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183号 WINTER 目次を見る

Dental Talk

CAD/CAM時代の接着戦略を整理する

朝日大学 歯学部 口腔機能修復学講座 歯科保存学分野歯冠修復学 准教授 髙垣 智博/医療法人社団 翔舞会 エムズ歯科クリニック 理事長 荒井 昌海/原宿デンタルオフィス 副院長 山﨑 治/大阪大学歯学部附属病院 口腔補綴科 大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野 講師 峯 篤史

目 次

モリタ近年、CAD/CAMの普及に伴い補綴装置のマテリアルにも様々な種類が存在しています。今回のDental Talkでは補綴装置をセメンティングする際に、シンプルでトラブルが少なく現時点でベストと言えるステップについて、それぞれ専門分野の先生方にお話しいただきたいと思います。

国内における接着技術の現状

[写真] 髙垣 智博
髙垣 智博

モリタまず、日本国内における接着技術の現状について、髙垣先生、峯先生からお話しいただけますか。
髙垣日本の接着技術は現在でも世界のトップランナーであることは疑いのないところでしょう。さらに日本の保険診療というシステム上、世界と比較してそれが比較的安価に提供されているので、品質の高い接着材を気軽に使用できる恵まれた環境にあるというのが日本の現状だと感じています。
20、30年前は日本の接着はまさにオンリーワンのテクノロジーで世界を一歩も二歩もリードしてきた存在でしたが、現在はその当時の先進性は感じられないように思います。ただ、近年、髙垣先生をはじめ若手の先生方が国内の接着を牽引しておられるので、今後のさらなる発展が楽しみです。
髙垣現在の臨床材料は非常にシンプルで多機能化していて、誰が使ってもうまく使えるようにパッケージングされている流れは歓迎すべきです。ただ一方で、過去の材料と比較して多機能化したゆえに臨床家が混乱してしまっている現実もあると感じています。例えばセルフアドヒーシブ型の接着材は「どんな材料にも接着できる」という解釈から、間違った使い方をしてしまった事例も実際には存在するのではないでしょうか。そこはやはりシンプルであっても要点を押さえて使用していただくというのが現在の接着に関する一つの到達点だと感じています。
私も同感で、シンプルで使いやすくなっていることが逆にテクニックセンシビリティを招き、使用する人によって成果や性能が違うということが言われてきました。ただ、最近ではさらに接着材の性能が向上してエラーやロスが少なくなっていることも事実だと思います。

レジンセメントやマテリアルの使い分けについて 

モリタ臨床家の先生方は保険と自費でレジンセメントを使い分けておられると思いますが、荒井先生、山﨑先生は使い分けの基準はお持ちですか。
荒井実際にはメタルをほぼ使わなくなっているのですべてが接着に依存しているのが現状です。そうすると使い分けは実はあいまいになっていて、最近の感覚では、保険・自費で使い分ける必要性を感じなくなっています。
山﨑保険診療の場合、コストを重視する先生方も多くいらっしゃると思います。ただ、例えば支台歯の環境が良くないのに保険診療という理由で接着力が劣るセメントを使うのではなく、そういうケースにこそ接着力の高いセメントを選ぶべきですから、単にコストだけでなく、受け入れられる支台歯環境のリテンションの問題ということも大事な選択基準だと思います。
モリタありがとうございます。ここで補綴装置のマテリアルについて髙垣先生からお話しいただけますか。
髙垣2022年4月からCAD/CAMインレーも保険導入され、今後はメタル中心に歯科診療を考える時代ではなくなってくるでしょう。さらに、歯科技工士さんの減少傾向が進むなかで、技工コストや実際の担い手という問題からも、CAD/CAMというシステムは避けて通れない歯科の宿命だと考えています。そうした中、CAD/CAMレジン冠、ジルコニア、二ケイ酸リチウムガラスセラミックスなどの様々なマテリアルを適切に使い分けていく。例えば「保険診療だからこの材料を選ぶ」ということもありますが、やはり適材適所を見極めて使い分けていくことが重要だと思います。さらに見た目で区別できない白いマテリアルも増えてきて、接着の戦略をここできちんと整理しておくことはとても大切なことだと感じています。

CAD/CAMレジン冠エラーの原因と内面処理の重要性

[写真] 荒井 昌海
荒井 昌海

髙垣今回のテーマである「接着」を考えた時にとても重要になってくるのがサンドブラストだと私は常々考えてきました(図1)。CAD/CAMレジン冠の初期エラーの報告データを見ると、そのほとんどが脱離だったことが分かります。さらに、脱離したCAD/CAMレジン冠に対するサンドブラストの実施割合を見るとサンドブラストをしていない人が3分の1程度、さらにプライマー処理(シラン処理)を行っていない方が約半数おられました(図2)。CAD/CAMレジン冠やCAD/CAMインレーの場合、サンドブラストとシラン処理の両方を行ってはじめて「内面処理加算」として算定できるものです。しかし、「両方の処理を必ず実施していますか」と問うと「複雑で分かりにくい」というのが先生方の正直な意見ではないでしょうか。ですから、内面処理は誰が行ってもエラーが起きにくい「簡便さ」が最も重要なポイントであると考えます。
そこで、このたび(株)モリタ東京製作所と共同で歯科用研削器材「アドプレップ」を開発、上市いたしました。〈注:「アドプレップ」については本紙掲載の『P14 Trends(執筆:モリタ東京製作所)』と『P16 Clinical Report(執筆:髙垣智博先生)』で詳しく解説していますので、ぜひそちらをご覧ください。〉
2014年に初めて小臼歯CAD/CAMレジン冠が保険適用になった当時はあらゆる点においてデータが不足していて、誰もが暗中模索の状態でした(図3)。そのなかで日本補綴歯科学会は「アルミナサンドブラストを行い超音波洗浄やリン酸エッチング、さらにシラン処理をして、、、」という接着ステップに関する明確な指針を打ち出しました。それから6年後の2020年に前歯部が保険適用になった際には、推奨されるステップが、2014年に比べてかなりシンプルとなり、先生方にとっても取り組みやすい内容になりました(図4)。
髙垣荒井先生のクリニックでは、CAD/CAMレジン冠の状況はいかがですか。
荒井うちのクリニックでは2、3割も脱離するイメージはないですね。
髙垣サンドブラストもきちっと減圧してセット直前にブラストされていると伺っています。
荒井そうです。ですので脱離が頻繁に発生する感覚はほぼありません。生存率のデータにある脱離の場合、セメントは冠内面と支台歯のどちらに残っていたのでしょう。
それはとても重要なポイントで、どちらのケースも存在しますが、冠内面に残っている方が多いようです。この場合は支台歯への接着に問題があるということが言えると思います。
荒井確かに口腔内で歯面にはサンドブラストをできないですものね。なかなか興味深いデータだと思います。
髙垣初期に脱離するということはまさにそうですよね。私もCAD/CAMレジン冠でひどいケースでは光照射を終わって帰ってもらったらすぐ脱離したことがありました。山﨑先生はCAD/CAMレジン冠初期の頃の状況はいかがでしたか。
山﨑私は荒井先生ほどCAD/CAMレジン冠の本数は多くはないと思いますが、脱離の経験は何例かありました。私のケースでも支台歯側の環境が良くなかったのかセメントはCAD/CAMレジン冠側に残っていることが多かったです。

  • [写真] 試適後装着直前のサンドブラスト
    図1 CAD/CAMレジン冠、ジルコニアセラミックスともに、試適後装着直前のサンドブラストが望ましいとされている。
  • [グラフ] CAD/CAMレジン冠、レジンブロックの予後と脱離症例の内面処理の状況
    図2 CAD/CAMレジン冠、レジンブロックの予後と脱離症例の内面処理の状況(日本デジタル歯科学会誌 5: 85-94, 2015)。
  • [図] 保険診療におけるCAD/CAM冠の診療方針2014
    図3 「保険診療におけるCAD/CAM冠の診療方針2014」(公益社団法人 日本補綴歯科学会)における接着技法(資料提供:峯篤史先生)。
  • [図] CAD/CAM冠の接着技法
    図4 現在、日本補綴歯科学会により推奨されているCAD/CAM冠の接着技法(資料提供:峯篤史先生)。

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