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Interview

日常診療の負担が軽減され、患者さんに喜ばれる口呼吸改善

長野県松本市 なかじま歯科医院 院長 中島 潤子

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目 次

  • [写真] 長野県松本市 なかじま歯科医院 院長 中島 潤子
    長野県松本市
    なかじま歯科医院
    院長 中島 潤子

なかじま歯科医院では、口腔環境を根本から整えるため、患者さんの呼吸に着目した診療を実践しています。そこで、同院院長の中島潤子先生に、歯科医師が鼻呼吸を推進する意義と、その具体的な手法や日常臨床にもたらすメリットについて、詳しくお話を伺いました。

歯科診療において、なぜ鼻呼吸が重要視されるのでしょうか

人間は本来、鼻呼吸が基本ですが、口呼吸をすると口腔領域に様々な弊害を起こします。口呼吸だと口腔内の唾液が乾燥するため、歯牙の脱灰が起きたり、細菌が増殖しやすくなるので、う蝕や歯周病のリスクを高めます。また、高齢者が口呼吸をすると誤嚥性肺炎のリスクが上がります。さらに、口呼吸だと鼻の奥に位置する上咽頭に慢性炎症を起こすことがあります。慢性上咽頭炎は、非定型歯痛、顎関節痛、顔面痛、舌痛症などの口腔顔面痛を起こすことがあります。このように歯科医師が鼻呼吸の重要性を理解して患者さんを指導することは、患者さんの口腔環境を整え、歯科治療の予後を安定させるための重要なアプローチとなるのです。

口呼吸が口腔内に及ぼす具体的な影響について教えてください

最大の弊害は口腔乾燥です。口呼吸によって唾液が蒸発して口腔内が乾燥すると、歯の表面に汚れが付着しやすくなり、歯石や着色の原因になります。また、舌や歯肉の乾燥は、口内炎の頻発や治癒の遅れ、地図状舌や溝状舌といったトラブルも引き起こします。いつも唇が乾きリップクリームが手放せないのも口呼吸のサインですので注意が必要です。また、お子さんのお口ポカン(口唇閉鎖不全)は口腔周囲筋のバランスを崩し、歯並びや咬合にも影響しますし、口呼吸は鼻呼吸に比べると吸い込める酸素が減るので、慢性的な脳の低酸素状態を引き起こすことも問題になりますね。

  • [写真] 圧痛点チェック①:眼窩下孔周辺
    圧痛点チェック①:眼窩下孔周辺
    三叉神経第2枝の出口である眼窩下孔部を押してみて、痛みがある場合は、上咽頭に炎症が起きている可能性が高いと判断できる。
  • [写真] 圧痛点チェック②:上顎結節の周辺
    圧痛点チェック②:上顎結節の周辺
    口呼吸による上咽頭の炎症は、非定型歯痛などの口腔顔面痛を引き起こすことがある。症状のある側の圧痛点に圧痛が強い傾向がある。
  • [写真] 圧痛点チェック③:顎関節周辺
    圧痛点チェック③:顎関節周辺
    慢性上咽頭炎は顎関節痛を引き起こすことがある。圧痛点全てに圧痛がある場合、慢性上咽頭炎による顎関節痛の可能性が高い。

パノラマX線写真の上顎洞の状態から、呼吸について読み取ることができると伺いました

パノラマX線写真には上顎洞が写ります。鼻呼吸をすると上顎洞に空気が送られるため、透過像として黒く写ります。逆に口呼吸だと上顎洞に空気が入りにくくなり換気が低下し、粘膜が肥厚したり、粘液や鼻水が溜まり、不透過像(白く曇った像)として写ります。上顎洞に不透過像が見られる場合、口呼吸をしている可能性があります。上顎洞の不透過像は、両側に見られることもありますが、片側だけのこともあります。パノラマX線写真から口呼吸の可能性を読み取るアプローチは、歯科医師ならではの視点といえるでしょう。

パノラマX線写真からこうした兆候が見られた場合、次にどのような診査を行えばよいのでしょうか

[写真] なかじま歯科医院のスタッフ口呼吸により、慢性上咽頭炎が起きている可能性があるため、
① 眼窩下孔周辺
② 上顎結節の周辺
③ 顎関節周辺
を押してみます。圧痛があれば上咽頭に炎症が起きている可能性があります。この3つの圧痛点には左右差が見られることが多く、パノラマX線写真で上顎洞が白く写っている側と圧痛が一致する傾向にあります。慢性上咽頭炎は、非定型歯痛や顎関節痛などを起こすことがあり、圧痛が認められる側に症状が現れる傾向があります。パノラマX線所見と、圧痛点の確認を併用することで、患者さんに現状を客観的に伝えられ、説得力を備えたカウンセリングが可能になります。

歯科医院として提案できる具体的な呼吸の改善方法には、どんなものがありますか

「あいうべ体操」「鼻うがい」「マウステーピング」があります。あいうべ体操は、口腔周囲筋や舌を鍛える体操で口唇閉鎖不全などに有効です。鼻うがいは、鼻の通りをスムーズにし、上咽頭の洗浄が行えます。マウステーピングは、就寝時に口が開くことを物理的に防ぐ手法です。就寝時の口呼吸は、血中酸素飽和度を90%以下まで低下させることがあります。マウステーピングを継続している患者さんから、「熟睡感が増し、起床時の口の渇きもなくなった」といった声も多く聞かれるようになりました。また、日中は正しい舌の位置(唾を飲み込んだ際に舌が上顎に付く位置)を意識していただくように指導します。鼻うがいやマウステーピングは、高価な道具を必要としないため、患者さんが導入・継続しやすいことが大きな利点です。

鼻呼吸の浸透は歯科治療においてどのようなメリットをもたらしますか

口腔内の乾燥が改善されることで、歯周組織の炎症が改善し、歯周病の安定につながります。また、口内炎の発生頻度が低下し、慢性上咽頭炎から生じる非定型歯痛や顎関節痛、顔面痛といった諸症状の緩和も期待できます。これらは歯科医療従事者にとっても大きなメリットとなります。SPTやPMTCの時間短縮、出血や痛みの軽減につながり、臨床の効率化を可能にします。患者さんには快適な口腔環境を、術者には円滑な診療をもたらす呼吸への介入は、歯科治療の予後を安定させる価値ある提案と言えるのではないでしょうか。

  • [写真] 口呼吸傾向のある方のパノラマX線写真における副鼻腔の所見
    口呼吸傾向のある方のパノラマX線写真における副鼻腔の所見。上顎洞に不透過像が認められたが(写真上)、上咽頭ケア(鼻うがい、マウステーピング)の継続により、透過像が認められるようになった(写真下)。
  • 溝状舌の症例
    • [写真] 溝状舌
      左側の圧痛点に痛みがあり、左側に非定型歯痛を認めた70代の女性。口腔内は乾燥し、溝状舌も認められたため、鼻うがいとマウステーピングによるセルフケアを提案した。
    • [写真] 溝状舌も改善
      セルフケア開始から約2週間で、圧痛点の痛みと歯の痛みが消失した。舌を上顎に付け、鼻呼吸を意識したことで、口腔内が乾燥しにくくなり、半年ほどで溝状舌も改善した。

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