197号 SUMMER 目次を見る
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歯科を中心に医療の力を結集し、「おいしく食べる」を実現
目 次
- ≫ 歯科医院なのに、待合室にオープンキッチン!?
- ≫ 多職種が協働し、チームで患者さんを丸ごとサポートする診療体制を構築
- ≫ 食べられない高齢者が増えている
- ≫ 若い世代に響くクリニックを目指しブランディングを再構築
- ≫ 予防歯科の次のフェーズをどう構築していくのか
- ≫ 「社会にどう役立つか」を起点に自分の仕事を考える
- ≫ ゴールに繋がらない人を繋げていくことが今後の歯科の仕事
- ≫ 管理栄養士、言語聴覚士の方々にお話を伺いました。
広島県福山市
医療法人社団 敬崇会 猪原[食べる]総合歯科医療クリニック
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![[写真] 理事長 猪原 健](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_staff01.jpg)
理事長
猪原 健 -
![[写真] 訪問診療部部長 猪原 光](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_staff02.jpg)
訪問診療部部長
猪原 光
近年、歯科領域では「生涯にわたっておいしく食べる」ための機能を維持・管理し、全身の健康を支える役割が求められつつあります。猪原[食べる]総合歯科医療クリニックでは、従来の歯科医院の枠を超えたスペシャリストと設備を備え、ワンチームとして「おいしく食べる」ための取り組みを実践されています。「食べること」のサポーターとして、今後歯科が求められるあり方について、猪原健先生と猪原光先生のお二人にお話を伺いました。
歯科医院なのに、待合室にオープンキッチン!?
当院の特徴は大きく2つあります。一つは「街と繋がるクリニック」であること。もう一つは、「おいしく食べる」をサポートするクリニックであるということです。この2つを実現するために多くの医療機関と密に連携をとっています。さらに、一生おいしく食べ続けるためには、質の高い歯科治療、歯の喪失を防ぐための予防歯科やケアなどの歯科的なアプローチはもちろん、患者さんの生活や健康を守り維持していくための包括的なサポートも必要になります。残念ながら、これまでの歯科医療では、「噛む」ことを中心にした治療に終始し、「食べる」というところまでフォーカスできていませんでした。そこで当院では、おいしく食べるために必要な4つのチカラ:①歯のチカラ ②噛むチカラ ③飲み込むチカラ④栄養のチカラ の維持・回復をサポートするために、12名の歯科医師、13名の歯科衛生士、そして内科医師、言語聴覚士、管理栄養士がお互いに連携・協働し診療を行うという、歯科医院の既成概念に捉われない、新たな診療スタイルを確立しました。
食べることは人生そのものといっても過言ではありません。そこで当院では、クリニックでいちばん多くの人が集う待合室にオープンキッチンを設けています。ここでは普段、管理栄養士が調理したり、料理教室を開催したり、言語聴覚士と協働しながら嚥下調整食を試作したりと、おいしい食べ物の香りがクリニック全体に充満する、一風変わったクリニックです。
多職種が協働し、チームで患者さんを丸ごとサポートする診療体制を構築
そもそも「食べること」に特化したクリニックをつくった理由は、2010年からおよそ1年間滞在したカナダ留学の経験が大きく影響しています。口腔・頭頸部がん(猪原健)、摂食嚥下(猪原光)と共にフィールドは違えど、多職種のスタッフが連携して治療に臨む姿勢や、言語聴覚士がサポートチームの中心として活躍するシステムを体験しました。そこでお互いに様々な経験や学びを得る中で、豊かな人生を送るためには「おいしく食べられること」が何より大切であることを学びました。さらに、それを本当の意味でサポートするためには、食べるための専門家が集まり、チームとして患者さんの生活を丸ごと支えていく必要性を感じたのです。そこで、カナダから帰国し、クリニックをリニューアルする際には、言語聴覚士と管理栄養士、内科医師が勤務する診療体制を最優先に考え、実行に移していきました。
![[写真] 猪原[食べる]総合歯科医療クリニックの看板](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo01.jpg)
2023年に、念願の「食べる」というフレーズを加えた医院名に改称した。![[写真] 総合歯科医療クリニックの外観](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo02.jpg)
誰もが同じ方法で入室できることが、本来のバリアフリーであることを学び、スロープを使わず建物全体を底上げしている。![[写真] 待合室の横に設けられたオープンキッチン](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo03.jpg)
待合室の横に設けられたオープンキッチン。調理の様子が待合室の患者さんから見えるので、自然と会話が生まれる。
食べられない高齢者が増えている
現在国内には、これまで数えきれないほどの歯科治療を受けてきたにもかかわらず、口腔内が悲惨な状態になっている高齢者が後を絶ちません。留学したカナダをはじめ海外の先進国では、治療費がとても高額なため、国民はそもそもう蝕に罹患しないように、日々のセルフケアや定期的なプロフェッショナルケアを受けることが当たり前になっています。一方、日本では、国民皆保険制度の恩恵で安価で歯科治療が受けられるために、う蝕になって痛みを自覚してから来院する「手遅れの治療中心の医療」の国になってしまいました。そのため、国内では高齢になって食べられない口腔状態の人が増えているわけです。
食べるところを支援する場合、いちばん手厚くサポートすべき層は当然ながら高齢者です。当院には、外来通院が難しくなり始めた時から訪問診療に特化した専門チームが患者さんのもとに伺います。そこでは、治療や義歯調整、口腔ケアなどはもちろん、言語聴覚士や管理栄養士とともに、おいしく食べるために必要な嚥下内視鏡検査(VE)や食事メニューの提案などを行っています。その一方で、口腔機能が崩壊して、摂食嚥下がうまくできない人々がますます増えていく流れに、どこかで歯止めをかけないと、国が目指す健康長寿社会は見えてきません。そこで重要になるのが予防歯科です。当院では、原則としてすべての患者さんを対象に、MTM(Medical Treatment Model)を導入しています。MTMは、米国ワシントン大学のMaxwell H. Andersonが提示した「修復中心から病因管理へ」という発想を起点に、スウェーデンのイェーテボリ大学のBo Krasseが管理型予防歯科として枠組みを整理しました。日本では、熊谷崇先生が臨床システムとして具体化した、リスク評価に基づいて疾患を継続的に管理する診療思想を指します。当院では、担当する歯科衛生士が各種検査を行い、口腔内の状況やリスクを把握し、それに基づいたメインテナンス管理を行っています。
若い世代に響くクリニックを目指しブランディングを再構築
当院には幅広い年齢の患者さんが来院されますが、最近は特に若い世代が増えていて、若い人たちの思考や行動が大きく変わっていると感じます。もともと当院は、1947年に祖父が「猪原歯科医院」を開業して以来、80年近く続く地域密着型の歯科医院でした。2014年に現在地に移転し、「猪原歯科・リハビリテーション科」として、食べられる口腔環境の維持とリハビリテーションに注力してきました。さらに、2023年10月には、医院名を現在の「猪原[食べる]総合歯科医療クリニック」に改称し、クリニックのブランディングも再構築しました。働く世代に来院していただけるクリニックにするためにどうすれば良いのか。人生100年時代を迎え、若い世代に「おいしく食べられる口腔」を守り維持する大切さを伝えるため、コロナ禍以降の2年間はクリニックの総力を上げて、歯科予防教育に注力してきました。その甲斐があって、20~30代の若い世代の方々は、一度は痛みを伴う治療を経験しても、その後治療した口腔内を維持し、きちんと整える目的で定期的に来院していただけるようになってきました。現在の良い状態を維持したいと考える意識の高い若者が増えてきた証左だと感じています。あるいは、「食べる」という見慣れないフレーズを医院名に入れたことが若者の心に響いたのかもしれません。
![[写真] 診療室](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo04.jpg)
診療室の天井にはスクリーンが収納されていて、場所を選ばずカンファレンスを行うことができる。![[写真] カンファレンスの様子](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo05.jpg)
カンファレンスの様子。年間で、外来・訪問それぞれ各1,000症例、トータル2,000症例ほどのカンファレンスが行われる。![[写真] 内科診療室](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo06.jpg)
「食べることと心身の健康は直結する」という考えから、内科診療室を併設。現在、月に2回内科医師が診療を行う。![[写真] カナダ留学での一コマ](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo07.jpg)
カナダ留学での一コマ。健先生は口腔・頭頸部がん患者のサポートチームで、光先生は摂食嚥下チームで、それぞれの学びを深めていった。![[写真] 言語リハビリ室](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo08.jpg)
言語聴覚士がリハビリテーションを行うための施設基準を満たした言語リハビリ室を完備している。![[写真] MTMの様子](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-11_photo09.jpg)
MTMの様子。担当する歯科衛生士が各種検査を行い、口腔内の状況やリスクを把握。それに基づいたメインテナンス管理を行う。
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目 次
モリタ友の会会員限定記事
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