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患者さんの普段の生活の中にこそ嚥下障害に取り組むヒントがある

大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 助教 田中 信和

目 次

  • [写真] 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 助教 田中 信和
    大阪大学歯学部附属病院
    顎口腔機能治療部
    助教 田中 信和

近年、急速な高齢化に伴い、嚥下機能が低下することで、誤嚥性肺炎をはじめとする重篤な症状を引き起こす例が多く見られるようになりました。そこで、長年嚥下障害の治療や研究・教育に携わって来られた大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部の田中信和先生に、嚥下障害への取り組みや、その対応法などについてお話を伺いました。

顎口腔機能治療部の概要

顎口腔機能治療部は、主に口蓋裂術後の音声言語障害を担当する部門として、1973年に発足しました。現在は、その知識と経験を活かして、口腔機能全般の治療に携わっています。外来診療には、嚥下外来(摂食嚥下障害)、スピーチ外来(構音障害)、睡眠歯科外来(睡眠呼吸障害)、ドライマウス(口腔乾燥症)という大きな4つの柱があり、主に口腔における疾患ではなく、「障害を診る」という点が当治療部の大きな特徴です。
患者さんは、外来で来られる方の他、当病院の口腔がんセンターの患者さんや、医学部や他の医療機関、最近では歯科医院からの紹介も増えています。いわゆる高齢者歯科や口腔外科ではありませんので、生まれて数か月のお子さんから百歳を超える方まで、幅広い年齢の方が来院されます。その中で障害の診断や評価、リハビリテーション、また、治療やリハビリテーションが難しい方への支援が当治療部の主な取り組みになります。

疾患ではなく障害を診る難しさについて

嚥下障害は、保険病名としては存在しますが、脳卒中や認知症、パーキンソン病などの別の疾患が主要因で生じることが多いことを指します。いわゆる「ムセ」や「誤嚥」、「食べ物がうまく飲み込めない」、「のどに残ってしまう」などの症状に対して、評価を行い、対応として治療や訓練を行うことが一般的です。それはすなわち、脳卒中や認知症、パーキンソン病などの治療を行っているわけではありません。こうした疾患は基本的に今の医学では、症状を和らげたり、コントロールすることはできますが、基本的には治らない、治せない疾患がベースにあります。嚥下障害はその疾患から発生する障害であり、私たちはその障害に対してアプローチしていきます。嚥下障害には、治せるものと治せないもの、もしくは改善できるものとできないもの、改善できたとしても、その程度はまちまちです。そう考えると、残った障害や治らないものに対して、どういう医療を提供していくのかは難しい問題です。
原因となる疾患によって、嚥下障害の内容や程度、たどる経過はそれぞれ異なり、検討すべき対応方法も変わってきます。そのため、原因について深く追求することは、とても大事なことだと思っています。

  • [図] 嚥下障害
    嚥下障害は、様々な疾患が主要因で生じる症状であり、その疾患によって、嚥下障害の対応法も異なってくる。
  • [図] 嚥下障害
    嚥下障害は多くの場合、その原因となる背景疾患を改善することが困難。そのため、疾患から生じる障害(症状)へアプローチすることにある。

まずは嚥下障害の原因を突き止める

私が入局した当初、顎口腔機能治療部では、例えば「むせる」という症状に対して、とろみ食を試してみたり、嚥下訓練を行ったり、嚥下障害に対していわゆる一般的なアプローチを行っていました。しかし、それらのアプローチは有効ではあるものの、例えばパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、進行性の疾患の場合、どれだけ訓練しても疾患の進行による機能低下に抗うことが難しいケースも一定数存在します。
当治療部のことを聞いて来院される方のうち、なぜ食べられないのか、嚥下障害の原因がわかっていない人が多くいらっしゃいます。まずはその原因を突き止めて、その病気が全身にどういう影響を与えているのかを掴めないと、嚥下障害に対する的確なアプローチを提供することはできません。そのため当治療部では、最初に問診を取って、まず患者さんの訴えと症状を確認し、その症状の原因を探るところから始めます。
例えば、一昨年に口腔機能低下症を疑うということで、ある歯科医院から紹介されて来た患者さんに、VF(嚥下造影検査)を行った結果、占拠性病変が見つかり、消化器内科で精密検査を行ったところ、食道がんだったというケースがありました。当治療部では、問診と診察に加えて、必ず身体的所見を取り、その時点でどんな系統の病気が疑われるかを診断前に予測し、その後の検査によって確かめるということを行っています。もちろん確定診断をつけることはできませんが、「この症状はこれまでの経過から見て、〇〇の病気なのかもしれない」と思えば、疑う病名や見られる症状、特徴などの申し送りを添えて、該当する診療科、例えば耳鼻科や消化器内科、神経内科などに振り分けられると、診断がついて治療の精度が上がることもあります。患者さんにとっては、「なぜそういう症状が出るのかわからない」という不安や恐怖があるので、診断がつくことで安心され、状況が一歩進展することもあります。嚥下障害の嚥下の部分だけにフォーカスしてもなかなか解決に至るケースが少なく、問診や診査によって症状の根本を見極め、適切なところにいかにバトンパスできるかが大切だと考えています。

問診の大切さ

いつからどんな症状が出ていて、それがどんな速度で進んでいるのか、あるいはどんなタイミングで発症するのか、などの情報を得るだけでも、ある程度の特徴は掴むことができます。そういう意味からも、問診はとても重要です。ただし、漫然と問診を取るだけでは、患者さんは「歯医者には関係ないことだろう」と思って話さないこともよくあります。しかし、実際には服用している薬剤が原因で、噛めなくなったり誤嚥するなどの嚥下障害が起こることも少なくありません。嚥下機能に影響を与える薬剤としては、向精神薬の種類が多いのですが、今自分が困っている症状とは無関係だと患者さんが勝手に思い込んでいたり、あとは単純に言いづらいということもあるかもしれません。「何か薬を飲んでいますか」と聞くだけなのと、「不安を鎮めたりするような薬を飲まれていませんか」と詳しく聞くのとでは、患者さんから返ってくる答えが全く違ってきます。そうした問診の取り方の技術は、当治療部の諸先輩方にずいぶん鍛えられました。

  • [グラフ] 口腔機能の低下を主訴に受診した高齢者の調査[写真]
    口腔機能の低下を主訴に受診した高齢者の調査(当治療部の初診患者の外来調査結果から 左:紹介元、中央:初診時点での原因疾患の有無と内訳、右:未診断例における、当治療部の診察で判明した原因疾患の内訳、老年歯科医学 第40巻第3号P179-180の掲載図より改変)。「口腔機能の低下」を主訴に当治療部を受診した高齢者は、歯科からの紹介が多くを占めた。また受診した者の半数は機能低下の原因が判明しておらず、診察の結果、多くに原因疾患が存在していたことが明らかとなった。このことは、全身疾患の初発症状を「口腔機能の低下」と捉え、歯科を受診する人が多いことを示唆している。

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