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Clinical Report

SPIインプラントを用いたSocket-shield Techniqueの有効性

医療法人メルサ会 飯田歯科 院長 飯田 啓介

キーワード: 抜歯即時埋入/Socket-shield Technique

目 次

はじめに

抜歯即時埋入インプラントは、成功率が成熟側埋入と変わらず高いことに加えて、治療期間の短縮や少ない外科処置回数など、患者・術者ともに利点が多い方法として認識されている。一方で、抜歯後に生じる歯槽堤の吸収により、審美的な問題や清掃性の悪化などの欠点も挙げられる(図1)。その改善のためには、結合組織移植やGBRなどの追加的外科処置が必要となる。
近年では、患者の要望は高まる傾向にあり審美的な結果は当然のこととなり、その上で無痛的で低侵襲、さらには短期間かつ少ない治療回数が要求されるようになってきている。American Dental Association(ADA)によると、Evidence-based Dentistry(EBD)とは、Dentist’s Expertise, Scientific Evidence, Patient’s Preferenceの3つ全てが含まれるものとされている1)図2)。いわゆるエビデンスが重要なことは言うまでもないが、患者の好み(Preference)も考慮する必要があり、医学的に重要なものであっても、患者に受け入れられない治療法はもはやEBDとは考えられない、ということになるであろう。
筆者は臨床歴が30年を経過したが、患者の痛みに関する要求は年々高まってきていると痛感している。一度痛い思いをした患者さんは、すぐに転院してしまったり、二度と同じ治療法を受け入れてくれなくなるようなことを少なからず経験している。この傾向は今後ますます高くなると感じている。

  • [写真] 抜歯後の歯槽堤の吸収による陥没
    図1 抜歯後の歯槽堤の吸収による陥没
  • [図] ADAによるEBDの考え方
    図2 ADAによるEBDの考え方には患者のニーズや好みも含まれる。

Socket-shield Techniqueの概要

ZuhrとHürzelerらは、抜歯即時埋入インプラントにおける歯槽堤の吸収を回避する方法としてSocket-shield Techniqueを、2010年にビーグル犬での結果2)を、2012年にはヒトでの臨床においても良好な結果を報告した3)。この方法は、歯根の唇(頰)側の一部のみを歯肉縁下に盾状に残存させて、インプラントは口蓋(舌)側に埋入することで歯槽堤の吸収を抑制するものである。軟組織移植や骨造成術のような追加的外科処置を必要とすることがなく、本来の歯槽堤や歯肉縁形態を温存することができることが最大の特徴といえる。彼らのオリジナルの方法では、残存歯根とインプラントを意図的に接触させて埋入していることは興味深い。2014年にはSiormpasらがRoot-membrane Techniqueという名称で、46人の患者において、最長5年の経過で生存率100%と良好な結果を報告した4)。その後多くの臨床家により様々な改良が加えられ、本邦においても林揚春氏らが確立した方法として書籍にまとめているので、一読されることをお薦めする5)
現在では歯根片の厚みが1~1.5mm、高さは5~6mm、根尖部は削除して歯根上端の位置は骨縁下1mm、とすることが一般的と考える。また、インプラントと歯根片との間隙は可及的に広くして、そのスペースには少量の骨補填材を添入して血餅の保持を促すべきである。
2023年のシステマティックレビューによると、506人の患者にRoot-membrane Techniqueを用いて埋入された587本のインプラントをメタ解析した結果、通常の抜歯即時埋入インプラントと比較して骨の変化は有意に少なく、生存率と成功率は同等であったと報告している6)
その一方で合併症の報告もあるため、注意して臨床に取り入れる必要がある。合併症としては歯根片の露出や感染が比較的多く挙げられる。Gluckmanらは、Socket-shieldから4年経過128症例の後ろ向き調査において、25症例(19.5%)に合併症が認められたと報告した7)。もっとも多かった合併症は歯根片の露出であり、インプラントの生存率は96.1%と述べている。歯根片の露出を防ぐためには、前述したように歯根片上端は骨縁下1mmに設定することが重要であると思われる。

筆者が行う術式

筆者は、2017年からSocket-shield Techniqueを臨床に取り入れ、現在のところ症例数は42症例とまだまだ少なく、経過年数も最長で8年程度のため、この治療法については初心者の域を出ていない。しかし、ある程度の知見は得られたので読者の先生方と共有できれば幸いと思う。インプラントの喪失は今のところ1本もなく、インプラントの生存率は100%である。しかし、偶発症として歯根片の露出を2例確認した。Socket-shield Techniqueの臨床応用を開始後しばらくは、歯根片上端の位置を歯槽骨縁上、同縁あるいは骨縁下に設定するなどしていたことが原因と考えられる。歯根片の露出を認めた2例中1例においては歯根片の除去を行った。もう1例においては、露出部位を削合して歯肉縁下に封入することで対応できた。
現在では、歯根片上端の位置を骨縁下に設定することで露出することは防止できていると感じているが、症例数の増加と長期経過の結果を確認する必要がある。現在のところ、露出以外には問題は認めず経過は良好といえる。
現時点で筆者が行っている術式について簡単に説明する(図3)。FG用のダイヤモンドのロングバーと直径3mmのラウンドバーを用いている。歯肉縁上に残存歯質が存在している場合は、歯肉同縁まで削除する。次いでダイヤモンドのロングバーを用いて(多くの場合は無髄歯であるため)根管充填材を除去しながら根尖まで穿通し、さらに近遠心的に切り込みを入れるようにロングバーを動かして歯根を唇(頰)側と口蓋(舌)側に分割する。確実に切断できたことを確認してから、歯根の口蓋(舌)側部のみを抜去する。歯根内面に汚染がないこと、および根尖・根周囲に病変がないことを確認する。残存する歯根の形態の調整を行う。まずは、歯根片上端を骨縁下1mmになるように削合する。ダイヤモンドラウンドバーを用いて削合を開始するが、歯槽骨付近の歯質を削合する段階では、支台歯形成用のバーで注意深く削合する。前歯部唇側の歯槽骨は極めて薄いことが多いため、歯根と一緒に削合してしまうことがないように細心の注意が必要となり、顕微鏡や拡大鏡が必須と考える。上端の位置が決まったら、歯根片の厚みを1~1.5mm程度になるように削合し、最後に根尖部分を削合して歯根片の高さが5~6mm程度に調整する。根尖部分の削合には再びダイヤモンドラウンドバーを用いるが、この際にも歯槽骨を削合しないように細心の注意を払うことが重要である。根尖部分の削合の確認に関しては、ほぼ盲目的な作業であるため、目視で確認することは非常に困難である。探針などを用いて手指の感覚による確認も行うが、手探りで歯根面か骨面かの確認は少々熟練を要するものである。歯根片の調整が完了したら、通法に従って口蓋側低位にインプラントを埋入する。歯根片とインプラントは可及的に離してギャップには骨補填材を添入する。初期固定が良好であれば即時にプロビジョナルレストレーションを装着し、術後4週で印象採得し、術後6~8週で最終補綴物を装着する。
Socket-shield Techniqueを応用した場合は、術後の歯槽堤の吸収や歯肉縁形態の変化はほとんど生じないため、最終補綴物の製作時における歯肉縁下からの立ち上がり形態を容易に決定することができることも利点の一つと言える。

  • [図] Socket-shield Techniqueの術式
    図3 Socket-shield Techniqueの術式

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