198号 AUTUMN 目次を見る
記事の中でご紹介している製品は制作当時の内容になります。
現在は販売していない製品もございますのでご了承ください。
Close Up
体の不自由な方にこそ、健康な歯を!恐怖心を与えない障がい者歯科診療
目 次
- ≫ 障がい者歯科に取り組まれるようになった経緯
- ≫ 障がい者歯科診療のポイントは痛みや恐怖心を与えないこと
- ≫ 宮崎歯科福祉センター開設の経緯
- ≫ 宮崎歯科福祉センターの特長
- ≫ 体の不自由な方にこそ、健康な歯を!
- ≫ 歯科医院で障がい者を診るポイント
- ≫ 歯科麻酔科医に求められる役割
- ≫ 障がい者に口腔ケアを行う際のポイント
一般社団法人 宮崎市郡歯科医師会
宮崎歯科福祉センター
-
![[写真] 診療部長 日髙 幸一](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_staff01.jpg)
診療部長
日髙 幸一 -
![[写真] 診療副部長(歯科麻酔科医) 廣川 惇](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_staff02.jpg)
診療副部長(歯科麻酔科医)
廣川 惇 -
![[写真] 主任歯科衛生士 金丸 光代](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_staff03.jpg)
主任歯科衛生士
金丸 光代
宮崎歯科福祉センターでは、2002年(平成14年)の開設以来、障がい者や有病高齢者などの口腔疾患を診る専門施設として、心身に障がいを持つ患者さんに寄り添った歯科治療に取り組んでおられます。日々、対応が難しい患者さんと向き合い、診療を行うお2人の先生と歯科衛生士さんに、施設の特長や障がい者歯科診療の難しさ、やりがいなどについて、お話を伺いました。
障がい者歯科に取り組まれるようになった経緯
<診療部長 日髙幸一>
私はもともと子どもが好きで、九州大学歯学部卒業後は、2年ほど小児歯科講座に在籍しました。そこでは障がい者も同時に診ていて、私も障がいを持つ患者さんを診る機会が頻繁にありました。その際に、例えば歯磨きが上手にできた、といった簡単なことでも保護者の方に感謝されることに驚き、次第にやりがいを感じるようになりました。
当初は小児歯科で開業することを考えていましたが、子どもの歯科治療は早期発見・早期治療が特に大切ですから、う蝕を発見したら即座に治療するのがセオリーです。でもそうなると、子どもたちに嫌われることが多くて、辛い思いをすることが度々ありました。ところが障がい者歯科では、う蝕が見つかっても、確実な定期管理と予防管理を行うことによって、う蝕を観察・コントロールして、患者さんが治療可能な状態になって初めて治療を開始するのが一般的な診療スタイルです。私にとっては、そのスタイルが魅力的に映り、自分にも合っていると感じて、それ以来、24年間ずっと障がい者の口腔管理に携わってきました。
障がい者歯科診療のポイントは痛みや恐怖心を与えないこと
障がい者の歯科診療を行う上で大切なことは、全ての処置において痛みや恐怖心を与えないことです。ブラッシングで例えるなら、口唇を排除する時の引っ張り方や、口腔内に歯ブラシを入れる際に、痛くならない方法で行うことが大切です。障がい者は、障がいの程度等によって「痛い」と声を出すことや、うまく表現できないこともあるため、少しでも痛みを感じると、その後の治療を拒否してしまうことが往々にしてあります。そのため、次の診療に繋げていく意味でも、治療はもちろん、口腔ケアや浸潤麻酔手技など、全てのステップで細やかな配慮が必要になります。
当センターでは、障がい者が主な対象ですが、一般歯科では対応が難しい有病者や高齢者も受け入れています。来院者のほぼ半数は成人の方で、中には百歳を超える方もいらっしゃいます。以前は小児患者さんの方が多いくらいでしたが、そのお子さんたちも20数年経つと歳を重ねていくので、成人の患者さんが増えてくるのは、ある意味当然のことかもしれません。
![[写真] 宮崎歯科福祉センターの外観](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_photo01.jpg)
宮崎歯科福祉センターの外観。隣接する宮崎市郡医師会病院の周術期口腔機能管理も受け持つ。-
![[写真] 受付・待合室の様子](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_photo02.jpg)
受付・待合室の様子。開設当初は口コミによる来院者が多かったが、現在では地域の医療機関からの紹介が半数を超えるまでになった。
宮崎歯科福祉センター開設の経緯
宮崎歯科福祉センターは、2002年(平成14年)に開設し、今年で24年になります。それ以前は、宮崎県内に障がい者の口腔管理を行う専門施設がなく、多くは小児歯科に携わる志の高い開業医の先生が診てくださっていました。ただ、そのような先生も少数で、全身麻酔で歯を残すための治療を行うためには、福岡、鹿児島、長崎などの県外の歯科大学病院まで、車で4時間近くかけて出向く必要があり、大変だったと聞いています。そこで、宮崎市や宮崎県の障がい者団体の皆さんや保護者の方々からの、宮崎県内に全身麻酔で歯科治療を行える施設を作って欲しいという要望を受けて、当時の宮崎市郡歯科医師会の会長が、当センターの開設に尽力されました。
私はその当時、佐賀県内の施設で障がい者歯科に携わっていましたが、同じく障がい者歯科に携わる先輩からお声がけいただき、地元の宮崎市にUターンすることになりました。
宮崎に戻ってみると建物は建っていましたが、内装や設備はこれからという状態で、施設の経営や運営に携わった経験がない私にとっては、設計や器材の選定など、初めて経験することばかりでした。歯科医師は私1名、障がい者歯科の経験がない歯科衛生士2名と新人歯科衛生士1名の4名体制で、2002年(平成14年)11月1日に開設しました。さらに、それから17年余りが経過した2020年(令和2年)8月に現在地に移設しました。
宮崎歯科福祉センターの特長
当センターでは、全身麻酔治療を行う日を週に1日、月曜日のみと決めています。施設によっては毎日全身麻酔治療を行うところもあるようですが、その場合、マンパワーや器材が多く必要になります。治療の効率は良いのですが、1日に多くの患者さんを診ることができず、結果として赤字になっていくケースも少なくありません。そこで当センターでは、全身麻酔治療を実施する日は週1日に絞って、それ以外の日は歯科衛生士が行うメインテナンスによる予防管理中心の診療体制を目指しました。その体制を採用することで、より多くの患者さんを効率的に診ることができ、経営的にも安定します。ただ、そのためには、多くの患者さんが定期的に来院する流れをつくる必要がありました。そこで、先述した「痛みや恐怖を与えない処置」が活きてきます。
一般的な障がい者歯科では、う蝕などによる痛みを取り除くために受診することが多いイメージです。一方当センターでは、痛みが少ない歯科処置を目指した早期発見による予防管理が中心ですから、痛くなる前に皆さんが来院してくださるので、治療は行わずメインテナンスだけで終わってしまうことが多いのです。その結果、受診のハードルが下がって来院しやすくなり、来院者が増えていく良い循環が生まれています。
さらに当センターでは、待ち時間が極めて短いことも特長です。お待たせすることで、患者さんの協力状態も悪くなりますし、遠方から同伴された保護者の方にとっても大きなストレスです。その結果、通うことが面倒になってしまうことも考えられます。もちろん前の診療が遅れる場合もありますから、「待ち時間なし」のルールを守るのは大変なのですが、そこはスタッフ全員が協力し合いながら厳守しています。
診療の際には、保護者の方にも診療室に入っていただき、全ての診療を見ていただきます。そこで、障がい者歯科診療の難しさや、術者側の苦労も全て詳らかにお見せしています。抑制治療の最中に、お子さんが泣き叫んでいる姿を見ていただくことで、「う蝕になると、これほど大変なんだ」という認識を共有することが目的です。「これだけ治療は大変なんです。お子さんも可哀想ですよね。そうならないためにはどうすべきでしょうか?」と問いかけることで、ご家庭での予防や口腔ケアの必要性をご理解いただくようにしています。
そうした取り組みの甲斐があって、2019年の延べ患者数が、大学病院の歯科口腔外科を除く全国の障がい者歯科診療施設の中でトップになりました。こうした当センターの取り組みのプロセスは、一般の歯科医院と通じる部分があるかもしれません。
体の不自由な方にこそ、健康な歯を!
心身に障がいがあると、歯科治療の難易度が上がることは間違いありません。そして、そのために治療を諦めてしまわれる方がとても多く見受けられます。そこで、当センターのような施設が、質の高い医療を体の不自由な方に提供できるかどうかが、地域の福祉や医療レベルをはかる物差しになると考えています。健常者は治療できても、障がい者には治療できないとなれば、その地域の福祉や医療レベルは低いと言わざるを得ません。
「体の不自由な方にこそ、健康な歯を!」という当センターのスローガンは、在宅寝たきり者、要介護高齢者、難病者、障がい者(児)の口腔の健康を守り、育て、維持することで、口腔疾患による新たな障がいを決して作らないことを目指して掲げられたものです。その目標に向かって、全身麻酔の設備導入をはじめ、医療水準の質をさらに高め、当センターでカバーできる範囲を増やしていきたいと考えています。
![[写真] 白を基調にした明るい雰囲気の診療室](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_photo03.jpg)
白を基調にした明るい雰囲気の診療室。車椅子の患者さんが入室しやすいように、本来は床上に設置する配管ボックスを床下に埋め込み、フラットな床面を実現している。-
![[写真] チェアユニット](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_photo04.jpg)
チェアユニットには、モリタの「障がい者用歯科診療セット」を導入。2020年の移設に伴い、これまでの4台から7台に増設した。 -
![[写真] 通常の治療に加え、全身麻酔下歯科治療を行うための特診室](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2026/09/198-13_photo05.jpg)
通常の治療に加え、全身麻酔下歯科治療を行うための特診室。チェアユニットの横に置かれた麻酔器は、使用時以外は奥の部屋に収納される。
この記事はモリタ友の会会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
残り 3582 文字
目 次
モリタ友の会会員限定記事
- Dental Talk 国内製IOS「Accuios」の真価
- Clinical Report クラレノリタケデンタルの接着システムを用いたダイレクトコンポジットレストレーション -臨床フルステップ-Flowable vs Paste? Flowable & Paste.
- Clinical Report 「Veraview X800+」の有効性
- Clinical Report スーパーボンド®を用いた 暫間的ダイレクトボンディングブリッジ
- Case Report アドベールSH全国横断連載企画<第2回>歯周治療におけるAdverl SHの可能性
- Interview アドベールSH全国横断連載企画<第2回> 足りない部分を補い、 治療の難易度を下げてくれるのが 「アドベール SH」の魅力
- Clinical Report 前歯部審美領域においてTiハニカムメンブレンを用いた骨造成を伴う早期インプラント埋入の1症例
- Clinical Report Dr. Markus Hürzeler / Dr. Otto Zuhr海外プライベートセミナーを受講して
- Clinical Report 小児歯科プログラムの組み立て方
- Close Up 言語聴覚士、管理栄養士など他職種のスキルをプラスし、小児治療プログラムを構築
- Close Up 体の不自由な方にこそ、健康な歯を!恐怖心を与えない障がい者歯科診療
- Topics "おいしい、もぐもぐ、ごっくん"食べる喜びをお届けするため「食品」「医療機器」「口腔ケア」の3つの事業を展開
- Community 患者さんの普段の生活の中にこそ嚥下障害に取り組むヒントがある
- Field Report 炎症のコントロールから長期的な再発予防までをトータルでサポート
- Interview 6歳以上の小児う蝕予防に朗報フッ化物高濃度配合(1500ppmF以下)歯磨剤が使用可能に
- Interview 日常診療の負担が軽減され、患者さんに喜ばれる口呼吸改善
- Lecture 連載:歯科衛生士に必要とされる医科の知識<第5回>緊急時の対応②
- Interview 辞めない歯科衛生士を育てるために一人ひとりに合わせた、きめ細やかなアドバイスやサポートが大切
- 次世代を担う日本の歯科技工士を発掘「歯科技工登竜門2026」10 年ぶりに待望の復活開催
- Topics おむつや排泄に関する課題解決と歯科との接点
- Interview スペースライン+エリアキャビネット導入医院様に聞く ③開業時のリスクを最小限に抑えて理想の診療空間を実現できました
- Interview スペースライン+エリアキャビネット導入医院様に聞く ④体の負担を軽減する診療スタイルは歯科医師を長く続ける秘訣です
- Business Management ハッピーリタイアは公平ではない 第3回 投資による税額への影響
- Clinical Report プラークコントロールを口腔細菌叢のバランスの観点から考える
他の記事を探す
モリタ友の会
セミナー情報
会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能
オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。
商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。