183号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
破折ファイルのリスクを鑑みた根管形成時のアドバイス
キーワード:破折ファイルに対する患者説明/ファイル破折の原因/改良されたNiTiロータリーファイル
目 次
- ≫ はじめに(破折ファイルの現状、問題点について)
- ≫ なぜ破折してしまうのか(根管の解剖学的形態を理解する)
- ≫ なぜ破折してしまうのか(ファイルの耐久性と破折し難いファイルの選択)
- ≫ なぜ破折してしまうのか(術者の根管形成とファイル操作の注意点)
- ≫ 症例(JIZAIシーケンスを一式使用)
- ≫ まとめ
はじめに(破折ファイルの現状、問題点について)
根管治療中に生じるファイルの破折は、日常的な根管治療に大きな困難をもたらす偶発事故であり1)、器具の過度または不適切な使用の結果として発生することが多い2)。根管拡大形成に使用するファイルは、ステンレススチール(以下SS)またはニッケルチタン(以下NiTi)合金のいずれかでできているが、SSハンドファイルの破折においては通常、器具の目に見える歪みまたは変形の後に発生するため予測可能であるのに対し、NiTiロータリーファイルでは、変形など目立った前兆もないまま突発的に破折する傾向がある3)。
様々な文献レビューで、SSハンドファイルよりNiTiロータリーの破折頻度は非常に高く4、5)、Iqbalら(2006)によれば、NiTiロータリーファイル(1.68%) はSSハンドファイル(0.25%)に比べ、破折の発生率が約7倍に上ると報告されている4)。
のちに患者とトラブルになることを避けるためにも患者への説明は慎重に進めなければならない。自分で折ってしまった時と前医が折ったファイルを見つけた時では、患者に対する説明も違ってくる。筆者は後者の場合、Panitvisaiら(2010)がシステマティックレビューで報告するように6)「滅菌された破折ファイルが根管内に残っている場合の歯内治療の予後は大幅に低下しない」ので必ずしもファイルを取る必要がないことをまず説明し、無理に取ることで2次的穿孔などのリスクがあること、そして歯科用マイクロスコープ下で「見えて触れたら除去できる可能性がある」と説明している(図1)。
折れたファイルも通常は滅菌されている器具であり、それ自体が悪さをするものではないはずである。ただ、前医がいつ、どの段階で破折したのかが重要で、もしも根管内がひどく汚染された状態で使用され破折した場合には感染源になるリスクが高い。実際には前医に問い合わせることも不可能であるので、条件が整えばリスクを承知し覚悟を決めた上でファイル除去に臨むことになる。そのため、日々の臨床ではできるだけファイルを折らないよう注意しなくてはならない。
そもそも、なぜNiTiファイルは根管の中で不用意に破折してしまうのだろうか。筆者はその原因を大きく以下3つにあると考える。
・根管⇒根管の複雑な解剖学的形態
・ファイル⇒ファイルの耐久性や設計
・術者⇒術者のファイル操作(設定値も含む)
本稿ではそれぞれの原因と対策について順に述べていきたいと思う。
図1 自分で折ったファイル、折れたファイルを見つけた時に行う説明は重要である。
なぜ破折してしまうのか(根管の解剖学的形態を理解する)
Pruett ら(1997)は、根管の曲率半径と角度およびファイルのサイズが周期的な金属疲労に影響を与えると述べ7)、根管の湾曲に関しては、曲率半径が減少し角度も減少することで、破折までのサイクルが大幅に減少することがわかっている。またファイルの回転速度も繰り返し疲労に影響を与え、回転速度が高いほどファイルが破折するまでの時間は短くなる8、9)。したがって、湾曲が強いほど大きな応力がファイルにかかりやすい。また、ファイルのサイズが大きく、柔軟性も比較的少ない場合では、ファイルが湾曲根管に拘束された際に、より大きな応力を負荷されることになる。
臨床的にはデンタルX線写真だけでなくCBCTを応用し根管の湾曲度をあらかじめ確認しておくことで、湾曲根管に対応する心構えができるだろう。湾曲した根管への対応としては、根尖側1/3でNiTiファイルを使用する前に、根管上部をプレフレアリングすることによって、根管内での拘束を解きファイル破折のリスクを減らすことが可能となる。強く湾曲した根管では根尖への直線的なアクセスを実現することが重要で、これによりファイルは最大2点(歯頸部と根尖部)の曲げ応力に晒されることなく、根尖側1/3までの円滑なグライドパスが約束される10)。
なぜ破折してしまうのか(ファイルの耐久性と破折し難いファイルの選択)
ファイル破折の原因は、ファイルの先端が根管に噛み込んでいる状態で、さらに回転がかかりねじ切れて折れてしまう「ねじれ疲労破折」、そしてファイルが湾曲部で回転する際にファイル外湾側での伸び(引張応力)、内湾側での縮み(圧縮応力)が繰り返され周期的な曲げ荷重が加わることから金属疲労が生じた結果、破折に至る「周期疲労破折」の2種に大別される。「ねじれ疲労破折」に対しては、根管内でファイルが噛み込まない条件を達成できれば良い。拡大形成中には根管洗浄剤や潤滑剤を使用すると、目詰まりやNiTiロータリーファイルの機械的な負担荷重および摩擦抵抗を低減できるため、ファイルのねじれ応力を減少する効果があると報告されている11)。また根管上部から拡大するクラウンダウン法による形成を選択したり12)、切削中にファイルにかかるトルクを制限できるトルクリミット機構付きモーターを使用することでねじれ疲労破折への対応を可能とする。さらに、切削回転中、ファイルの過剰な噛み込みを防止できるOTR(Optimum Torque Reverse)機能を有するトライオートZX2(モリタ製作所)との併用でファイル破折のリスクを低減することが可能である(図2、3)。
OTR機能とは、設定したトルク以上の負荷がファイルにかかると自動的に90°逆回転しトルクを除荷したのちに正回転切削に戻ることで、ファイルの過剰な噛み込みをモーターが強制的に抑制する効果が期待でき、正回転で切削するファイルならどれでも適用できる根管形成に有用な機能の一つである。また多くの改良がなされた市場のNiTiロータリーファイルの中から噛み込み難いファイルを選択することも重要で、2020年に発売されたJIZAI(マニー)は刃部が根管壁に面で接触するラジアルランドがあることにより根管への追従性が良く、噛み込みもある程度防止できると言われており、そのファイルの断面形状(図4)、刃部ピッチ(図5)により引き込まれの少ない滑らかな切削性能を得られるように作られたNiTiロータリーファイルである。
「周期疲労破折」に対してはNiTi合金の熱処理やファイル形態の改善が大きく貢献した。
オーステナイト相で見られた超弾性と呼ばれる、ファイルがスプリングバックする性質は従来のNiTiロータリーファイルの特徴となっている。
一方、マルテンサイト相の金属特性を持つファイルは室温から体温付近で形状記憶特徴を備えており、外力を加えると変形し、プレカーブの付与が可能でその形状を維持するが,加熱するとオーステナイト相に変態して元の形状に戻る特徴を有している。近年はJIZAIを含めたこの手のNiTiロータリーファイルが続々と開発されており、今後の主流となってくると思われる。これらファイルは従来型オーステナイト相寄りのファイルと比較して柔軟で周期疲労破折に対する抵抗性が大きく向上している。
図2 OTR (Optimum Torque Reverse)機能-
図3 OTR機能を兼ね備えたトライオートZX2 -
図5 適切な刃部ピッチが滑らかな切削能と切削片排出能を高める。 -
図4 マルテンサイトよりのR相の特徴を持つJIZAI(マニー)とその刃部断面写真
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