会員登録

197号 SUMMER 目次を見る

Case Report

歯肉創傷治癒初期を守る ― オラプラの臨床的意義

医療法人社団八龍会 すずき歯科医院 勤務医 辻 将

PDFダウンロード

キーワード:歯肉の創傷治癒/液体包帯

目 次

はじめに

「オラプラ液体包帯口腔用」(以下:オラプラ)は、我々がいかんともしがたい外科処置後の治癒初期数時間を補助してくれる材料なのだと思う。例えば私の抜歯臨床で簡単なものであれば処置後30分、ましてや1時間もチェアサイドで経過観察する等ということはない。
5分~10分程度ガーゼ等で圧迫止血・止血確認し、その後は患者に委ねてしまっている。つまり一次止血まで管理しつつも、二次止血は確認しない、それが実情だ。
外科処置、一次止血後、「オラプラ」を塗布して経過をみると歯肉の治りが良い、そんな気がするのだが、考察のため、以下に歯肉の創傷治癒に関してまとめた。

歯肉の創傷治癒に関する考察

口腔粘膜(歯肉)の創傷治癒は、皮膚に比して速やかに進行し、瘢痕形成が少ないことが知られている1, 2)。その治癒過程は一般的に止血、炎症、増殖、再構築の各段階に分けられるが、特に術後直後から最初の数時間が治癒の成否を左右する極めて重要な時間帯である。
まず 0~30分では、血小板が活性化しフィブリン血餅が形成される。クロットリトラクションにより創縁が近接し、止血と初期安定が得られる3, 4)。この血餅が機械的刺激や唾液によって破綻すると治癒は大きく遅延するため、この時期における外的保護の意義は大きい。
続く30分~2時間では、好中球が血管外へ遊走し、壊死組織や細菌の除去が開始される5)。炎症期初期においても血餅が安定していることは、その後の治癒プロセスを順調に進めるための前提条件となる6)
さらに2~3時間では、創縁のケラチノサイトが遊走を開始し、再上皮化の端緒となる1)。口腔粘膜はこの上皮化が特に早いことが特徴であり、湿潤環境と安定した足場が求められる。

「オラプラ」を用いた症例供覧

「オラプラ」は、口腔内で数時間しか保持されず、吸収もされない。薬効もなく自然に少しずつ取れてなくなるところがとても良い。創傷治癒の初期3時間という「ゴールデンタイム」をゲルでカバーできれば、血餅保護、炎症細胞動員のサポート、上皮遊走の足場形成という観点から、臨床的に合理的な製品と考えられる。
もちろん、口内炎に塗ってもいいと思う。保護にはなるし、取れない間の痛みは消える(症例1図1)。しかし、前述したように歯肉の創傷治癒の初期段階にこそ、この「オラプラ」の価値はあると言える。
抜歯直後の止血前に塗布しても「オラプラ」は剥がれないが、圧迫止血できるほどの粘着性はなく「オラプラ」の間隙から出血がみられた、塗った「オラプラ」の厚みや症例の出血の程度にもよるかもしれないが、一次止血はいつも通り待った方が良いと判断された。一方で、治癒経過は良好である(症例2図24)。
歯肉の外科処置後のことを考えれば、歯周外科、外科的歯内療法、移植、インプラント関連外科処置等の後に「オラプラ」を塗布しておくことで外的な刺激を遮断し、創傷の治癒を保護できるのではないかと考えられる。
また、「オラプラ」の粘着性にも注目したい。歯牙周囲歯肉およびインプラントカフ周囲歯肉の上皮性付着は免疫機能においても非常に重要な場所であり、また感染の多くはそこから始まる。そのため、外科後の創傷治癒を期待する場合、如何に緊密に縫合するかが鍵になる。
一方で、周囲歯肉は硬組織との付着であるため、直接的な縫合は不可能である。そこで最も大事な3時間を「オラプラ」で粘着するようにしている。これにより外的な力がかかっても、ある程度であれば問題なく経過するだろう。あくまでも周囲歯肉の緊密な接触がとれている上で、補助的であり、Evidenceはないが、治癒経過は良好である(症例3図57)。
「自家歯牙移植」周囲歯肉の治癒はさらに複雑である。抜歯窩にそのまま移植することや、歯肉を切開し骨窩洞を形成して移植するかのどちらかであろうが、ここを移植歯の形態にピッタリ緊密に縫合できるように成形するのは、骨窩洞を形成するよりもずっと難易度が高い。余った歯肉を骨窩洞方向へ入れ込んだ状態で縫合を終えないことや、歯肉が足りずに歯肉と歯牙の間に隙間ができてしまうこと、つまり上皮をダウングロースさせないようにすることが必要ということである。
できるだけ緊密にということには変わりないが、縫った形態を3時間「オラプラ」が保持してくれるのであれば、その粘着性は極めて重要なものであろう(症例4図812)。

症例1
  • [写真] 右側下口唇にできた口内炎
    図1 右側下口唇にできた口内炎、接触時の痛みを訴えていた。「オラプラ」を塗布し、痛みは消えた。
症例2
  • [写真] 残根部
    図2 残根部の接触痛を訴え来院、抜歯が必要であると判断した。抜歯直後、止血操作は行っていない。
  • [写真] 出血をガーゼで拭い、「オラプラ」を塗布
    図3 出血をガーゼで拭い、「オラプラ」を塗布するも、膜の隙間から2~3分出血がわずかに滲んだ。
  • [写真] 「オラプラ」塗布後5分で止血が確認されたため、処置完了
    図4 「オラプラ」塗布後5分で止血が確認されたため、処置完了。翌日の消毒時の確認で治癒経過良好に見える。
症例3
  • [写真] プロビジョナルクラウンを製作し、辺縁歯肉を整えて「オラプラ」を塗布
    図5 「アーウィン アドベール EVO」にて2次オペ。プロビジョナルクラウンを製作し、辺縁歯肉を整えて「オラプラ」を塗布した。
  • [写真] 1か月後のインプラント周囲歯肉
    図6 1か月後のインプラント周囲歯肉。治癒を確認してIOSにて上部構造製作のためのスキャンを行った。
  • [写真] 最終上部構造装着
    図7 最終上部構造装着。隣在歯との辺縁の高さもそろい、インプラント周囲に炎症所見も認めない。
症例4
  • [写真] 17番歯
    図8 17番歯の動揺と咀嚼時の疼痛を訴えていた。歯牙破折による抜歯が適応と考えられる。
  • [写真] CT撮影(左図)、移植後、デンタルX線(右図)
    図9 CT撮影(左図)による17と18移植歯の適合性を確認(モリタ製作所社製 3DXにて撮影)。移植後、デンタルX線(右図)にて適合したことを確認した。
  • [写真] 周囲歯肉の縫合を行い、移植歯を固定
    図10 周囲歯肉の縫合を行い、移植歯を固定した。周囲歯肉の接触を維持させるため「オラプラ」を塗布した。
  • [写真] 1週間後の抜糸時
    図11 1週間後の抜糸時、周囲歯肉に炎症所見はない。動揺は2度、1週間後に根管洗浄・封鎖予定とした。
  • [写真] 移植2か月後
    図12 移植2か月後、根管内の封鎖も終了しており、コンポジットレジンにて窩洞修復し、動揺も生理的な状態となっている。
参考文献
  • 1) Iglesias-Bartolome R, et al. The Unique Biology of Oral Mucosal Wound Healing. Nat Rev Cancer. 2018;18(5):362–375.
  • 2) Larjava H, et al. Oral Wound Healing: Current Understanding and Future Directions. Periodontol 2000. 2011;60(1):44–65.
  • 3) Versteeg HH, et al. Platelets and Coagulation. Haematologica. 2020;105(11):2634–2644.
  • 4) Weisel JW, Litvinov RI. Fibrin Formation, Structure and Properties. Subcell Biochem. 2017;82:405–456.
  • 5) Eming SA, et al. Inflammation in Wound Repair: Molecular and Cellular Mechanisms. J Invest Dermatol. 2007;127(3):514–525.
  • 6) Landén NX, et al. Transition from Inflammation to Proliferation: A Critical Step During Wound Healing. Cell Mol Life Sci. 2016;73(20):3861–3885.

目 次

モリタ友の会会員限定記事

他の記事を探す

モリタ友の会

セミナー情報

セミナー検索はこちら

会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能

  • digitalDO internet ONLINE CATALOG
  • Dental Life Design
  • One To One Club
  • pd style

オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。

商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。