197号 SUMMER 目次を見る
キーワード:臼歯部直接修復/フロアブルレジン/“機能美”を備えた治療
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ デジタルデータの臨床応用
- ≫ 直接修復の醍醐味
- ≫ 症例供覧
はじめに
近年の材料学の発展により、フロアブルレジンは当初想定されていた「ライニング材」という役割を大きく超え、臼歯部での使用範囲が飛躍的に広がっている。特に、機械的物性の向上と、流動性の異なる複数タイプが用意されるようになった1)ことは、臼歯部における直接修復の可能性を大きく押し広げた要因であると感じる。これによりフロアブルレジンは、単に窩洞適合性を高める補助材料にとどまらず、咬合面形態の付与や最終形態の微調整といった操作性を必要とする領域にまで応用可能となり、臼歯部直接修復は、“限定的な適応”から“積極的に選択し得る治療法”へと進化しつつある。
デジタルデータの臨床応用
こうした材料の進化と並行して、デジタルワークフローの発展は臼歯修復の精度を大きく高めている。口腔内スキャナーによる術前の形態分析、咬合接触の可視化、咬耗や形態変化の記録は、従来は肉眼や咬合紙だけでは捉えきれなかった領域を補い、術者の判断を支える重要な情報源となっている。
デジタルデータはあくまで“形態を理解するための道具”であるが、その精密さによって臼歯部を立体的に把握できるようになり、治療計画や術後評価が格段に正確になったことは、間違いなく現代臨床の大きな進歩である。
近年のin vivo研究においても、口腔内スキャナーは臨床条件下で良好な真度および精度を示すことが報告されている。
一方で、全顎スキャンにおいては局所的な誤差が生じ得ることも指摘されており、デジタルデータを臨床に応用する際には、その特性を理解した上で活用することが重要である2)。
補綴領域では、デジタルスキャンの精度をさらに高める目的で、術前スキャンと術後スキャンを正確に重ね合わせる(スーパーインポーズ)プロトコルが報告されている。
Gerdolleらは、術前データ上で対象部位のみをくり抜き、周囲形態を固定した状態でスキャンを上書きする方法を示しており、このステップによりラバーダム装着時に生じ得る微小な歯の位置変化を補正し、形態変化を高精度に評価できるとしている3)。
筆者自身、この補綴領域のプロトコルを直接修復へ応用するかたちで取り入れ、臼歯咬合面の三次元的形態分析の精度向上に役立てている。
こうしたデジタル精度向上の延長線上には、前歯部におけるインジェクションテクニックがある。
前歯部では、このデジタルデータを活用したインジェクションテクニックが形態の転写手段として高い再現性を示しており、すでに2年経過の臨床報告も存在する4)。
透明シリコーンインデックスを介してワックスアップ形態を正確に再現できる点は審美領域で大きな強みであり、本法が広く普及している理由でもある。
デジタルワークフローの動画はこちらから
CASE1 47歳 男性、メタルインレーのやり変えを主訴として来院
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![[写真] 術前](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo01.jpg)
症例1-1 術前。左下第一大臼歯咬合面にメタルインレーを認める。 -
![[写真] STLデータ上で窩洞となる部分をくり抜く](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo02.jpg)
症例1-2 ラバーダム防湿前にプライムスキャンでSTLデータを採得後、STLデータ上で窩洞となる部分をくり抜く。 -
![[写真]](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo03.jpg)
症例1-3 メタルインレー除去後、ラバーダム防湿。染め出しでプラーク可視化後、「エアフローハンディ3.0 Plus(ハンディパウダーPMTC+)」を使用して効率的に歯面清掃、う蝕除去。 -
![[写真] 接着処理前の状態](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo04.jpg)
症例1- 4 接着処理前の状態 -
![[写真] 窩洞を上書きするように追加スキャンを行う](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo05.jpg)
症例1-5 窩洞を上書きするように追加スキャンを行う。 -
![[写真] 対合との位置関係・咬合接触点を可視化](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo06.jpg)
症例1- 6 対合との位置関係・咬合接触点を可視化できる。 -
![[写真] 断面表示](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo07.jpg)
症例1-7 断面表示により、対合歯が噛み込む位置を把握できるだけでなく、CADデータから理想的な咬頭内斜面の方向性を把握できる。(近心頰側咬頭および舌側咬頭) -
![[写真] 断面表示](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo08.jpg)
症例1-8 断面表示により、対合歯が噛み込む位置を把握できるだけでなく、CADデータから理想的な咬頭内斜面の方向性を把握できる。(遠心頰側咬頭および舌側咬頭) -
![[写真] 「Kエッチャント シリンジ」を用いてセレクティブエッチングを行い、「クリアフィル メガボンド 2」でプライミング、ボンディングの接着操作を行う](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo09.jpg)
症例1- 9 「Kエッチャント シリンジ」を用いてセレクティブエッチングを行い、「クリアフィル メガボンド 2」でプライミング、ボンディングの接着操作を行う。 -
![[写真] 光重合後、高流動タイプのフロアブルレジンを用いて薄く一層ライニング](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo10.jpg)
症例1-10 光重合後、高流動タイプのフロアブルレジンを用いて薄く一層ライニング。 -
![[写真] アイボリー型セパレーターを使用して歯間分離後、隣接面を高流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティESフロー」 High Uを用いてフリーハンドで充填](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo11.jpg)
症例1-11 アイボリー型セパレーターを使用して歯間分離後、隣接面を高流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティESフロー」 High Uを用いてフリーハンドで充填。 -
![[写真] 象牙質相当部を低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」 Low UDで積層充填、エナメル相当部を超低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」SuperLow Uで隆起ごとに充填](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo12.jpg)
症例1-12 象牙質相当部を低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」 Low UDで積層充填、エナメル相当部を超低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」SuperLow Uで隆起ごとに充填。このとき、STLデータから得た三次元形態を反映するよう心がける。 -
![[写真] 蛍光ライトを使用して余剰がないかを確認](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo13.jpg)
症例1-13 蛍光ライトを使用して余剰がないかを確認。 -
![[写真] 術後](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo14.jpg)
症例1-14 術後。咬合接触が狙い通り付与されている。 -
![[写真] 後日来院時に研磨](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo15.jpg)
症例1-15 後日来院時に研磨 -
![[写真] 研磨後スキャンを行い、接触点の位置、強さを確認](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo16.jpg)
症例1-16 研磨後スキャンを行い、接触点の位置、強さを確認。 -
![[写真] 研磨後(頰側方向から撮影)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo17.jpg)
症例1-17 研磨後(頰側方向から撮影) -
![[写真] 研磨後(舌側方向から撮影)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo18.jpg)
症例1-18 研磨後(舌側方向から撮影)
直接修復の醍醐味
一方で臼歯部の修復に取り組む際、私が重視しているのは、形態を手作業で付与するプロセスが持つ臨床的な魅力である。臼歯咬合面は咬頭、斜面、裂溝が複雑に入り組んだ“生きた形”をしており、その微妙な起伏や連続面を材料の流動性を利用して手で描いていく過程には、自然感や生命感が宿る。
このプロセスは単に材料を盛り上げる作業ではなく、歯牙本来の動きと連続性を捉えて形態を付与する行為であり、フロアブルレジンの特性が最も生きる領域だと感じている。
臼歯部の形態付与において中心となるのが、流動性の異なるフロアブルレジンを使い分けるアプローチである。高流動タイプは窩底や側壁とのギャップを防ぎ、適合性向上に適している。中等度の流動性を示す低流動タイプは咬頭の立ち上がり形成に向き、最終的な咬合面の細かな連続面は超低粘度のフロアブルを“描くように”操作することで自然な形態に仕上げることができる。
こうした材料・デジタル・手技が相乗的に機能することで、臼歯部直接修復は“機能美”を備えた治療へと発展している。ここでいう機能美とは、余分な装飾を排し、機能や構造を追求した結果として自然に生まれる美しさを指すものであり、形態をただ再現するだけでなく、咀嚼運動と調和した連続面や自然感を付与できる点は、手作業による直接修復の大きな醍醐味である。
以上のように、材料学の進化とデジタルワークフローの発展、そして流動性を使い分けた手作業による形態付与が、臼歯部直接修復の機能と美しさを両立させる土台となっている。
CASE2 37歳 男性、最終修復を目的とした他院からの紹介により来院
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![[写真] 術前](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo19.jpg)
症例2-1 術前。左下第二大臼歯近心から咬合面にかけて暫間充填材料を認める。 -
![[写真] 染め出しでプラーク可視化後、「エアフローハンディ3.0 Plus(ハンディパウダー PMTC+)」を使用して効率的に歯面清掃](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo20.jpg)
症例2-2 ラバーダム防湿。染め出しでプラーク可視化後、「エアフローハンディ3.0 Plus(ハンディパウダー PMTC+)」を使用して効率的に歯面清掃。 -
![[写真] 暫間充填材、う蝕除去](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo21.jpg)
症例2-3 暫間充填材、う蝕除去 -
![[写真] 事前に採得したSTLデータ上で窩洞部をくり抜き、窩洞を上書きするように追加スキャンを行う](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo22.jpg)
症例2-4 事前に採得したSTLデータ上で窩洞部をくり抜き、窩洞を上書きするように追加スキャンを行う。 -
![[写真] 上顎との対合関係から隣在歯辺縁隆線の高さを超えない限り、近心隣接面には噛み込んでこないことがわかる](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo23.jpg)
症例2-5 上顎との対合関係から隣在歯辺縁隆線の高さを超えない限り、近心隣接面には噛み込んでこないことがわかる。 -
![[写真] 断面表示により、咬合面中心窩を構成する隆起の高さを把握して対合歯と咬合接触させる](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo24.jpg)
症例2-6 断面表示により、咬合面中心窩を構成する隆起の高さを把握して対合歯と咬合接触させる。 -
![[写真] 「Kエッチャント シリンジ」を用いてセレクティブエッチングを行い、「クリアフィル メガボンド 2」でプライミング、ボンディングの接着操作を行う](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo25.jpg)
症例2-7 「Kエッチャント シリンジ」を用いてセレクティブエッチングを行い、「クリアフィル メガボンド 2」でプライミング、ボンディングの接着操作を行う。 -
![[写真] 光重合後、高流動タイプのフロアブルレジンを用いて薄く一層ライニング](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo26.jpg)
症例2- 8 光重合後、高流動タイプのフロアブルレジンを用いて薄く一層ライニング。 -
![[写真] マトリックスシステム「ストラタGリテーナー」 Sを用いて隔壁形成](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo27.jpg)
症例2-9 マトリックスシステム「ストラタGリテーナー」 Sを用いて隔壁形成。 -
![[写真] 隣接面を高流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」 High Uで積層充填](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo28.jpg)
症例2-10 隣接面を高流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」 High Uで積層充填。 -
![[写真] マトリックス、リングを除去後、象牙質相当部を低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」Low UDで積層充填](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo29.jpg)
症例2-11 マトリックス、リングを除去後、象牙質相当部を低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」Low UDで積層充填。 -
![[写真] エナメル相当部を超低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」SuperLow Uで隆起ごとに充填](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo30.jpg)
症例2-12 エナメル相当部を超低流動タイプのフロアブルレジン「クリアフィル マジェスティ ESフロー」SuperLow Uで隆起ごとに充填。このとき、STLデータから得た三次元形態を反映するよう心がける。 -
![[写真] 二次元的な隆起の配置に関しては前医よりいただいた口腔内写真からオリジナルの配置を把握しながら充填を行った](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo31.jpg)
症例2-13 二次元的な隆起の配置に関しては前医よりいただいた口腔内写真からオリジナルの配置を把握しながら充填を行った。 -
![[写真] 重合後、酸素遮断剤「オキシガードⅡ」を塗布し、再照射して未重合層を軽減](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo32.jpg)
症例2-14 重合後、酸素遮断剤「オキシガードⅡ」を塗布し、再照射して未重合層を軽減。 -
![[写真] 術後](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo33.jpg)
症例2-15 術後。咬合接触が狙い通り付与されている。 -
![[写真] 後日来院時に研磨](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo34.jpg)
症例2-16 後日来院時に研磨 -
![[写真] 研磨後(頰側方向から撮影)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo35.jpg)
症例2-17 研磨後(頰側方向から撮影) -
![[写真] 研磨後(舌側方向から撮影)](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/06/197-2_photo36.jpg)
症例2-18 研磨後(舌側方向から撮影)
症例供覧
- 1) Arisa Imai et al. Interrelation among the handling, mechanical, and wear properties of the newly developed flowable resin composites. J Mech Behave Biomed Mater. 2019 Jan:89:72-80.
- 2) Jones Winkler et al. Trueness and precision of intraoral scanners in the maxillary dental arch: an in vivo analysis. Sci Rep. 2020 Jan 24;10(1):1172.
- 3) David Gerdolle et al. Clinical evaluation of rubber dam tension on the accuracy of intraoral scans. Int J Esthet Dent. 2025 Aug 15;20(3):286-298.
- 4) Yuta Ytsumi et al. Resin Composite Injection Technique With a Digital Workflow To Reconstruct Canine Guidance: A Two-Year Follow-Up. J Adhes Dent. 2025 Aug 18:27:155-161
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