183号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
スーパーボンドEX「混和法」の使いどころ~様々なポリマー粉末の特性から考える~
キーワード:「筆積法」と「混和法」/EXポリマー粉末
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 各ポリマー粉末の特長と混和法について
- ≫ 症例
- ≫ おわりに
はじめに
40年もの長い歴史と信頼、そして臨床実績を持つ「スーパーボンド」(以下、SB)の新しい選択肢「スーパーボンドEX」(以下、SBEX)(図1)が発売されてから1年が経過した。筆者はその発売当初からSBEXを使い始め、現在ではほとんどの症例でSBEXを選択している。
SBEXはSBと同じく2種類の使用方法があり、被着面が狭い場合には「筆積法」、広い場合には「混和法」が適していると考えている。「筆積法」とは筆にモノマー液を吸い込ませ、ポリマー粉末を採取する方法で、動揺歯固定やブラケット装着などに用いられ、もう一方の「混和法」は、モノマー液、キャタリストV、ポリマー粉末を混ぜ合わせて接着に使用する方法で、補綴物装着などに用いられている。
今回は、新旧ポリマー粉末との比較も踏まえ、どのようなことに注意し、どのような場面で「混和法」を使用するのかを2つの症例で供覧したい。
図1 スーパーボンドEX ユニバーサルセット
各ポリマー粉末の特長と混和法について
現在、ポリマー粉末はSBEXも含めると14種類がラインナップされており、以下のように大きく4タイプに分類することができる。
① ノーマルタイプポリマー粉末
発売初期から継続して販売されているポリマー粉末で、「クリア」や「ラジオペーク」などの全6種類がラインナップされている。23℃環境で混和した場合に40秒程度で粘度が上がり、操作の難易度が高いポリマー粉末である。
ダッペンディッシュを冷却し約16℃の環境下で混和した場合、70秒程度の操作時間※が確保できる。混和法使用時は冷却環境下で使用することが前提となるため、現在筆者は混和法では使用していない。
※粉液を混和後、接着に使用できる時間
② 筆積法専用ポリマー粉末
「筆積クリア」、「筆積F3」の2種類が発売されており、「筆積F3」はラインナップで唯一のフッ化ナトリウム配合ポリマー粉末である。筆積法での使いやすさに特化した設計であるため、混和法で使用することは想定されていない。
③ 混和法専用ポリマー粉末
「混和クリア」、「混和ティースカラー」、「混和ラジオペーク」の3種類がラインナップされており、製品名のとおり混和法に特化した設計である。ポリマー粉末の粒子径や形状をコントロールすることで、23℃環境で混和した場合の操作時間を120秒程度まで長くしている。混和泥は液状が長く続く設計なので「スーパーボンド マイクロシリンジ」が使用できる。ポストコア装着時にポスト窩洞先端まで混和泥をしっかり流し込みたい場合、ロングスパンの補綴装置装着など余裕のある操作時間が必要な場合に現在でも選択しているポリマー粉末である。
④ EXポリマー粉末
一つのポリマー粉末で筆積法・混和法どちらでも使用しやすいように設計されたサンメディカル社最新のポリマー粉末で「EXクリア」、「EXティースカラー」、「EXラジオペーク」の3種類(図2)がラインナップされている。筆積法時の操作性はノーマルタイプのポリマー粉末よりも優れ、歯面に塗布した際に垂れ落ちにくい粘りがある。混和法時は、23℃環境では30秒程度で性状が液状からゆるい泥状に変化し、その状態が長く続くことが最大の特長である。具体的には混和泥が歯肉溝や遠心側に流れていってしまうことが少なく、余剰セメントの除去性が大幅に向上している。操作時間は23℃で80秒程度確保されている(図3)。
上記のポリマー粉末は全て主成分がPMMAであるため、混和法での使用時はMMA/PMMAレジンが持つ根本的な特性を有している。つまり操作環境温度が高いと重合・硬化が早まり、ある程度粉と液の比率を変更しても機械的物性はあまり変化せず、接着強さも変わらない。
それらを踏まえると混和法で使用するポイントは、
1. 操作時間を安定させるため操作環境温度を25℃以下にする。モノマー液や陶製のダッペンディッシュを事前に冷却する、ミキシングステーションを併用するといった手段でも良い。
2. 操作環境温度が25℃以下にできない場合には、モノマー液:ポリマー粉末の比率を変更し、モノマー液を1滴増やす(5滴)ことで標準よりも長い操作時間を確保できる。
ただし6滴になると硬化時間が大幅に長くなるため、注意が必要である。また、ポリマー粉末の量を減らして操作時間を延長することも可能で、計量スプーンSmallを使用することでポリマー粉末の量を75%に減らすことができる。このようなテクニックを使用することで、安定して混和法を行うことが可能となる。過去にSBを混和法で使用して補綴物が「浮いた」、「脱離した」経験がある先生は、ご使用の環境が混和法に適していなかったのではないかと推察する。
なお、SB、SBEXの接着強さや被膜厚さは図4、5の通りである。
上記の特性から総合的に考えると、SBを混和法で使用する際に最も適しているのはSBEXではないだろうか。
図2 スーパーボンドEXのポリマー粉末。左から順に「EXクリア」、「EXティースカラー」、「EXラジオペーク」。-
図3 モノマー液比と温度による操作時間の変化。化学重合レジンであるため操作環境温度に依存する。(提供:サンメディカル株式会社) -
図4 ポリマー粉末の種類による接着強さ。各ポリマー粉末間に有意差は無い。(提供:サンメディカル株式会社) -
図5 ポリマー粉末の種類による被膜厚さ。各ポリマー粉末間に有意差は無い。(提供:サンメディカル株式会社)
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