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Lecture

連載:歯科衛生士に必要とされる医科の知識<第5回>緊急時の対応②

京都光華大学短期大学部歯科衛生学科 講師 尾形 祐己

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目 次

  • [写真] 京都光華大学短期大学部歯科衛生学科 講師 尾形 祐己(歯科衛生士、看護師)
    京都光華大学短期大学部歯科衛生学科
    講師 尾形 祐己
    (歯科衛生士、看護師)

はじめに

前号(デンタルマガジン197号)では、院内急変時に共通する「初動の型」を解説しました。本稿では、歯科衛生士が実際に歯科診療で遭遇する可能性が高い急変について、「何を疑い、どう動くか」という実践的な視点でポイントを整理します。現場では正確な診断を待つのではなく、疑った時点で対応を開始することが最も重要です。
※現場では、施設内で定められた手順と歯科医師の指示に基づいて行動してください。

見逃せない状態(心停止の可能性)

急変時の対応は、前号で示した「初動の型」に沿って進めますが、その中でも特に見逃してはならないのが心停止の可能性です。

確認:反応がなく、普段通りの呼吸がない(死戦期呼吸を含む)場合は、心停止を疑い、対応を開始します。

行動:直ちに胸骨圧迫を開始し、AEDの準備を行います。歯科医院内では、応援要請(119番通報やAEDの手配)と並行して一次救命処置(BLS)を開始できるかが重要であり、対応の質を大きく左右します。応援を呼ぶ際は「〇〇さん、119番をお願いします」と具体的に名指しで指示を出すことが確実な初動につながります。

ポイント:胸骨圧迫時は、患者を仰臥位(水平位)とし、安定した状態を確保します。チェアユニット上では、沈み込みにより圧迫の効率が低下することがあるため、チェアユニットを水平かつ低い位置に調整し、床からの反力を確保します。必要に応じてチェアユニット背面の下に丸椅子などを入れて支持する、あるいは患者を床へ移動させるなど、環境に応じた対応を検討します。また、スタッフの動線を確保し救急搬送に備えるため、外付けの超音波スケーラーや口腔外バキュームなどの機器を速やかに整理し、チェアユニット周囲のスペースを確保することが重要です。

状況別対応:適切に「疑い」、行動する

次に、歯科診療で遭遇しやすい急変への対応ポイントを整理します。急変対応では、「原因を見極めること」よりも、「状態の変化を捉え、速やかに行動すること」が重要です。

① 失神(血管迷走神経反射)

歯科診療で頻度の高い急変です。局所麻酔時や処置への不安・緊張が誘因となります。

サイン:顔面蒼白、冷汗、めまい、徐脈、血圧低下、悪心(吐き気)など

対応:仰臥位(水平位)にし、タオルやブランケットなどを用いて下肢を挙上し(図1)、脳血流を確保します。衣服の締め付けを緩め、安静を保つことで多くは回復します。ただし、嘔吐の兆候がある場合は、誤嚥を防ぐために直ちに顔を横に向けます。意識の回復が不十分な場合や経過が不自然な場合は、他の原因も念頭に対応を継続します。

② 低血糖

糖尿病患者において、食事の未摂取やインスリン・薬剤の影響、処置によるストレスなどを契機に生じることがあります。

サイン:発汗、ふるえ、動悸、頭痛、脱力感、けいれん、意識障害など

対応:意識の有無で対応が分かれます。

・意識あり:速やかにブドウ糖を経口投与します(ブドウ糖タブレット、ブドウ糖を含むジュースなど)。口唇と歯肉の間にブドウ糖を塗布する方法もありますが、実施にあたっては誤嚥に十分注意が必要です1)。摂取後は症状の改善を確認し、安静を保ちます。改善が不十分な場合は追加投与を検討します。ブドウ糖タブレットなどは患者が携帯していることもあるため、診療前に確認しておくと対応が円滑になります。

・意識障害あり:誤嚥の危険があるため、基本的に経口投与は行いません。直ちに応援要請を行い、歯科医師の指示のもと対応します。必要に応じて救急要請を検討します。

③ アナフィラキシー

薬剤投与後に発生し、生命を脅かすことがある全身性のアレルギー反応です。局所麻酔薬の投与、抗菌薬や鎮痛薬の使用、ラテックス(ゴム手袋など)への曝露が主な誘因となります。

サイン:皮膚症状(発疹・掻痒)、口唇や眼瞼の腫脹、喉の違和感、呼吸困難、血圧低下など

対応:迅速な対応が必要です。処置を直ちに中止し、119番通報を含めた救急要請を行います。体位は仰臥位で下肢挙上を基本とし、呼吸苦が強い場合は無理のない範囲で上体を挙上します。ただし、血圧低下がある場合は循環維持を優先し、仰臥位を維持します。歯科医師の指示のもと、アドレナリン(院内備品や患者携帯のエピペン®など)を速やかに準備します。あわせて、バイタルサインを継続的に評価し、状態の変化を見逃さないようにします2)。

④ 過換気症候群

精神的緊張、不安、疼痛などを契機に呼吸が速く激しくなり、血液中の二酸化炭素濃度が低下した状態です。

サイン:速く浅い呼吸(あえぐような呼吸)、手足や口唇のしびれ、手指の攣縮(いわゆる「助産師の手(図2)」)、強い不安感など

対応:「単なる過換気だ」と自己判断して対応を続けることは危険です。過換気によく似た呼吸の乱れは、アナフィラキシーなど他の重篤な急変でも起こり得ます。そのため、ただちに歯科医師へ報告し、状態の評価を仰ぐことが歯科衛生士としての最も確実で安全な初動です。その上で、安心できる環境を整え、落ち着いた声かけを行いながら、呼吸をゆっくり整えるよう促します。特に呼気を意識させることが有効です。なお、従来行われていたペーパーバッグ法は現在推奨されていません。

  • [写真] タオルやブランケットを利用した下肢挙上の例
    図1 タオルやブランケットを利用した下肢挙上の例
  • [写真] いわゆる「助産師の手」
    図2 いわゆる「助産師の手」
  • [写真] 緊急時対応セット
    図3 緊急時対応セットは、薬剤の使用期限を含めて定期的に確認する。

まとめ

急変対応では、「何が起きているか」を考えつつも、「救命のための行動」を止めないことが重要です。前号で示した「初動の型」をチームで共有しておくことが、対応の質を安定させます。これらの対応を円滑に行うためには、日頃からスタッフ間で役割分担(リーダー、胸骨圧迫、通報、記録など)を共有しておくことが不可欠です。また、救急物品や緊急時対応セット(図3)を定期的に確認しておくことも重要です。医療安全管理の観点からも、歯科衛生士が緊急時の対応に常に関心を持つことは、歯科医院全体の安全性と医療の質を高め、強固な「チーム医療」の実現につながります。

参考文献
  • 1) 松村香織:病気をもった高齢者が歯科に来院されたときに読む本 知っておきたい! 全身疾患と薬の基礎知識.クインテッセンス出版株式会社;2022:42.
  • 2) 見﨑徹・伊東隆利・渋谷鑛 編著:フローチャート式歯科医のための救急処置マニュアル 第6版.医歯薬出版株式会社;2022:72-75.

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