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連 載:超高齢社会における歯科医療が果たす役割 Part 21 デジタル時代になっても押さえておきたい義歯製作におけるアナログ手法のポイント

名古屋市守山区 佐藤補綴研究室 代表・歯科技工士 佐藤 幸司

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  • [写真] 名古屋市守山区 佐藤補綴研究室 代表・歯科技工士 佐藤 幸司
    名古屋市守山区
    佐藤補綴研究室
    代表・歯科技工士 
    佐藤 幸司

2025年12月に、3Dプリント総義歯が保険適用開始となり、義歯製作のコスト削減や患者負担の軽減が期待されています。従来のアナログ中心の技工法から、デジタル設計やプリント技術を使いこなすための教育が求められる一方で、これまで培ってきた普遍的な知識や技術も引き続き必要とされます。今回は、長年義歯製作に携わってこられた佐藤幸司歯科技工士に、デジタル時代になっても押さえておきたい義歯製作のポイントについて、お話を伺いました。

デジタル義歯製作においても重要な「解剖」と「生理」の知識

2025年12月に、3Dプリンターで製作した3次元有床義歯(3Dプリント総義歯)が保険適用の対象となりました。3Dプリント総義歯(デジタル総義歯)は、従来通り印象材を用いて口腔内の状態を採得します。その後、ラボスキャナー、口腔内スキャナーでスキャンして得たデータをもとに、液槽光重合という精密な3Dプリンターで形を作る新しいタイプの総義歯です。従来のように手作業で作り上げる手法とは違い、デジタル設計→3D造形→仕上げというデジタル工程で進むため、より精密で安定した義歯を短期間で製作できることがメリットです。
実は、私自身は今のところデジタル義歯製作はそれほど行っていません。ただし、長年アナログ技法で培ってきた知識と技術を駆使すれば、いつでもデジタルに移行できるという自負は持っています。もちろんデジタル技法に即したアップデートは必要になりますが、義歯製作に関する基本的な考え方は、アナログ時代のそれとほぼ変わらないと考えています。すなわち、すべての義歯製作は、患者さんの生体(解剖と生理)に基づいているという真理です。この普遍的な基準をいかにデジタルに反映していくかが、デジタル技法による義歯製作の大切なキモになっていくのではないかと考えています。
これは全ての歯科臨床に言えることですが、臨床術式の一つひとつを十分に理解・考察し、目的・手段・方法を明確にすることが重要です。それを導き出すための基準となるのが、「解剖学」と「生理学」に基づく考え方です。解剖と生理に関する知識を得ることで、自分の中で揺るがない“軸”を確立することができます。こうした軸を持つことによって、義歯製作の手法がアナログからデジタルに変わっても、製作における問題点や勘所を理解し、常に対応していくことができると考えています。

機能する義歯製作のポイント

印象採得のデジタル化に関しては、現状では従来通り口腔内で印象採得を行い、模型を製作し、それを高精度のスキャナーでスキャンするところから始まることが一般的です。その際、口腔内スキャナー(IOS)だと、画像を重ね合わせて歯列全体の画像を構築するため、総義歯のようにスキャンの範囲が広くなると、重ね合わせの誤差が大きくなり、フレームワークの適合精度に問題を生じる可能性があります。したがって、現状では全顎スキャンが必要な総義歯製作の場合、ラボスキャナーの使用をお勧めします。
義歯製作に必要な設定基準値のランドマークが求められることは、従来のアナログ模型製作でもデジタル技法でも同じです。すなわち、印象採得では、解剖学的ランドマーク(顎堤、粘膜の形態)の正確な記録と、吸着や安定の源となる辺縁封鎖を得ることが重要になります(図13)。一方、咬合採得では、顎の位置関係や咬合平面、咬合高径を模型上で再現する情報収集作業です。仮想咬合平面は瞳孔線・カンペル平面に平行な基準面、咬合高径は上下顎の垂直的距離を指し、これらをタッピングやゴシックアーチ、安静位等を基に決定し、機能・審美性を確保します。どれだけ上手に印象採得ができたとしても、この咬合採得を誤ると機能しない義歯となってしまう可能性が高くなります。機能する義歯製作には、適切な咬合高径と顎間距離を記録することが重要です。咬合高径の設定には様々な手法がありますが、目検討で決めてしまうのではなく、きちんと計測することが大切です。患者さんの安静位の鼻下点からオトガイ点間の距離を計測し、そこから、総義歯であれば3~3.5mmを引いた数値を咬合高径とします。顎間距離の平均は約38mm、下顎はその中央値の約19mm、前歯も約19mmを基準にします。咬合平面の設定基準は、前方は咬合高径の1/2、後方はレトロモラーパッドの1/2~2/3に設定します(図4)。これらの数値は、いずれも解剖学的な基準であり、印象採得と咬合採得でこれらの数値がきちんと計測できているかが重要なポイントです。従来のアナログ技法では、多少アバウトな部分があっても、製作段階で試適しながら微調整を行うことが可能でしたが、デジタル技法ではそうした微調整はほぼできません。したがって、これらの数値が正確に計測できて、初めてデジタルによる義歯設計が可能になるのです。
デジタル義歯における人工歯排列も、基準となるガイドラインはアナログ義歯製作と同じです。基本となるのは、解剖学から考察し、「過去に天然歯列が存在していた位置に人工歯を置くこと」です。前歯は顔貌や鼻翼幅を基準に、臼歯は下顎歯槽頂(パウンドライン)や咬合平面(カンペル平面)を基準に、左右対称かつ安定した状態で配置します(図5)。設計画面上では、一見整っているように見えても、位置関係がガイドラインに沿っているかを確認しながら設計することを忘れないようにしてください。

  • [写真] 上下顎の概形印象体[写真] 上下顎の概形印象体
    図1 上下顎の概形印象体。青いラインは個人トレーの外形線を示す。この部分を含んだ概形印象採得が必要となる。
  • [写真] 上顎個人トレーの製作の外形線とアウトライン
    図2 上顎個人トレーの製作の外形線とアウトライン
  • [写真] 下顎個人トレーの製作の外形線とアウトライン
    図3 下顎個人トレーの製作の外形線とアウトライン
  • [写真] 仮想咬合平面の設定基準
    図4 仮想咬合平面の設定基準。前方は咬合高径(A-B点間距離)の1/2、後方はレトロモラーパッドの1/2~2/3を基準とする。
  • [写真] 解剖学的な人工歯排列の基準
    図5 解剖学的な人工歯排列の基準。模型上から下顎歯槽頂(パウンドライン)を考察し、下顎人工歯がこのラインより舌側に入らないように留意する。この際、レトロモラーパッドの大きさ(幅)は、人工歯の頰舌径を検討する上での参考となる。

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