183号 WINTER 目次を見る
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連 載:超高齢社会における歯科医療が果たす役割 Part 15 病態を把握し、薬を知る そして、いかに栄養摂取に貢献できるかが高齢者歯科に求められている
目 次
- ≫ 2021年4月、“満を持して”高知で再スタート
- ≫ 初診の診療室での第一声は「手を見せて」
- ≫ 服用薬のチェックも欠かさない
- ≫ うちは“お掃除屋さん”じゃない歯科は「栄養を変えられる」
- ≫ “多くの目で支える視点”を持てば「他職種連携」へと繋がる
- ≫ [Message] 歯科は、患者さんの人生の岐路に立ち会う“ダイナミックな仕事”
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高知県高知市いとう歯科 院長
伊藤 充孝
本紙177号(2021年6月1日号) にて『「嚥下障害」を学ぶため自院を一時休院し、単身大阪へ』というテーマで取材させていただいた伊藤充孝先生(高知市開業)。高知での再スタートの取り組みについてお話を伺いました。
2021年4月、“満を持して”高知で再スタート
昨年3月、大阪大学歯学部 顎口腔機能治療学教室での1年間の研修を終え、「とにかく早く摂食嚥下で困っている人の助けになりたい」という強い気持ちを抱いて地元高知に戻り、4月1日に再開業を果たしました。
開業から1ヵ月ほどたった頃、休院前から知り合いだったケアマネージャー(以下ケアマネ)さんから「在宅で嚥下障害の方を診て欲しい」という依頼から始まり、歯科医師会の在宅歯科連携室や医科の先生からも依頼があり、少しずつ訪問診療の機会も増えてきました。個人的には「もっと来い!」とも思いますが、それぞれの患者さんとじっくり向き合う時間も取れるので今のところは満足しています。
重症な嚥下障害で困っている方は全国にたくさんいるはずですが、医科、歯科を問わず嚥下を診ることができる先生が少なく放置されてしまうケースも多いのではないかと考えています。私の場合は、単純にアピール不足で周りに知られていないことが原因の一つと感じて、現場でケアマネさんなどにお会いした際には「摂食嚥下も診れますよ」とお伝えするようにしています。「えっ!歯科の先生が嚥下まで診れるのですか?」と驚くケアマネさんも多いので、まだ歯科は“歯を治すところ”で「嚥下障害=歯科」という発想が浸透していないことを痛感します。
初診の診療室での第一声は「手を見せて」
大阪研修時代の恩師、大阪大学の野原幹司先生からは、「ベースは病態把握、全身所見を取れるようになるように」と教え込まれてきました。ですから自然と歯を診るのは最後になってしまいます(笑)。訪問診療の際にも初めての施設や居宅で「お薬は何を飲んでいますか?」「血液検査の結果を見せてください」という質問から入るので、「そんなことより口の中を診て」「歯の治療のために来てもらったのに何なのこの歯医者?」という、周囲からのマイナスオーラをひしひしと感じますが、それも最初のうちだけで、何度かお会いして私の考えを理解してくださるにつれ、取り組みにご協力いただけています。
嚥下障害はその重症度が問題で、誰でも誤嚥はしますが、健康であれば肺炎には進行しません。そのためまず病態を知ることが大事で、薬、年齢、既往歴などの背景を把握し、重症度を判断します。病態を知り、全身所見を取れるようになると、歯科領域外の疾患の予測もできるようになります。
外来に来た80代男性で、電話予約の際に極度の構音障害をきたしていました。来院してまず「手を見せてください」と見せてもらったら、母指球のところが極端に萎縮していました。今までは別の歯科医院を受診していたそうですが、「自転車での通院が辛くなったので、自宅からいちばん近い歯医者に来た」とのことでした。シルバーカーに頼ってかなりヨボヨボの状態でしたので、「別の病気があるかもしれない」と判断し、「主治医の先生に相談してみて」と伝えてその日は帰ってもらいました。母指球の萎縮から神経内科的な疾患を疑い、構音障害もその影響と判断したのです。結局その患者さんは疾患が見つかって、現在入院中です。
また、別の患者さんで指の先端が異常に肥大している方がいらっしゃいました。これは「ばち状指」と呼ばれる症状で、肺がんや肺腫瘍など一部の肺疾患に伴って発生します。そのことはあえて伏せて「この症状は何かの病気のサインかもしれないので主治医の先生に相談してみて」とアドバイスして病院で診てもらったところ、肺がんは否定されたそうですが、呼吸器系の疾患の疑いで継続検査中とのことでした。
さらに、施設に居住する認知症の患者さんは、週に一度歯科衛生士が口腔ケアのために訪問しているのですが、そのスタッフから「今日の〇〇さんの口腔ケアは楽しかったです。“家でチラシ寿司作ったので食べにおいで”って言われました」と報告を受けました。ところが翌週「今日は最悪でした。“帰れ”ってすごい剣幕で怒鳴られて、ケアどころじゃなかったです」としょんぼり帰ってきたことがありました。これは認知の程度に変動がある「レビー小体型認知症」の特徴で、そのスタッフには「いい経験になったね」と話しました。病態を把握していれば、「この患者さんにはそういう日もある」とスタッフにも分かりますから、切り替えて再訪することができるのです。
大阪大学ではとにかく「まずは病態把握」「疾患を見逃すな」ということで毎日こんな勉強ばかりしていました。
体調や全身状態のささいな変化を見逃さないよう、歯科でもできることとしてケア前に手や爪の状態から脱水状態をチェックする。-
外来診療中の伊藤院長。「病態把握だけでなく、もちろん口の中も丁寧に診ています(笑)」。 -
取材時は午後から訪問診療がスタート。伊藤院長と歯科衛生士2名で訪問先に向かう。
服用薬のチェックも欠かさない
当院では外来の患者さんとしばしば持病の話で盛り上がります。野原先生から「服用薬は必ずチェックするように」と指導を受け、ひと通り勉強しました。現在は受付スタッフに『お薬手帳』のコピーを必ずとるように指導していますが「薬をなぜ歯医者に言わないといけないの?」という方はほぼいらっしゃらないです。初診では、『お薬手帳』を見て薬をチェックし、分からない薬があればその場で調べてから診療室に入って、「心臓がお悪いようですね。何のご病気ですか」「ご病気はいつからですか」と伺うと、ほぼ皆さん病気と薬について語ってくださいます。本当は話したくて仕方ないけど誰も聞いてくれないようで、「伊藤先生なら聞いてくれる」と一心に話してくださいます。でも実はこのお話こそ「教科書には載ってないけどこんな症状もある」とか「この薬を飲むとこんな副作用がある」といったことなどが知れて、とても勉強になります。薬を勉強し名前を覚えていくとあらゆる処理能力が格段にアップしますし、薬を知ることで医科の先生方とも綿密なコミュニケーションが取れるようになりますから、ぜひお勧めします。
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