰り返しポケット内洗浄を行うことで骨が回復した症例を目にすることがありますが、実はそれは限りなくペリインプランタイティスに近いインプラント周囲粘膜炎の状態だと考えています。骨が溶け出す直前の状態になるとミネラル成分が飛んでしまいX線上では骨が消失したように見えますが、炎症が治まるとミネラル成分は戻ってきますから、骨も回復したように見えているだけであって、実際にはペリインプランタイティスの一歩手前の状態なのです。ですから真のペリインプランタイティスを根絶しようと思えば、やはり外科処置を伴う再生療法以外の選択肢はないと私は考えています。
船越なるほど。そうかもしれませんね。もともと汚染の原因は歯頸部に付着した縁上プラークが徐々に縁下に入っていく。その際に縁上プラークから栄養供給を受けていることはほぼ分かっています。その栄養供給を受けながら深化して歯周炎が進んでいくのです。おそらくペリインプランタイティスの場合も同じではないかというテーマで、以前ボストンで開催されたシンポジウムでディスカッションを行ったことがあります。縁上プラークをコントロールするとポケットはきれいに治ってくる。元タフツ大学のスムロ教授がそうした論文を発表しています。当院ではスーパーフロスを歯頸部に巻き付けて、360度縁上から縁下のクリーニングを繰り返すことで、それまで5、6mmあったインプラント周囲ポケットが治ってくる。このようにスーパーフロスによる清掃でポケット内の炎症を抑えることができたケースをこれまで多く経験しています。それは山本先生がおっしゃるように、まだ骨が完全に溶ける前の、インプラント周囲粘膜炎の状態だったのかもしれません。
山本私もそう思います。ですから細かく分類すると、ペリインプランタイティスに移行する直前の、重度のインプラント周囲粘膜炎がそうした処置で治っていると考えられます。
船越ありがとうございます。とても重要なヒントをいただきました。
<症例1> インプランタイティス処置
25pps/30mj 注水 PS600TS
(写真提供:富塚佳史先生)
症例1-1 術前。-
症例1-2 術前デンタルX線。 -
症例1-3 術中。 -
症例1-4 術後。 -
症例1-5 術後デンタルX線。
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