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おむつや排泄に関する課題解決と歯科との接点

歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉/おむつ宅配便 代表・理学療法士 八木 大志

目 次

[写真] 歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉 × おむつ宅配便 代表・理学療法士 八木 大志

おむつや排泄に関する課題解決と
歯科との接点

デンタルマガジン196号の消化器外科医 矢野雷太先生との対談に続き、今号でも「消化器官の入口と出口」がテーマです。
理学療法士の職を離れ、おむつやトイレなど排泄に関わり続けてこられた八木大志さんに、排泄(おむつ)に関する課題や自立支援の考え方、歯科との接点などについて、歯科医師であり現代美術作家の長縄拓哉先生が掘り下げて伺いました。

「知った者が責任者」おむつに関わるようになった経緯

長縄 八木さんが理学療法士の職を離れ、おむつに関心を持たれるようになったきっかけは何だったのでしょう。
八木 理学療法士として、クリニック、訪問リハビリテーション、施設などで4年間勤務しました。その後、居宅や施設などで生活動線上に手すりなどを設置する環境整備の仕事がしたくて、建築会社に勤務しました。その会社では、おむつの給付事業を手がけていました。おむつの給付事業とは、市区町村によって実施されている福祉サービスの一つで、在宅で介護が必要な高齢者やその家族の経済的負担を軽減するために、紙おむつを支給する事業です。勤務する建築会社では、おむつ事業の人手が足りないということで、私も紙おむつの配達を手伝うようになったのが、おむつとの最初の出会いです。具体的には、1か月に500軒ほどの居宅を回って、紙おむつを配っていくという業務でしたが、いざいろんな居宅に行ってみると、トラブルが多くて驚きました。
長縄 それはどんなトラブルだったのでしょう。
八木 大人用の紙おむつは、通常「尿取りパッド(内側のおむつ)」を組み合わせて使うことが多いんです。理由は尿取りバッドだけを交換することで、おむつの取り換え回数を減らせるからです。介護者の負担軽減につながり、経済的なメリットもあります。尿取りパッドは1枚を紙おむつの中に入れれば良いのですが、2枚、3枚、多い時は4枚も重ねて入れているケースがありました。
長縄 尿取りパッドをたくさん入れる理由は、尿漏れを防ぐためですか。
八木 そうです。尿取りパッドをたくさん入れて、とにかく漏れを防ごうという考え方です。実際に尿が漏れて、衣服やシーツはもちろん、布団まで濡れてしまうと、介護者に大きな負担がかかります。
長縄 尿取りパッドをたくさん入れると、漏れなくなるのでしょうか。
八木 実はそんなことはありません。それどころか、逆に隙間ができて漏れやすい原因にもなります。適切な尿取りパッドを1枚、紙おむつの中に正しく組み合わせることで、漏れを大きく減らせる場合があります。ご家族の方はそれを学ぶ機会がないので、たくさん入れればいいという発想になってしまうのだと考えられます。「これは何とかしなければ」と思い立って、建築関係を学ぼうと思っていたのですが、おむつの方に走り出したというのが起業に至った経緯です。2016年から、主におむつの卸売や小売を行う「おむつ宅配便」という事業を始めました。
長縄 よくそのトラブルに気づかれましたね。
八木 おむつを宅配していると、1回に異常な量の尿取りパッドを発注されるご家庭が数軒あって、その理由を調べて判明しました。そのうちの多くの方に、IADと呼ばれる失禁関連皮膚炎が疑われる状態が見られました。いわゆる「おむつかぶれ」に近い状態で、かゆみや痛み、皮膚状態の悪化、二次感染などにつながることもあります。そうした皮膚トラブルが起こりやすい状況が見られたため、少しでも解決できることを目指して、「おむつ情報局」というサイトを開設し、おむつに関する様々な情報を発信するようになりました。「知った者が責任者」という言葉が私の座右の銘なのですが、今回の取り組みも「(トラブルの存在を)知ってしまったからには解決に向けて努力する」という思いが、全ての行動の原動力になりました。

おむつで人は変わる

    • [写真] パンツタイプの紙おむつ
    • [写真] テープタイプの紙おむつ
    紙おむつには、主にパンツタイプとテープタイプの2種類が存在する。左の写真はパンツタイプ、右はテープタイプの紙おむつ。おむつの取り扱いを学ぶ機会が少なく、介護職員の方でもおむつの取り扱いを詳しく把握できていないことが多い。

八木 大人用の紙おむつには、大きく分けると、テープタイプとパンツタイプがあります。テープタイプは、寝たきりの方が使うことが多く、パンツタイプは、歩ける、あるいは介助があれば歩ける方向けのものです。実際にある居宅でおむつ交換の現場に偶然立ち会ったことがありました。その方は、もともと寝たきりのような状態で、テープタイプの紙おむつを使っていましたが、それをパンツタイプに変えるだけで、その方が歩いてトイレに行けるようになったというケースを経験しました。この体験を早い段階でできたことから、「おむつで人は変わる」と感じて、そこからおむつにのめり込んでいきましたね。
長縄 なぜ、おむつが変わるだけでトイレに行けるようになるのでしょうか。
八木 テープタイプは組み立て式で、寝た状態でもおむつを開閉でき、ズボンを脱がさずに交換できるんです。そのため介護者などが交換する際に、とても簡単で手間が少ないというメリットがあります。しかし逆に本人がテープタイプのおむつを交換するのは難しいんです。一方、パンツタイプは歩行もしやすく下着感覚で脱ぎ履きができますし、トイレに行って自分で新しいおむつに履き替えることもできます。その理屈を知らずに、「交換しやすい」という理由でテープタイプの紙おむつを選んでしまい、結果としてトイレに行けなくなっている方もいらっしゃいます。
長縄 なるほど。知識さえあれば、変わる可能性があるということですね。
八木 そうなんです。テープタイプの紙おむつを選択することが、結果として本人の動作やトイレ移動の機会を妨げる場合があります。
長縄 さっそく勉強になりました。
八木 赤ちゃんは妊娠から生まれるまで1年近くの期間がありますから、その間に母親などがおむつに関する知識を得ることができます。しかし介護の場合は「待ったなし」で、おむつを付けた状態で病院から退院してきたら、入院中と同じタイプのおむつを使い続けてしまう場合があります。病院ではテープタイプの紙おむつを使うことがあるため、退院後はテープタイプの紙おむつのままで良いかどうかは見直す必要があると思っています。
長縄 介護支援専門員(ケアマネージャー)がアドバイスをくださることはないのでしょうか。
八木 その場合もありますが、家族の方が近所のドラッグストアなどで紙おむつを購入することが多く、紙おむつを選定する主体が家族になっていることも課題の一つです。皮膚トラブルもとても多いので、本来は医療介護職が主導権を持つ必要があると思いますが、おむつを日用品のような感覚で捉えてしまっているところに問題があると感じています。
長縄 歯科の場合は、歯科衛生士が専門家の立場から口腔ケア用品に関するアドバイスを行います。そのため、歯科衛生士が口腔ケア製品について学ぶ機会は多いと思います。それをおむつに置き換えると、おむつの専門職はやはり看護師さんになるのでしょうか。
八木 看護師や介護福祉士の方になるのかもしれませんね。ただ、看護師は膨大な業務を持っています。また、介護福祉士も、三大介護(食事・入浴・排泄)を考えると、食事と入浴はほぼ日中に終わるため支援しやすいのですが、排泄は時間とは無関係な生理現象ですから、ご家族がサポートするケースが多いことは調査結果からもわかっています。そのため、在宅介護における排泄の問題は介護職からは抜け落ちてしまって、ご家族任せになっているという現状があります。
長縄 おむつに関していろんな課題がありますね。その中で、特に八木さんが感じる喫緊の課題とは何でしょう。
八木 医療介護職でもおむつの取り扱いを十分に理解されていないことが多いことでしょうか。IAD(失禁関連皮膚炎)のような皮膚トラブルをはらんでいるものなのに、医療介護職がきちんと選定、指導できていないことが課題だと感じています。医療介護職の教育課程の中にも排泄ケアに関する内容は含まれていますが、おむつに関する詳しい解説は今のところあまり見られません。今後は教育の段階でおむつに関して少しでも学んでもらえるように、必要なところに働きかけていきたいと考えています。
長縄 一見、歯科とは無関係に見えるこの対談も、『デンタルマガジン』に掲載されることで、それをご覧になった歯科医師や歯科衛生士さんが、排泄やおむつに少しでも関心を持っていただければ嬉しいですね。特に八木さんのような方が一緒に活動してくださることで、歯科の可能性が広がっていくように感じます。
八木 そうですね。「おむつ情報局」の勉強会にも、歯科衛生士さんが参加してくださることがあり、とてもありがたいですね。

[写真] 長縄拓哉 歯科医院にもおむつを履いた方がたくさん来院していると思います

PROFILE
長縄 拓哉

1982年愛知県生まれの歯科医師(医学博士)であり現代美術作家。2007年東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病院、デンマーク・オーフス大学での口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)研究を経て、口腔顔面領域の感覚検査器を開発。IADR(ボストン、2015)ニューロサイエンスアワードを受賞。現代美術の特性を応用し、医療や健康に無関心な人々や小児のヘルスリテラシーを向上させ疾病予防をめざす。

[写真] 八木大志 おむつ交換ができるトイレが街に増えれば誰もが安心して外出することができます

PROFILE
八木 大志

理学療法士として4年間の臨床経験を積んだ後、他業種へ転職。転職先では約2年間にわたり、紙おむつの給付事業に携わる。2016年に大阪府で紙おむつの宅配業を開業。2019年に「おむつ情報局」を立ち上げ、オンライン勉強会を積極的に開催。これまでに累計8,000人以上が参加している。同年に旭区トイレ美化委員会として日本トイレひと大賞の準グランプリを受賞。2025年6月24日には、大阪・関西万博にて世界最大規模のおむつイベント「O-MU-TSU WORLD EXPO」を実施。

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