183号 WINTER 目次を見る
キーワード:インプラント安定性/共振周波数解析/客観的数値による診断
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ インプラント安定性の評価
- ≫ 実際の計測
- ≫ 臨床例
- ≫ まとめ
はじめに
インプラント治療は、欠損補綴における治療の選択肢として広く認知され、多くのメーカーから様々な種類(表面性状、形状)のインプラントが販売されている。また埋入術式も、抜歯即時埋入や、埋入と同時にGBRを併用するなど多様化し、そこには、より確実に、短期間でかつ患者の負担を少なくするなど、インプラント治療は日々進化している。しかし、最も重要なことはインプラントが安定して機能することであり、そのためにはインプラントと周囲骨との結合状態を示す、インプラント安定性(Implant stability)が重要である。
インプラント安定性には、機械的安定性と生物学的安定性があり、前者はインプラントが周囲骨と機械的に嵌合し獲得される安定性(初期固定)で、それを得るためにインプラント体には様々な形状が存在する。後者は、オッセオインテグレーションを意味しており、その安定性や治癒期間を短縮するために様々な表面性状のインプラント体が存在する。インプラントの総合的な安定性は、この二つの和で示され、基本的には、埋入後の生物学的安定性が向上することで、総合的な安定性が向上していく。つまり、埋入後のオッセオインテグレーションの獲得がインプラントの安定性に大きな影響を与えることになる(図1)
図1 インプラント安定性の経時的変化
インプラント安定性の評価
では、インプラントの安定性をどのように評価するかと言うと、X線やCTでの画像診断、埋入トルク値、ペリオテスト値を計測する打診、ISQ値を計測する共振周波数解析(resonance frequency analysis:RFA)などがある。これらの中で術者の経験的な感覚ではなく、客観的な数値として示すことができ、さらにインプラント体に負荷をかけないという点で、RFAがより有効であると考える。
今回は、RFAを使用している「オステルビーコン」を用いた実際の臨床例とその有効性を報告する。
「オステル」は、以前のものから改良され、最新の「オステルビーコン」では軽量化されコンパクトになり、コードレスになったことが最大の特徴である。操作方法は簡便で、様々なインプラントメーカーのインプラント体に合致したスマートペグをインプラント体に装着し、磁気パルスによって振動させて、スマートペグの共鳴振動周波数を測定する。それを特殊な計算式を用いてISQ値として、1~100の数値で示される。ISQ値60未満を低い安定性、60~69を中等度の安定性、70以上を高い安定性としている。オステルビーコンでは計測時に、それぞれ赤、黄、緑で本体が点灯し視認性が向上している。
実際の計測
計測のタイミングはまずは、埋入時に計測を行い、その数値によって、1回法か2回法か、もしくは即時荷重が可能なのかを判断する。その後、2次手術時、プロビジョナルレストレーション印象時、最終補綴装置印象時と計測し、それぞれ次の段階に進んでいいかを数値で判断していく。また、最終補綴装置装着後に、何か問題が生じた場合は、上部構造を外して、ISQ値を計測しインプラント体の状態を診査することもある。実際の計測は、図のように埋入後にインプラント体にスマートペグを装着し、頰側、舌側、近心、遠心と4方向からISQ値を確認する(図2)
図2 この症例は、骨質がタイプⅣであったため、ISQ値は55と低く、本体に赤色が点灯している。6週後には、ISQ値は69に上昇した。
臨床例
今回の症例で使用したインプラントは、イニセルインプラントで、親水性に優れ埋入後4週での荷重が可能とされている。これを異なる状況で埋入し、ISQ値を参考にしながら最終補綴装置装着まで進めた症例を供覧したい。
臨床例① 56埋入(図3~6)
6は抜歯後2週間で早期埋入を行った。埋入時、2本ともに35Nで十分な初期固定を獲得することができたがISQ値には差を認めた。6の数値が低かったため、免荷期間を通常より長くし、2ヵ月後に再度ISQ値を計測したところ、5(B:75、L:77)、6(B:72、L:72)と数値の上昇を認め、高い安定性が確認できたため、プロビジョナルレストレーションを作成し、その後最終補綴装置へと移行した。
図3 6は4壁性で骨とのギャップが2mm以下だったため、骨補填材は使用せず、スペースには局所止血剤を填入した。-
図4 5ISQ値(B:72、L:75)。初期固定、数値ともに高い安定性を示した(株式会社ヨシダ社製CT)。 -
図5 6ISQ値(B:41、L:58)。初期固定は得られたが、埋入時の手指感覚に比べ低い安定性を示す数値となった(株式会社ヨシダ社製CT)。 -
図6 最終補綴装置装着後1年経過。骨レベルも安定し経過は良好である。
臨床例② 6(図7~11)
抜歯後3週間で早期埋入とGBRを行った。ドリリングは最終ドリルまで使用せず、インプラント先端部で初期固定を獲得することを目指し、35Nで初期固定を獲得することができた。骨とのギャップには骨補填材を填入し、非吸収性メンブレンを使用しGBRを行った。3ヵ月後に2次手術を行い、ISQ値の上昇を認めたため、プロビジョナルレストレーション製作へ移行した。その後、3週程経過を観察し、最終補綴装置製作へ移行した。
図7 術前のCT画像。(株式会社ヨシダ社製CT)。-
図8 インプラント埋入直後のCT画像。ISQ値(B:37、L:39)。初期固定は得られたが、先端部のみの固定ということもあり低い数値となった(株式会社ヨシダ社製CT)。 -
図9 埋入後3ヵ月: 2次手術。ISQ値(B:63、L:70)。中等度以上の安定性を確認。 -
図10 最終補綴装置印象時。ISQ値(B:70、L:72)。荷重後も数値の上昇が認められた。 -
図11 最終補綴装置装着時。
まとめ
ISQ値は、インプラント治療を行う上で、術者の経験値による感覚やX線画像、CT画像とは異なり、数値化されるため、客観的にインプラント安定性を知ることができる。埋入後は、ISQ値が上昇していくことが重要であり、高い安定性を示せば安心して補綴操作へと進むことができる。またメインテナンス移行後も、患者が不具合を訴えた場合など、インプラント体の状態を調べる際にも有効であり、オステルは、術者、患者の両方にとって「安心・安全なインプラント治療」を行う上で、欠かせないツールと言えるのではないだろうか。
- 1) Are the Insertion Torque Value and Implant Stability Quotient Correlated, and If So, Can Insertion Torque Values Predict Secondary Implant Stability? A Prospective Parallel Cohort Study. International journal of oral & maxillofacial implants. 2022;37(1);135-142
- 2) Chen ST, Wilson TG Jr,Hammerle CH. Immediate or early placement of implants following tooth extraction : review of biologic basis, clinical procedures, and outcomes. Int J Oral Maxillofac Implants 2004;19:12-25
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