会員登録

183号 WINTER 目次を見る

Clinical Report

CAD/CAMレジン冠、脱離ゼロへ~チェアサイドでの接着前処理の勘所~

朝日大学歯学部 口腔機能修復学講座 歯科保存学分野 歯冠修復学 准教授 髙垣 智博

PDFダウンロード

キーワード:CAD/CAMレジン冠の大きなトラブル/装着直前に行うサンドブラスト処理のメリット

目 次

はじめに

デジタルデンティストリーの台頭とともに、CAD/CAMの技術を用いた歯冠修復が臨床において広く普及してきている。2022年4月からは従来から冠に用いられてきたCAD/CAM用レジンブロックを用いたインレー修復も保険収載され、今後も需要は拡大していくことは疑う余地はない。また、保険外診療ではあるものの、ジルコニアセラミックスを用いた歯冠修復においても、高透光性ジルコニアや歯冠色のグラデーションを持ったマルチレイヤードのディスクの登場により、使用頻度は大きく増加してきている。
一方で、これらの材料を日常的に臨床で使用しているものの、短期間での脱離に悩まされている症例が多いとの報告もあり、正しい装着法の普及が急務である。多くの臨床家が、「接着性レジンセメント」を使用しなければならないことは認知しているものの、接着前処理も含めた細かな手順の複雑さもあり、自分の手順が果たして正しいのか自信が持てないという意見も多く聞こえてくる。
そこで、本稿では、新たに発売された「チェアサイド圧力可変ブラスター」である「アドプレップ」(図1)を用いたシンプルかつ高精度な接着前処理について紹介する。

  • [写真] チェアサイド圧力可変ブラスター「アドプレップ」
    図1 チェアサイド圧力可変ブラスター「アドプレップ」。

CAD/CAMレジン冠装着の現状

CAD/CAMレジン冠において、臨床家を悩ませる大きなトラブルは脱離である。従来の金属冠ではある程度機能した後に脱離することはあっても、装着直後や短期間での脱離の発生は少なかった。
ではCAD/CAMレジン冠は「接着しない」のかと問われれば、答えは「正しく処理できれば接着する」と言える。その際に冠の内面処理の勘所となるのが、「サンドブラスト処理(図2)」と「プライマー処理(シラン処理、図3)」の2点である。近年の報告1)を見ると、CAD/CAMレジン冠の脱離率は8%と依然高く、またその1/3以上が1週間以内での脱離であったことが報告されている。短期間での脱離は患者との信頼関係を大きく損なう結果となるため、可能な限り避けたいところである。また、同報告では脱離したCAD/CAMレジン冠の前処理においてサンドブラスト処理ならびにプライマー処理(シラン処理)がなされていたかを調査しているが、プライマー処理は初期の報告と比較して実施率の向上がみられたものの、サンドブラスト処理に関しては約6割で実施されておらず、初期の報告よりもその割合は増加したと報告している(図4)。
さらに同報告では、歯科医院におけるサンドブラスターの設置の有無も調査しており、約6割の歯科医院が「設置していない」と回答している(図5)。サンドブラストを歯科医院で行わない理由についても調査されており、半数の歯科医師が「歯科技工所でサンドブラストを実施する」と回答している。これらのデータは近年の歯科医院の状況を克明に反映しており、
・大型の圧力が調整できるサンドブラスターは高額だし、設置場所がない
・小型のサンドブラスターは便利だけど、圧力がよくわからない
という意見を多く耳にする。

  • [写真] 冠内面に対するサンドブラスト処理
    図2 冠内面に対するサンドブラスト処理。
  • [写真] 冠内面に対するシラン処理
    図3 冠内面に対するシラン処理。
  • [グラフ] 脱離クラウンにおける装着前のサンドブラスト処理とプライマー処理(シラン処理)
    図4 脱離クラウンにおける装着前のサンドブラスト処理とプライマー処理(シラン処理)。(文献1から抜粋改変)
  • [グラフ] 歯科医院におけるサンドブラスターの設置率とサンドブラスト処理を行わない理由
    図5 歯科医院におけるサンドブラスターの設置率とサンドブラスト処理を行わない理由。(文献1から抜粋改変)

CAD/CAMレジン冠の接着前処理の変化~チェアサイドブラストの重要性~

従来の手法では、CAD/CAMレジン冠の接着前の内面処理としては、
①軽圧(0.1-0.2 MPa)にてアルミナ(50μm)を用いてサンドブラスト処理
②超音波洗浄にてアルミナの残留粉末を除去する
③リン酸にてクリーニングを行う
④シラン処理を行う
と非常に煩雑なものであったが、近年の報告2、3)により超音波洗浄やサンドブラスト後のリン酸処理は不要であるとされ、より簡便な前処理へのエビデンスが明確に示されている。チェアサイドで適切な圧力に調整したサンドブラストが装着直前に実施可能であれば、その後、冠内面にエアブローを行い、シラン処理を実施するだけのシンプルかつ高精度な接着前処理が可能となる。
歯科技工所へのサンドブラスト依頼を実施することも、可能な代替案であるものの、CAD/CAMレジン冠においてはサンドブラスト後1週間大気中に保管すると、シラン処理の効果が低下するとの報告4)があり、注意が必要である(図6)。試適後の唾液や血液などのコンタミネーションの除去の観点からも、適切な圧力での装着直前のサンドブラスト処理で得られる利点は大きい。

新たに開発されたチェアサイド圧力可変ブラスター「アドプレップ」

これらの背景の下、筆者はチェアサイドで簡便に用いることができる圧力調整可能なサンドブラスターの開発を行ってきた。初期においては従来から臨床応用されているサンドブラスターを外部減圧弁にて圧力を調整する装置(図7)を株式会社モリタ東京製作所とともに試作したものの、設置場所への不満や製品としての完成度の不足から試作までに終わった。その後も同社と試作を重ね、減圧装置一体型のチェアサイドサンドブラスターを試作機として形にすることができた(CSB1、図8)。
さまざまな検証実験を重ね、2022年6月に「アドプレップ」として、チェアサイドで圧力調整可能なサンドブラスターを上市することができた(図1)。従来のサンドブラスターとの違いを示すために、「接着=adhesion」のための「前処理=preparation」を実施するためのサンドブラスターとして「Adprep」と命名された。
歯科用ユニットのエアージョイントに接続する(図9)だけで簡便に使用可能であり、付属のアルミナ粉末をパウダータンクに入れて装着する(図10)ため、確実に接着前処理に適したアルミナ粉末を使用しての処理が可能である。上部に設置された圧力計には、材料ごとに適切な圧力が色分けして表示されており(図1112)、簡便かつ直感的にコントロールすることが可能となっている。
では実際に、過度な圧力でCAD/CAMレジン材料をサンドブラストするとどうなるかを検証してみたい。CAD/CAMレジンブロックを厚み0.5mmに切り出し(図13)、0.4MPaにてブラストを実施したところ、短時間のブラストにもかかわらず穿孔してしまっている(図14、動画)。
接着前処理において、前述のようにサンドブラストは欠かすことができないものの、過度な圧力でのブラストはクラックや内面不適合の原因となるため推奨されない。レーザー顕微鏡を用いた観察でも、過度な圧力でのサンドブラストによって、CAD/CAMレジンブロック表面が大きく抉れる様子が観察された(図15)。

  • [グラフ] CAD/CAMレジンブロックにおけるサンドブラスト後のシラン処理効果
    図6 CAD/CAMレジンブロックにおけるサンドブラスト後のシラン処理効果。ブラスト直後にシラン処理した群と比較して、1週間大気中保管群での接着強さの低下が見られた。(文献4から抜粋改変)
  • [写真] 開発初期の試作機
    図7 開発初期の試作機。ユニットからのエアーを減圧し、既存のチェアサイドブラスターに接続する形態であった。
  • [写真] 減圧装置一体型チェアサイドブラスター
    図8 減圧装置一体型チェアサイドブラスター。試作コードCSB1。
  • [写真] ユニットへの接続方法
    図9 ユニットへの接続方法。歯科用ユニットのエアージョイントに接続するだけで簡便に使用可能である。
  • [写真] パウダータンクを本体に接続する
    図10 パウダータンクを本体に接続する。接着前処理に適したアルミナ粉末を用いて処理をすることが可能である。
  • [写真] 上部の圧力計
    図11 上部の圧力計。各材料に適したサンドブラスト圧の範囲が色分けして示されている。
  • [図] 色分けされた各材料への適切なサンドブラスト圧
    図12 色分けされた各材料への適切なサンドブラスト圧。ユニット直結で得られる0.4MPaは金属材料には適しているものの、CAD/CAMレジン材料やジルコニアセラミックス材料には過度な圧である。
  • [写真] 厚み0.5mmに切り出したカタナアベンシアブロック
    図13 カタナアベンシアブロック(クラレノリタケデンタル)を厚み0.5mmに切り出した。
  • [写真] 過度な圧力のサンドブラストにて穿孔したCAD/CAMレジンブロック
    図14 過度な圧力のサンドブラストにて穿孔したCAD/CAMレジンブロック。
    「アドプレップ」を用いたサンドブラストの動画はこちらから
  • [写真] CAD/CAMレジンブロック表面に10秒サンドブラストした後の表面観察
    図15 CAD/CAMレジンブロック表面に10秒サンドブラストした後の表面観察。0.4MPaでは表面が大きく抉れてしまっている。
  • [写真] SA ルーティング® Multi
    図16 SA ルーティング® Multi(クラレノリタケデンタル)。ハンドミックス、オートミックスの選択が可能である。

SA ルーティング® Multiとの併用で簡便かつ高い接着性能を示すCAD/CAMレジン冠の装着

最後に、現在臨床においてシンプルかつ高い接着性能を示すCAD/CAMレジン冠の装着方法を紹介したい。
前述の通り、装着直前の適切な圧力でのサンドブラストとシラン処理は欠かすことができない。しかしながら、いまだにシラン処理の不備も多く見られることが報告されており1)(図4)、フェイルセーフの観点からも見過ごすことはできない。その点において、シラン処理剤がセメントに含まれているSA ルーティング® Multi(クラレノリタケデンタル、図1617)はCAD/CAMレジン冠の装着において有用性が高い。別途シラン処理なしでもCAD/CAMレジン材料に高い接着性能を示すことが報告されている5)ため、術者が接着前処理として行うことは装着直前でのアドプレップを用いた適切な圧力でのサンドブラストとエアブローのみとなる。
現在実施できるCAD/CAMレジン冠の装着法において、シンプルかつ信頼性の高い接着性能を示す方法であり、コストパフォーマンスにも優れていると考える。

下のチャートエリアは横スクロールできます
  • [写真] SA ルーティング® Multiの従来製品との比較
    図17 SA ルーティング® Multiの従来製品との比較。従来製品(SA ルーティング® Plus)では別途プライマーを用いたシラン処理が必要であったが、SA ルーティング® Multiでは新規シランカップリング剤が配合されているため、シラン処理が不要となった。

まとめ

今回発売されたアドプレップは、デジタルデンティストリー時代の接着前処理において欠かすことができないツールであると考える。理想的な接着操作直前の適切な圧力でのサンドブラストが簡便に実施でき、コンタミネーションなどへの懸念も払拭される。接着に関心が高い先生方への専門的な道具としてではなく、「なんとなくうまくいかなくて困っている」という先生方にも手に取ってもらいたい。
SA ルーティング® Multiとの併用で完成するシンプルで確度の高い術式(図18)は、開発企業の技術の結晶であり、広く普及することで「日本の接着歯学」のチカラが、臨床の現場で患者さんの利益に繋がれば幸いである。

下のチャートエリアは横スクロールできます
  • [写真] アドプレップとSA ルーティング® Multiを用いたCAD/CAMレジン冠の装着
    図18 アドプレップとSA ルーティング® Multiを用いたCAD/CAMレジン冠の装着。冠内面は試適後にアドプレップで適切な圧力でブラストし、エアブローのみ。歯面処理にはクリアフィル® ユニバーサルボンド Quick ERを併用する。
参考文献
  • 1) 末瀬一彦, 橘高又八郎, 辻 功, 澤村直明:小臼歯CAD/CAM冠導入2年後の臨床経過に関する調査研究.日本歯科補綴学会誌 2019;11巻1号 p.45-55.
  • 2) 萩野僚介, 峯 篤史, 上村(川口)明日香, 東 真未, 山中あずさ, 石田昌也, 松本真理子, 中谷早希, 矢谷博文:アルミナブラスト処理後の超音波洗浄により接着性レジンセメントのCAD/CAM冠用レジンに対する接着性は向上しない. 接着歯学 38(2) 35-43 2020年8月.
  • 3) Kawaguchi A, Matsumoto M, Higashi M, Miura J, Minamino T, Kabetani T, et al. Bonding effectiveness of self-adhesive and conventional-type adhesive resin cements to CAD/CAM resin blocks. Part 2: Effect of ultrasonic and acid cleaning. Dent Mater J 2016; 35: 29–36.
  • 4) Influence of Ambient Air and Different Surface Treatments on the Bonding Performance of a CAD/CAM Composite Block.Ali A, Takagaki T, Nikaido T, Abdou A, Tagami J.J Adhes Dent. 2018;20(4):317-324.
  • 5) Effects of Immediate and Delayed Cementations for CAD/CAM Resin Block after Alumina Air Abrasion on Adhesion to Newly Developed Resin Cement. Chin A, Ikeda M, Takagaki T, Nikaido T, Sadr A, Shimada Y, Tagami J.Materials (Basel). 2021 Nov 21;14(22):7058.

目 次

モリタ友の会会員限定記事

他の記事を探す

モリタ友の会

セミナー情報

セミナー検索はこちら

会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能

  • digitalDO internet ONLINE CATALOG
  • Dental Life Design
  • One To One Club
  • pd style

オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。

商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。